これからの飲食事業

長年飲食業に携わり、これまで新たなコンセプトを立ち上げてきた経験もあり、業界にどっぷりつかってきていますが、自分の身を寄せている業界を俯瞰して、見つめなおすことが近頃よくあります。 先般は生産効率の悪さを料理のサイエンス化で見直すことのできる可能性をどのように感じているかを話しましたが、今回もそのことに関連してお話しできたらと思います。
私の知る限りヨーロッパなどでは新たに飲食店を開業することは大都市は別かもしれませんが、なかなか難しく、開業の為の許可枠がある程度決まっていて、長年職業として経営してきた店主は、退職金代わりにその権利を売却することで得て、国からの年金と合わせて老後を楽しむといった将来設計のもと日々活躍していると聞いたことがあります。
この話が本当でなくとも、このような制度が日本にあれば業界はどうなるのでしょうか。
個店の競争力が落ちて食文化のレベルが落ちてしまうでしょうか、はたまた確実な将来設計が出来る業種として若い世代の業界参入者が増えるのでしょうか。
何よりも世界にも稀な自然の素材に恵まれ、独自の食文化を形成してきた日本の飲食業界を今後も世界トップレベルで保ってゆくには、しつかりとしたプラットホーム作りと公明正大評価基準や第三者認証団体等の認証などによる制度の生産者保護などなどの整備は不可欠であることは間違いなく、此処個人の努力のみに頼った文化維持は大変難しい時代になってきているのだと思います。
日本の多くの職人文化の継承について真剣に考えないと、今既に継承者がいなく消えていく技能技術が ある現状を憂い、取り返えせるうちに行動を起こさないと「日本」そのものが消滅してしまうのではと想像を膨らませてしまいます。などと思いつくまま書き連ねてしまいました。
[掲載日:2017年10月3日]
山根 大助氏が何度も読みたい本
仕事柄、専門雑誌や趣味の雑誌を読むことが多い。情報としてはタイムリーな生きた情報を得るには雑誌は優れている。もちろんネットも含めればさらに早い情報を得ることができる。
本を読むということは、単に情報を得るということとは違って、作者の意図や思想、哲学により深く接することだと思う。
本と雑誌の一番大きな違いは時間の長さだと思う。本は読むのに費やされる時間も長いし、市場や本棚に置かれている時間もはるかに長い。それだけ長時間の鑑賞にたえる(時間の経過による劣化や陳腐化の少ない)内容と深さを要求されるということだ。
小説にせよ専門書にせよ、一冊の本は熟読して時間をかけてじっくり考えるチャンスを与えてくれる。それに対して、雑誌やネットからの情報は、瞬間的にキャッチする反射運動のような感覚がある。 本には、時間が経ってから読み返す楽しみもある。こどもの頃や若い時、そして最近と何度か読み返してみるとその都度、まるで違う本を読んでいるかのように驚くこともしばしばある。そう言う意味だったのか!と初めて納得することもある。
これも長い時間の間に人間が成長や経験値により、本から受け取るメッセージが変わることに起因しているのだろう。つまり、良い本は長い時間を共に過ごすことのできる先生であり、友人なのである。
推薦書籍
- ①イタリア式料理の知恵 (アンジェロ ペレグリーニ著)
- 20世紀初頭、イタリアの田舎からアメリカに移民した少年アンジェロ。彼はイタリア時代に当り前すぎて気付かなかった「良さ」や「本質」に気付く。それに対して当時のアメリカの食事情が、現代の世界が抱えている食問題を既ににおわせているところが興味深い。
- ②すごい!日本の食の底力 新しい料理人像を訪ねて (辻芳樹著)
- 日本の食事や食習慣の特殊性や、守られてきた伝統的な食品や調味料が、今、世界の料理が向かおうとしている先に日本料理や日本の料理人たちを、向かわせる。そのゴールにとても近いところに日本の料理人は居る。
- ③和食の知られざる世界 (辻芳樹著)
- 今でこそ、かなりの理解をもらえるようになった日本の食の世界だが、ほんの30~40年前にはファーイーストのエスニック料理に過ぎなかった。おそらく日本と言う国や文化も、同じように変わった人々と言う程度の認識だったと思われる。そこから現代のように一定の理解を得られるようになる過程を、芳樹少年の目を通してうまく描かれている。これからの未来を示唆する。
「ポンテベッキオ」オーナーシェフ
山根 大助氏