冬穫りトマト

トマトには、春から夏、秋から冬、ふたつの旬があると、流通関係者に教えられ、この時期に出荷される冬穫りトマトを栽培している生産者を訪ねた。
市場では、トマトといえば夏の定番野菜というイメージはすでに払拭されつつある。品種改良が進み、多品種あること。適度な陽射しは必要だが、高温多湿を嫌う故、ハウス栽培に適していること。などの理由で、今やほぼ年中、スーパーに並ぶ。
近年は、糖度を高めたフルーツトマトをはじめ、味も大きさも多様なトマトが出回っている。また、トマトのもつ、うま味成分・グルタミン酸が見直され、だしとして鍋など様々な料理に使われるようになった。おでんの具にもなっているらしい。
生食に向いているだけでなく、使い勝手がよい。しかも、甘くおいしいとなれば、食指も動く。加えて、情報も行き交う。健康に与する栄養成分の情報以外に、イタリアンでの使い方など調理に関する情報、うま味成分・グルタミン酸の情報、等等。
例えば、関西食文化研究会のイベントでは、だしなどにいかに有効かなどトマトがたびたび話題になった。同会コアメンバーの村田吉弘さん(京都の老舗料亭「菊乃井」主人)が、実際に、テレビ番組などでトマトを使う場面を見かけたりする。その他、有用な情報は、NHK番組「ためしてガッテン」など、探せばいくらでもある。
もちろん、こうした需要を促すのは、生産者や流通関係者の地道な努力があればこそ。と、結論めいた話を先にするのは、今回訪ねた寺本農園で、実感したからだ。
寺本農園は、大阪府高槻市で代々続く農家。今は、トマト専門になって二代目。父や兄と共に働きながら、これからを担う、寺本豊さんに話をうかがった。
「祖父が、冬場にトマトを育てようと、ハウス栽培を始めたのです。この地域では、初めての試みだったようで、ハウスといっても竹組みだったと聞いてます」
50年程前というから、昭和30年代。寺本さんは27歳なので、生まれる前の話だ。
今では、高槻地域に同じトマト専門農家も増え、大阪の都市部近郊にあるトマト生産地として知られるまでになった。現在は、地域の名を冠して「三ヶ牧(さんがまき)トマト」と総称するブランドで、さらなる売り出しを図る。
「誰もやっていないことをやる」精神は、父から子へ受け継がれているようで、寺本さんは、父がトマトを育てる姿を目にし、早くから農業を志したという。大学も農学部を卒業。そして、家業を継ぐべく、畑に入って5年目になる。
「現場では、学んだこととのギャップをすごく感じているところです。同じ地域なのに、畑がちがうと育つ品種もちがってくるのです」といいつつ、いろいろ試しながらの畑作りがおもしろいと話してくれた。
寺本農園のハウスは、畑の土でトマトを育てる。通風をよくするために、ハウスは開け放つこともあるという。水耕栽培の管理されたハウスとは趣が異なるが、それだけ露地栽培に近い状態で育てている。地面は、浸透性の高いシートで覆うから雑草は生えないけれど、有機肥料の配合、防虫や潅水などと気をつかうことは多い。
試行の結果、「冬穫りのトマトは、麗容という品種があっているようです。完熟させた赤い実で穫れますし、その分、コクも酸味もきいたトマトになります。これから、育った順に収穫し、出荷は年を越して来年の6月くらいまでいけそうです」
案内してもらったハウスでは、アイコ、小桃、オレンジチャームなどのミニトマトや玉三郎という大玉もいっしょに育てられていた。春からの主力品種はマイロックという。「端境期は夏場の2,3ヶ月だけで、年中トマトとつきあってます」
寺本さんは、鮮度のよい状態で食べてもらいたいから、あくまで地元での販売に力を入れたいという。各種のトマトを袋詰めにして販売している集荷小屋には、周辺各地から買い求める人が訪れる。
地売りだけでなく、新しい取引先の開拓にも積極的だ。料理人との付き合いも多く、ハウスに直にトマトを穫りに来る人もいるそうだ。その他、トマトの無添加コンフィチュールなど加工や、他の食材との組み合わせにも力を入れていきたいと話す。
祖父から始まったトマト作りが、若くて新しい風とともに発展していく。生産者と料理人、生産者と消費者というように新しい関係の広がりにも期待したい。
[取材日:2011年11月30日]




冬穫りトマト
- 取材協力
- 東果大阪株式会社
http://www.toka-osaka.co.jp/ - 寺本農園の三ヶ牧トマトは、以下の「一品一会」で購入できます。
- http://item.rakuten.co.jp/1pin1e/
*ご利用される場合は、直接お取引ください。 - 参照
- ・同HP、関西食文化研究会のアーカイブ(過去のイベント、食材研究)もご参照ください。
・NHK番組「ためしてガッテン」の食に関する番組内容は、以下をご覧ください。
http://www.nhk.or.jp/gatten/archives/
[ 掲載日:2011年12月14日 ]