型にはまらない飼育環境と飼料で、
規格外の美味を育む。
「桃色吐息」

名は体を表す。その姿は文字通り「桃色吐息」の美しさ
桃色吐息と聞いて何を連想するだろうか?真っ先に思い浮かべるのが高橋真理子さんのヒットソングだろう。ところが姫路市で同じ質問をすると、「豚肉」と返ってくるかもしれない。この地で東原畜産が手掛けるブランド豚「桃色吐息」は、姫路を代表する名産品のひとつとして名を馳せる。思わず息が漏れるほど鮮やかなピンクの肉は、まさに桃色吐息の名の通りだ。
上品でほのかに甘い脂が、おいしさを決める
東原畜産は約4000頭の豚を出荷するが、桃色吐息になれるのは約1割に絞られる。
「どれほど技術があっても、全頭がブランドの品質になるわけではありません。だから能力がありそうな豚を厳選して、特別な飼育をすることで桃色吐息へと育てていきます」。
あまりにも狭き門だ。一体どのような味わいなのだろう。
「豚肉は、赤身ではなく脂身でおいしさが決まるんです。試食イベントでは、シャブシャブにして何もつけずに食べてもらうのですが、皆さん『脂が甘い』と言われます。桃色吐息に限っては、ポン酢やゴマダレで食べて欲しくないですね」と東原さんは胸を張る。
食感はしっとりとまろやか。上品な風味が際立つ。脂は口の中でサラリと溶け、しつこさはまったくない。逆に言うと、とんかつには、ちょっと物足りないという。
「私は生産から食べるまでの全部に責任を持ちたいと思っています。いい食材も調理を間違えたらおいしくありません。だからきちんと伝えたいのです」。
ブランド豚に明確な定義はないため、曖昧なイメージ訴求や当たり前の話をことさら大げさにアピールする生産者もいる中、東原さんはどこまでも誠実だ。
徹底した餌と飼育方法と環境。すべてが揃って桃色吐息に
多くの舌を魅了する桃色吐息の味わいを支えるのは、餌と飼育方法、そして環境だ。中でも大切にしているのが餌。オリジナルブレンドは当たり前だが、その素材が何ともユニークなのだ。まず、市販の飼料にはほぼ含まれない大麦や小麦を贅沢に配合。これは肉質を引き締め、上質な脂身を生み出すために欠かせない。加えて、なんと洋菓子やラーメンなども入れるという。おいしいものや甘いものが好きなのは豚も同じ。食欲を増進し、発育が良くなると教えてくれた。製品にできない不良品や破片を飼料に再利用することで、環境にも貢献する。
また、餌のやり方にも独自の工夫が光る。多くの養豚場は、常に餌が給餌されているが、東原さんは朝のみの1日1食。ここにも大きな理由がある。豚は高い学習能力を持つため、このタイミングを逃したら明日の朝まで餌がないことを学ぶのだ。つまり、朝になっても起きて来ない豚は体調が悪いということ。コンディションをすぐに把握でき、早期発見・早期治療で常に健康を維持できる。病気などで亡くなることはほぼないという。
豚舎の清潔さも類を見ない。多くの養豚場は床におが屑を敷き詰めるが、ここはコンクリート敷きで水洗いができるよう整備。1日に3回もの清掃を行う。しかも、夏場は豚用にシャワーまで完備。快適な空間でストレスを軽減することによって、肉質の上向を図る徹底ぶりだ。
そして、通常より長い肥育期間で仕上げていく。一般的な豚は取り引き規格に合わせて180~200日齢前後で出荷となるが「それでは若すぎて味が浅い」と東原さん。桃色吐息は肉の旨味を精一杯引き出すため240日齢まで成熟させる。
規格を越える飼育期間が、規格外の美味を育む
規格を越えて育てるため流通が難しく、現在取り扱うのは「石井精肉店(姫路市夢前町前之庄1365)」と「AMCやました肉店(姫路市飾磨区今在家4-305-1)」のみ。規格外というと言葉は悪いが、この場合は“規格外の旨さ”というというわけだ。
味わうには、この2店舗で購入するか市内のレストランに足を運ぶしかない。あまりにも希少な美味に幻の豚だという人もいるとか。
桃色吐息を食べる。それだけでも、姫路を訪れる目的になりそうだ。
[取材日:2025年4月4日]



餌には、カロリーを上げるためにノンフライのラーメンやパスタも入れるという。なんとグルメな豚だろう(笑)。「うちの餌は人も食べられる」と東原さんは笑う。ここまで餌にこだわる養豚場は、ほかに聞いたことがない。


厳選した素材は独自の機械でブレンドされる。豚の成長に合わせて配合比率を変えるなど、緻密な気配りが随所に光る。

豚舎では、ひとつの区画に10頭ほど入れて、ゆったりと育てる。この中から桃色吐息になれそうな豚を見極めて選別。候補生は豚舎の2階に集められて、長期間飼育される。

夏場は定期的に豚もシャワーで清潔を徹底。一目で汚れていないことがわかる。住宅街の真ん中にあるからこその気配り以上に、豚への気遣いが感じられる。

きれいにサシが入ったピンク色の肉は、まさに桃色吐息の名の通り。上品な味と相まって芸術品といいたくなる姿を誇る。





西日本豚枝肉コンテストで3年連続優秀賞を獲得。出場する豚を選べるコンテストでは、高品質な一頭が生まれればチャンピオンになれる。しかし連続となると話は違う。安定した品質を保ち続けていることの証明だ。
型にはまらない飼育環境と飼料で、規格外の美味を育む。「桃色吐息」
- 取材協力
- 東原畜産
- 兵庫県姫路市野里二本松51
- 事業内容:ブランド豚「桃色吐息」、兵庫県産豚肉「月のあかり」の生産。
[ 掲載日:2025年5月20日 ]