こめ油

食用植物油脂のひとつに「こめ油」がある。その生産者、築野食品工業株式会社を訪ねた。植物油には、実や種を潰して油を搾り出すみたいな手工業的なイメージを思い浮かべていたのだが、訪ねてすぐ、安易な想像は見事に覆させられた。今回は、いつもと異なり、スケールも大きな工場見学になった。
こめ油は、脱穀した後の玄米そのものから搾取するのではなく、米糠と胚芽が原料という。米糠は、精米するときに出る外皮や胚芽の削り粉である。いわば、白米にした後の残り滓、と思っていたら、これもとんでもない認識不足だった。
同社の佐野次長は「米糠になるのは玄米の約10%。でも、そのなかに、油以外に使える有効成分が多様にあり、資源の宝庫なのです」と話す。研究開発によって生まれた製品も多いとうかがう。医薬・化粧品原料、食品添加物、工業用原料などが挙げられるけれど(詳細はHP参照)、こめ油の話を聞くだけで精一杯である。
「油がとれるのは米糠の約18%。それをさらに精製して、こめ油にします」玄米と米糠の比率でもわかるように、こめ油は玄米100kgから1kgほどしかできない。
精製とは、余分なものを取り除き純化させていく工程で、原油から石油や天然ガスを製造するのと同じ。高圧蒸気による超大型脱臭装置とか、周囲を太いパイプがくねくね並ぶ光景は、この工場がまさに製油プラントであると教えてくれる。
でも、食用油は、あくまで食品だ。「原料は、米糠と胚芽のみで、何かを混ぜたり添加したりはしていません。化学的な化合物とはちがいますから、精製するほど天然由来のピュアで、身体に優しい精製植物油ができるのです」と佐野次長。
因みに、日本にはサラダ油と呼ぶ油がある。日本農林規格(JAS)の基準(例:低温で一定時間経っても凝固や白濁がないなど)をクリアーできる品質の求められる食用油なのだが、築野食品工業の家庭用こめ油は、すべて“こめサラダ油”でもある。
特徴として、200℃を超える高温でも安定し、油酔いの元となる成分の発生が少ないので、揚げ物や天ぷらに適していること。酸化しにくいから、風味も保て長く使えることなどが挙がる。「なにより、クセのない食用油として使ってもらえます」と佐野次長。クセがないから食材のうま味も生きる。食用油は、こういう使用感というか機能性が大事なようだ。
それに、植物油のなかでも「コレステロールの吸収阻害成分や抗酸化作用のある成分、植物ステロール、ビタミンEなどの天然成分が高い含有率を示しています」その原料の米糠は、鮮度が落ちやすいから、近場で仕入れ、すぐに抽出処理をおこなう。国産原料品でもあり、もちろん、米はアレルギー物質を含む特定原材料ではない。
そうした安心感もあり、近年は学校給食用の需要が増えているという。「栄養士さんの口コミで広まったようで、地域も全国規模になっています」と佐野次長。
原料は日本人の主食とする米にして純国産、機能性に富み、身体によい成分が多様で安心。それなのに、こめ油が普及しているようにみえないのは何故だろう。
佐野次長は「本格的にこめ油の生産が始まったのは昭和以降。それから200社くらいあった同業者も、最終製品を製造しているのは、今では当社を含めて5社に淘汰されています。それほど、こめ油は製造工程に手間がかかり、質の良いものを作るのが難しいのです」と話す。
それは、逆説かもしれない。食用油にも選択肢が増えるほど、こめ油の価値が際立ってくるはずという自信の表れのような。築野食品工業の歴史、現態勢、生産現場の様子など垣間見たに過ぎないけれど、知るほどにそう思えてくる。料理人から、こめ油がプレミアムオイルとして広まっていくのも近いような気がする。
[取材日:2013年5月2日]




こめ油
- 取材協力
- 東果大阪株式会社
http://www.toka-osaka.co.jp/ - 築野食品工業株式会社
- http://www.tsuno.co.jp/
- 参照
- ・農林水産省の植物油の作り方
http://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1111/spe2_02.html - ・農林水産省の食用植物油脂品質表示基準
http://www.maff.go.jp/j/kokuji_tuti/kokuji/k0000223.html
[ 掲載日:2013年5月13日 ]