生芋こんにゃく本来の美味を、
伝統そのままにお口へ届ける。
「永源寺こんにゃく」

永源寺こんにゃくを芋からつくりたい。
秋が深まり、紅葉がはじまるこの時期。関西屈指のもみじの景勝地といえば滋賀県の永源寺だが、ここにはもうひとつ代表的な名物がある。永源寺こんにゃくだ。開祖である寂室元光が大陸からこんにゃく芋を持ち帰ったことが起源とされ、以来、精進料理や家庭料理として浸透。そのおいしさから、全国に名が轟くほどの評判に繋がったという。
意外なことに、昔はこんにゃく畑がわずかしかなかったというから驚く。名産品の原料をつくる生産者が足りない。そこに違和感を持ったのが「もみじ農園」を運営する端さんだ。もともとは銀行員。まったくの未経験でありながら、芋からこんにゃくをつくろうと決心したとか。情熱と行動力に、ただただ感心させられるばかりだ。
思いがけない貴重な出会いと、良好な栽培環境。
まずは実際の産地に学ぼうと、日本一のこんにゃく生産地である群馬県を視察することにした。
縁とは面白いもので、畑や栽培の様子を撮影していると、こんにゃく芋の生産者として群馬で1、2を争う人に声をかけられたのだ。その上、栽培方法を一から教えてくれるという。
永源寺という地域も、こんにゃく芋の栽培に最適な環境であった。
根腐れしやすいこんにゃく芋は水を嫌うが、鈴鹿山麓に位置するこのエリアは傾斜が強く、おのずと水はけに優れる。
そして、良質な水。昔から生活を支えてきた、鈴鹿山で磨かれたミネラル豊かな清水も、上品な風味と食感に彩りを添える。
こんな偶然があるだろうか?こんにゃくをつくることが、端さんの運命だったというしかない。
風と病気に悩んだ、こんにゃく芋の栽培。
最初は失敗の連続だった。
知識を身に付け、風土に恵まれても、そう簡単にできるものではない。
こんにゃく芋は、とてもデリケートなため栽培が難しいのだ。
強風で葉っぱ同士がこすれ合うと傷がつき、そこから病気が伝染することも珍しくない。予防のため、夏は1週間に1回ほど薬品で葉を保護する作業が必須。広大な圃場では大仕事になる。
また、台風が来ると簡単になぎ倒されてしまう。最悪の場合は、全滅する年もあるほど。
「密に植えればお互いに支え合って風には強くなりますが、半面病気がうつりやすくなる。この加減が悩ましい」と、端さんは漏らす。
もちろん手間もかかる。収穫した芋の実は、すぐにこんにゃくにはできないのだ。まず1年目に実った芋を種として植え、2年、3年と植え替える。そうして、いよいよ3年目の秋。大きく育ち、しっかり栄養を蓄えたものが、やっとこんにゃくとして使えるようになる。
さらに連作ができず、1度芋を育てた畑は3年間使えない。毎年、別の畑へ移さなければならないのだ。
「こうした煩わしさも、こんにゃく芋の生産者が増えない一因かもしれない」と、端さんは予想する。
徹底した伝統製法が叶える本物の味。
最近は、こんにゃくを乾燥した粉で作る業者も多い。水と混ぜるだけで簡単にできるが、当然ながら味や食感は落ちてしまう。
もちろんもみじ農園は、100パーセント生芋。
こんにゃく芋は、新芋ほど水分が多い。こうした性質をはじめ、その日の気温や湿度に合わせて練り時間も水の量も変える。「この調整が難しい。経験を重ねる以外にありません」。
さらに伝統製法にこだわる。
代表的なのが、「バタ練製法」だ。砕いたこんにゃく芋と水を合わせて糊状にした後、箱の中で羽根を回転させて練り上げる昔ならではの手法。こんにゃくに気泡が入るため、調理時に味が入りやすく、サクッとした独特の歯ごたえが魅力だ。
こんにゃくを茹でる時は風味を損なわないように、わざわざ薪と釜を使ってじっくり仕上げる。
ここまで丁寧に丹精込めたこんにゃくだ。やっぱり一味違うと購入者は口を揃える。
「子どもが、もみじ農園のこんにゃくしか食べない」というファンも多くいるとか。
シンプルな食材だからこそ、本当においしいものは誰にでもわかるのだろう。
未経験からはじめて、この品質。誰にもできることではない。
想像を絶する努力の賜物であることはもちろんだが、改めて、こんにゃくをつくる運命だったとしか思えない。
[取材日:2022年10月12日]


こんにゃくを茹でる薪は、地元の工務店が提供してくれる廃材を利用。労力は相当なもので、湯が沸くまでの時間も長い。その苦労もすべて品質のため。「燃料費は実質無料なので、こんにゃくの値段へ還元しています」という言葉に嬉しくなる。


こんにゃく芋はアクが強いため、動物に狙われることがない。獣害に強いため、中山間地域でも育てやすいのがメリット。一方で風に弱く、夏場の大きく成長する時期に台風が来たら被害は計り知れない。


バタ練製法は、この機器で行う。箱の中の羽根が回転して、糊状になったこんにゃく芋を練り上げる様子が分かる。

もみじ農園のこんにゃくは、一般的なものよりも大きい。もともと、こんにゃくを切る木の枠はこのサイズだったが、市販品は徐々に縮小されていった。道具が金属に変わった現在も、その大きさが基準。大抵の人はびっくりするとか。

人気のこんにゃくづくり教室は、自由研究目当ての小学生や、お子様連れのファミリーで賑わう。薪を斧で割るなど、もみじ農園ならではの体験も特徴だ。また、企業や自治会への出張も行う。


こんにゃく料理店「しきろ庵」を営業していたが、コロナ禍を受けて現在は休業中。「料理店は夢でしたし地元貢献にもなりますから、早く再開したいですね」。永源寺で芋を育て、こんにゃくをつくり、料理も味わえる。そんな農園をめざして意欲を燃やす。※写真は営業当時の人気メニュー
生芋こんにゃく本来の美味を、伝統そのままにお口へ届ける。「永源寺こんにゃく」
- 取材協力
- もみじ農園
- 〒527-0211 滋賀県東近江市永源寺相谷町1185
- tel:0748-27-0713 fax:050-5801-4812
- mail:info@konnyaku.jp
- https://www.konnyaku.jp/
- 事業内容:こんにゃく芋の栽培および加工・販売。
[ 掲載日:2022年11月21日 ]