エコみかん

生産者:村木 基済さん
大阪府堺市

みかんは、消費量トップの座をバナナと競うほど日本人に好まれている果物だ。なじみのあるのは温州(うんしゅう)みかんと呼ばれる品種。柑橘類のなかでも比較的寒さに強く、関東以南の温暖な地域で広く栽培されており、これから旬を迎え春まで楽しめる。

産地として知られるのは和歌山、愛媛、静岡(実際、この三県で50%近い生産量を占める)。けれど、大阪の南、和歌山寄りの泉州地域でも温州みかんが明治時代から作られていると聞いて、みかん農家の村木基済さんを訪ねた。

「本格的に作り始めてからでも90年余」という村木家のみかん山は、大阪府堺市と和泉市をまたぐ丘陵地にある。「とりあえず上へ行きましょうか」と、軽トラに乗せられた。轍をはずせば崖下へころげ落ちてしまうような山道を四輪駆動だからぐんぐん登っていく。

頂まで来ると、丘陵とはいえ眺めがよい。大阪湾の関西空港から遠く明石大橋まで望める。日当りもよさそうだ。「裾に見える集落を別所(べっしょ)といいます。ここらで穫れるみかんは、別所みかんと呼ばれ親しまれてきました」と村木さん。

しかし、別所のみかん作りは高度成長期の1960年代がピーク。有田みかんが市場を席巻するのとリンクするように下降の一途をたどる。今やこの地域でみかんを栽培する農家は村木さんを含めて数軒になった。しかも、消費者の嗜好が多様化するにつれ、品種も数多く手がけなければならなくなっている。

村木さんのところでは、温州みかんに加え、マンダリン、デコポン、アマナツ(甘夏)、ハッサク(八朔)やスダチを育てる。他に、クリ、スモモ、カキがあり、イチヂク栽培もしてる。みかん山はさながら果樹の自然植物園といった様相だ。

さらに、泉州地域では泉北ニュータウンをはじめ大規模な住宅地開発が続いて行なわれ、環境も大きく変わった。1970年代から始まった移入は、20年で一帯の人口を20万人近く増加させたことからもわかるように、すさまじい。みかん山以外で平地にあった畑は「気がつけば、住宅地の中に取り残されていた」という有様。

環境の変化は農業のあり方まで変えた。村木さんは「住宅地に早くから直売所を設け、消費者と直に接してきました」と話す。その結果、求められているものがわかってくる。「必ずしも流通サイドの規格にあうものを作らなくてもいいと気がついたのです。かたちが不揃いでも、土が付いたままでも、新鮮で良いものを提供すれば喜ばれる。それを1年通してできるよう、いろんなものに取り組んでます」。

今では、喜ばれる基準に安心という項目が加わる。村木さんの農地は住宅地に隣接したロケーションを生かし、観光農園として活用されているが、人を招く配慮も必要だ。「子供たちが穫ったその場で口にしても大丈夫なように、安心して食べられるものを作らないといけない」という方向になっていく。

こうした変遷の成果が、エコみかんだ。先代から受け継いだ温州みかんの木を大切に守りつつ、農薬を減らしながら栽培してきたみかんが、大阪府の定めるエコ農産物の認証基準をクリアー。エコみかんと呼ぶことが認められた。

呼称だけでなく味の追求も忘れない。村木さんは「コクがあり糖度も高くなるよう、イワシエキスやカツオエキスを散布したり、酵素を入れてみたり、おいしいエコみかんを目指している」という。ひと味ちがうみかんを作るための努力は続く。

村木さんのように、環境の変化、嗜好の変化に応じながら生き残る生産者には、それなりの理由がある。観光農園といえどもあなどることなかれ。

[2010年9月24日取材]

村木さんのみかん山から、中腹あたりに立った眺め。みかんの木など果樹が繁る丘陵の間に見える集落が別所。
樹齢50年の温州みかんの木。こうした古くからの樹木が多い。
今年のみかんの成育具合を確かめる村木さん。
収穫されたみかんは、某所にあるみかん蔵で熟成される。蔵の中は大きな引き出しで効率よく納められるようになっている。ここから10月から3月上旬まで順に出荷されるという。
みかん山にあるクリの木。自然栽培に近いが、毎年、大きなイガグリがなるという。別の畑ではイチヂクが収穫期をむかえていた。

エコみかん

大阪エコ農産物認証制度
http://www.pref.osaka.lg.jp/nosei/syokunoanzen/ekonousanbutsu.html
平成13年12月発足。農薬の使用回数、化学肥料(チッソ・リン酸)の使用量が大阪府内の標準的な使用回数・量の半分以下になるよう設定された基準をクリアーして栽培される農産物を「大阪エコ農産物」として大阪府が認証するもの。平成22年4月現在、府内38市町村において、3,059件(生産者1,030名、面積約457ha)が認証されている。(大阪府環境農林水産部農政室推進課の資料より抜粋)
取材協力
東果大阪株式会社 / http://www.toka-osaka.co.jp/

[ 掲載日:2010年10月5日 ]