料理はアート?デザイン?

山根 大助氏
「ポンテベッキオ」オーナーシェフ

「料理はアートかデザインか」、とよく言われるが、はっきり断言できる。 料理はアートではない。デザインである。

モダンデザインとは、機能美の追究と虚飾を排することを軸とした考え方で、その結果、生まれる美しさを良しとする。空から落ちてくる水滴の形、それは空気抵抗と重力の影響を受けた水滴が自然にとった形で、流線型と呼ばれる。まったく無駄も隙もない美しい形で、初期の飛行機や自動車に取り入れられた。あくまでも空気抵抗を減らすため。
戦闘機やレーシングカーはとてもかっこいいけれども、かっこよく作ろうという意図はなく、早く走れる、飛べる、戦闘力が高いなどの機能性の向上に徹した結果、生まれてきた形であろう。これが即ち機能美である。

これをそのまま料理に当てはめると、美味しさの追求と言うことになる。食材の良さを生かし切り、余計なものを排して最低限の構成にする。
それはおそらく一皿の中で本質を追求することとほぼ同じだと思う。

素材を科学し、その本質と特性を知り、最適に調理すること。そして最適調理済みの食材をいくつか組合せ、それぞれの相乗効果で高みに昇ることを目指す。
自分の経験や嗜好性を生かして、味つけ、香りづけをし、料理に仕上げる。
虚飾を配して、ミニマムの要素で本質が何であるかを明確にする。
そう考えるとやはり料理はモダンデザインと酷似している。

これに対して、アートとは、作者の内面や嗜好や思想を具現化することである。
例えばデザイナーにとっての椅子は、機能性に優れていなければならないが、アーティストの椅子は、極端にいえば座れなくてもよく、機能性は求めていない。つまり、アートには目的がない。
デザインには明確な機能に対する目的がある。だから料理はアートではなく、デザインなのである。

食べるということは、自然からの恵みや命をもらうことであり、それらを弄んで、ただおもしろいとか、飾りや形容詞を省いたときに見える本質がぶれていたりする皿を、僕は認めない。

[掲載日:2017年11月1日]

村田 吉弘氏が何度も読みたい本

僕は本をよく読みます。料理人にとって、本を読むことは大切なことだと思います。技術はもちろんですが、自らの思考を整理し、考えを組み立てる、新しい気づきを得るなどなど、本から学ぶことは図りしれません。
日本料理というカテゴリーにあって、今まで当たり前のように行ってきているさまざまなしきたりも、改めて歴史を学ぶことによって、理解が深まることもあるでしょう。いつも話していますが、料理人は料理だけするのではありません。器、室礼、哲学、すべてのバランスの中で、お客様に喜んでいただけるように努力する。そのための知識は、自ら学び、取り入れていかなければなりません。その大切な要素のひとつが本です。
僕は稲盛氏の本をたくさん読みました。そして、生き方や経営の哲学についても多くを学ばせて頂きました。ジャンルを問わず、いろいろな本を読んだ方がよいと思います。

推薦書籍

①マギーキッチンサイエンス」(ハロルド マギー著)
料理と科学の理屈がここには体系的に書かれています。辞書のようにも使えます。
②「典座教訓」(道元禅師著)
「いのちを頂く」という日本料理の基本の考え方は精進料理から。
僕の教科書のような一冊です。
③「生き方」(稲盛和夫著)
どのように生きるか、を学んだ本です。公利のために料理をする、という僕の考え方の基本は稲盛氏の本から学んだことです。

「菊乃井」3代目主人
村田 吉弘氏