ポジティブな側面を見つける

フリーランスで、料理の分野を中心とするライターをしています。フリーになる前は、料理界向けの専門誌で編集長を務めていました。気付けばこの世界に20年以上身をおいてきたことになります。
その間、レストラン業界を取り巻く環境は大きく変わりました。そして近頃の最大の課題といえば、やはり労働環境と、人手不足が挙げられます。とりわけ、若い頃は労働時間も上下関係も修業を経験したものの、現在はその感覚をスタッフに求めることができなくなった「はざま」の世代(つまり現在40〜50代の現役シェフ世代)の悩みが大きいようです。
かくいう私も、「はざま」世代です。新人記者時代は現在の60歳前後のシェフたちに鍛えていただき、その後は現在の50代、40代のシェフたちに共感しながら成長しました。自分自身の仕事である編集者としても、新人時代は厳しい環境で学び、編集長となってからもその感覚が抜けず、手痛い失敗を経験したこともあります。ですので、近年の料理界の変化は、私にとっても人ごととは思えない、という感覚でいます。
そこで、「変化の背景には何があるのだろうか?」、そして「これから何をすればよいのか?」ということを、自分なりに整理してみることにしました。
背景についてですが、かつてと今とで最も違うのは、若い年齢層の人口です。参考に人口ピラミッド(2020年)を見ても(グラフ)、上の赤い四角で示したシェフ世代(45〜55歳としています)と、下の赤い四角で示した修業中(20代)の人口差は明らかです。
計算すると、約6割となります。これだけ減っていれば状況も変わる、と納得できるのではないでしょうか。労働環境、そして労働条件がよくならなければ人手不足は続くはずです。せっかく好きでこの道に入ってきた若い世代を全力で育てる、というくらい、上の世代の歩み寄りが必要なのでは、と思います。
社会経済状況の違いも、レストラン業界に大きな影響を与えます。40〜30年前まではブームと相まって、グルメなレストラン市場は拡大を続けていました。25年前も、その余韻はレストラン業界に残っていたように覚えています。メディアも、スターシェフの魅力と勢いを伝え、大いに盛り上がっていました。現在とはずいぶん違います。
しかし見方を少し変えれば、今の料理界にもポジティブな側面を見つけることはできるようにも思います。
まだ数は少ないかもしれませんが、フラットな雰囲気の中でスタッフがのびのびと働いている店もあります。また、今の現役シェフ世代は、「ずっと先送りにされてきた労働環境の問題を解決してくれる世代」という捉え方もできます。大いに期待されている存在です。これからの世代の幸福につながる、やりがいのある仕事に取り組むチャンスと言えます。
また、大きな課題を取り除くために描く計画は、マイナスをゼロにする以上の効果、つまり大きなプラスの実現とセットになっていることが多いものです。たとえば2010年前後、世界のトップシェフたちに大きな影響を与えた、北欧発のニュー・ノルディック・キュイジヌーヌ運動(コペンハーゲンの「noma」による、ガストロノミー界の席巻につながった流れです)。この運動は、疲弊していた北欧の食環境を改善しようと、突破口を探したのがそもそものスタートでした。
考え方ひとつで、状況を変えることは可能なはずです。メディアに携わる人間として、その一助になりたいと考えています。
[掲載日:2019年10月1日]