あんぽ柿

秋の味覚、柿には甘柿と渋柿があり、生産者は栽培のみならず、収穫後に行なう渋柿の脱渋(渋抜き)も腕のみせどころとなる。
例えば、干し柿は、皮をむき陰干しにして、渋抜きされたものだ。そうした昔ながらの方法に加え、近年は機器類が充実し脱渋の技も大きく進展。多彩な柿の加工品が生まれている。この時期、売り場に並ぶ生食用の 「たねなし柿」と呼ばれる四角い柿は、ほとんどが渋抜き処理を施された半加工品なのである。
市場関係者によれば、その通称「たねなし柿」はスーパーなど一般市場での需要が年々伸びているとか。人気の理由として、今や甘柿と区別がつかないほどの味になっていることが挙げられる。というようなレクチャーを受けながら、柿の名産地、奈良県五條市西吉野町(旧・吉野郡西吉野村)へ向かった。
訪問先は、果樹農家の堀内農園。吉野で地域をあげて柿栽培が始められた大正頃からの柿園を受け継ぐ、堀内俊孝さん・奈穂子さん夫婦に話をうかがう。
「現在、吉野の柿の主力品種は、甘柿の代表格、富有(ふゆう)柿。歯ごたえのある程よいかたさと、ジューシーな甘味が売りです。昭和初期から普及と伝えられていますが、うちには樹齢100年を越える柿の木もあり、まだ実が穫れますよ」。
俊孝さんは、堀内家が代々手塩にかけ育ててきた柿の木とともに、渋柿の平核無(ひらたねなし)柿など多品種を育て、加工にも意欲的に取り組む。果樹園を見渡せる小高い地に、商品開発と加工のための施設「grove(ぐろおぶ)」を設置。堀内農園も会社組織にするなど、新しい農業経営のかたちを確立しようと努めている。
「安心できて、かつ、おいしい果実を作るために、土壌を改良し、農薬を減らし、有機肥料を使うなどは農家として当然のこと。これからは、そうした手間のかかる農業をいかに持続させられるかが大事になる」と俊孝さん。
堀内農園では、その持続の鍵になるのが加工品だ。なかでも、力を入れているのは「あんぽ柿」作り。従来のあんぽ柿は、硫黄で燻蒸して脱渋させたものだが、俊孝さんは何年もかけて試行し、温風だけで渋抜きする方法を完成させた。
「あんぽ柿は、一種のドライフルーツ。渋抜きの原理がわかれば、温風で出来ると考えたのです。温度の設定とかける時間の管理がポイントですが、添加物なしで作られるし、温風だからカビをおさえることができる」と俊孝さん。
出来上がると冷凍庫に入れて保管。順に解凍して出荷している。「注文を受け、クール宅急便で発送するのですが、届くころにはシャーベット状になって、それもおいしいと好評なんです」と奈穂子さん。
あんぽ柿は干し柿よりも水分の多いのが特徴という。試食させてもらうと、皮肌がしっかりしてるのに中はトロッとした食感。干し柿とは違って瑞々しく、渋味もなくて、おいしくいただけた。
堀内農園の柿は、奈良や京都の料亭でも使われているそうだが、あんぽ柿はさらにフレンチや洋菓子店へと取引先を広げているようだ。柿は12月くらいまでだが、あんぽ柿は4月まで食べられる。同じ手法で、富有柿から作る加工品、柿チップはオールシーズン対応だ。
堀内農園では、南高梅、ブルーベリー、カリンなども栽培し、それぞれの加工品も手がける。従来の果実栽培(果実を育て収穫し出荷すること)と、商品価値を高めた加工品作り、その2つが柱になることで新しい道を開こうとしているのだった。
[2010年10月25日取材]







あんぽ柿
- 取材協力
- 東果大阪株式会社 / http://www.toka-osaka.co.jp/
[ 掲載日:2010年11月8日 ]