徹底した健康管理が産む
極上のコクと甘み。
「白鳳卵」
代表取締役社長 阪本未優さん 専務取締役 阪本雅さん

かつて江戸時代には高級品として扱われた卵だが、現在では簡単に入手できる食材の代表となった。それもそのはず、日本全国を見渡すと10万羽以上を飼育し、大量生産する大規模養鶏場がシェアの大半を占める。一方で、小規模ながらも一羽一羽に気を配り、特徴ある風味にこだわる生産者がいることも事実である。奈良県の「さかもと養鶏」がつくる白鳳卵も、そんな卵のひとつ。水や飼料、飼育環境はもちろん鶏の体重にまで配慮する非常に稀有な養鶏所だ。
さかもと養鶏の創業は約50年前。現在は、姉の雅さんと妹の未優さんの姉妹を中心に、養鶏から販売まで一貫して手がける。2014年までは二人の父である阪本光志さんが運営していたが、突如大病が発覚。当時、雅さんは広告デザインの会社に、未優さんは栄養士として勤務していた。そこへ、家業を継ぐか、たたむかの決断を迫られた。社会人経験がわずか3年しかない20代の若者には重すぎる問題。苦悩の末、家族の幸せを第一に考えて出した答えは、継続だった。
手がけるのは光志さんが手塩にかけて開発した「白鳳卵」。「当時は何もわからず、不安しかありませんでした」。二人は振り返るが、確かな品質は2016年に県内の品評会で1位を獲得したことでもわかる。
美味しさの秘訣はどこにあるのだろう?生産現場を担当する未優さんは毎日の観察がすべてだと言い切る。
「元気を保つ基本は、鶏も人間も変わりません」。一羽一羽に注ぐ眼差しは、まるでわが子に接するようだ。特に体重管理を重視するのが、さかもと養鶏ならでは。週に一度は測定する徹底ぶりだ。鶏にも週齢によって適正体重があり、小さすぎると病気に弱く、大きすぎると肥満になる。脂肪が増えると卵が産みにくくなり、時には腹水が溜まるなど体調不良を起こすという。欲しがるだけ食べさせるのではなく、一日にどの栄養をどれだけ与えれば健康を保てるのかを意識する。栄養士の経験を持つ未優さん独自の視点だ。
鶏糞の状態も見落とせない要素のひとつ。私たちも腸が悪いと体調が崩れる。便秘や下痢は、わかりやすい兆候だ。栄養を吸収する健やかな腸は、卵の質を高めるだけでなく、骨盤も開きやすくなり産卵量の増加にもつながるとか。
鶏たちが発信するあらゆる情報から健康状態や飼育環境を見極め、餌の量やカロリーを緻密にコントロールする。ここまでするからこそ、他にない卵が誕生するのだと思い知らされた。
給餌に最善を尽くしていることはわかった。では、実際にどのような餌なのだろうか。「白鳳卵は『甘さ』『濃厚なコク』『臭みのなさ』が最大の魅力です。市販の飼料では、それらが出せませんから独自配合しています」と、雅さん。
さかもと養鶏が理想とする味を飼料メーカーに伝え、栄養成分やビタミン・ミネラル、カロリーについてお互いに意見を出し合いながら共に開発するという。試作ができると、鶏の体調、卵重、卵の味を確認。納得できなければやり直す。
信頼できる取り引き先とのチームワークも白鳳卵を支える柱だ。
成分で絶対に妥協できない素材が、黄身の甘さを決定づける「動物性たんぱく質」。魚を原料にした魚粉を使う生産者もいるが、魚臭さが出てしまう。さかもと養鶏では鶏由来の原料であるチキンミールを採用。高コストではあるが、甘さは白鳳卵の生命線だ。事実、味分析に出したところ、一般的な白卵に比べて約2倍も甘いことが科学的に証明されている。
充分に吟味した最良の飼料。てっきり、いつまでも使うものだと思ったが定期的に見直すらしい。なぜか?「鶏も品種改良されて時代と共に変化します。それなら、餌の成分も変えるべきです」。
さすが栄養士、頷くしかない。
手間暇かけた白鳳卵。まずは卵かけご飯で味わってみたい。「何をありきたりな」と笑うなかれ。これこそ卵の真価を確かめる王道の賞味法。一口で納得した。阪本姉妹の言葉に嘘はない。大量生産の卵に慣らされていた舌が、本来の味覚を取り戻すようである。
[取材日:2019年12月3日]






徹底した健康管理が産む極上のコクと甘み。「白鳳卵」
- 取材協力
- さかもと養鶏株式会社
- 奈良県五條市中之町480-1
- tel:0747-26-5005 fax:0747-26-5011
- mail:sakamoto.yokei@gmail.com
- https://sakamoto-yokei.com/
- 事業内容:特殊卵および鶏糞の製造・販売。オリジナル調味料の販売。
- ※写真は、奈良食べる通信の提供。
[ 掲載日:2020年1月20日 ]