アフターコロナに向けてレストランが考えるべきこと

山根 大助氏
「ポンテベッキオ」オーナーシェフ

2月から始まったコロナ禍の影響は、当社にとっても非常に大きく存続の危機を迎えた。
全店賃貸しているうえ、大阪でも中心地の物件ばかりなので家賃負担が大きいのと、スタッフもアルバイトを含めると100人程度抱えているので、ひと月の損失額がかなり大きく、6月までの損失としては軽く億単位に昇ってしまう。

自粛期間中ずっと休業していたのは商業施設の2店舗だけで、他店は2週間程度と比較的短い期間で済ませた。2週間の間も、新人と比較的若いスタッフに向けての研修に充てたり、普段できない作業や整理などに費やした。長期間、店を閉めているとスタッフのモチベーションも下がり、店自体が死んでしまうので、雇用調整助成金をアテにせず、出来る限りソーシャルディスタンスに気を使いながらの営業とした。
もちろん、4月5月は当然のことながらお客様の数はとても少なく、開けていないほうが赤字は少ないくらいであった。6月に入り、第2週くらいから客足がかなり戻ってきて、後半は通年の7、8割、月を通して65%と想定よりは上回り、ほっとした。
6月以降の営業をアフターコロナの始まりと考えると、傾向が少し見えた気がする。

①土日祭日型の傾向。企業が外食を自粛しているので、プライベートのお客様が中心となり、結果、その傾向が強まっていると思う。今は自粛期間が終わったことの反動と、国民一人一人に給付金が支払われるということで、余剰金を消費に向けている個人が多いのだと思う。
②ソーシャルディスタンスが比較的とりやすい店に、お客さんが集まる。当店はどの店も比較的広いので、特に北浜本店や西梅田店はかなりの面積を有しているので(それでも結構席を間引いたが)、広々していることがお客様に安心感を与えているのだと思う。
③新規のお客様が多い。一時的かもしれないが、顧客の利用がそこそこなのに、新規のお客様が増えている。おそらく外食への渇望と給付金などの余裕が作用していると思われるが、予約が何か月先しか取れない予約困難店などが、その需要をまかないきれていないことと自粛期間中に飲食店の情報を収集した人たちが来てくださったのだと思う。
④比較的大人数の需要は減少していたが、7月に入って少し回復傾向が見える。やはり、プライベートだからか、そんなに人数は多くない。
⑤アルコール飲料の需要の減少。お酒を飲むことや、密着してわいわいする食事形式が減り、交通手段として電車を避け、車で来ている人が多いように思う。
⑥滞在時間が比較的短い。営業時間を短縮していたのも要因のひとつだが、アルコールを飲まないなど、食事が終わってしばらくすると帰られる方が増えた。さらにもう一軒飲みに行かれることが、減少していると思われる。

これらの傾向を検証して、アフターコロナに向けて考えたこと。

①土日祭日にスタッフを集めて人件費の配分効率を高めることができる。ただし、ある程度の席数があることで、少なくとも土日祭日に平日の2倍以上の売り上げを確保しなくてはならないが、これに関しては比較的広さがあり、席数も多い当店は有利ともいえる。
②広さが有利に働いている。
③2年ほど前からカスタマーズカードを発行し、お客様の来店頻度や召し上がったメニューなどを管理している。会員には特典をさまざま設け、来店を促している。今回、新規のお客様が数多く来てくださっているので、カード会員を増やす事を積極的に進めている。今までの傾向を見ても、カードをお持ちの方のリピート率がかなり高いので、これを顧客獲得のチャンスと捉えている。
④大型店舗が減少傾向にあり、カウンター10席程度の店が増えているのは、SNSなどの影響も大きいが、ここできちっとしたサービスのある比較的大きな店舗の良さを見直し、その必要性を訴えることで、需要を喚起できないかと考えている。比較的大型の店舗が減少すれば生き残った店に需要が集中するはず。
⑤多くのソムリエたちはワインを飲んでくださるお客様を大事にしてきた。しかし、体質的に飲めない人や、運転や会社などからの規制により、飲めない人はたくさんいる。この人たちが、ただ水を飲みながら食事をしたいわけではない。要は、食事と共に飲みたいノンアルコールの飲み物があまりにもないので、水で終わってしまうのだ。レストランにおけるノンアルコール飲料の開発は急務であり、食事の味を損ねず、可能であるならばより高める飲料があれば、かなりの需要があると思われる。
⑥2軒3軒とはしごする人が減っている。これは、自粛の意識がまだまだ強いせいだと思う。それならば、レストランでゆっくりしていただいて、少し飲んでもらうとか、楽しみを1軒に凝縮すればよいのではないか、と考える。何によって楽しみ、余韻が残り、十分な満足を与えられるか。それをレストラン1軒で済ますことができるように工夫をすれば良いのではないかと考える。当店では長期保存しているワインや食後酒などを、サプライズでグラスワインサービスし、お楽しみいただいている。飲めない方には小さなプレゼントを差し上げている。

その他、今こそ各店の持つ強みや存在価値を再発見し、磨く努力が必要だと考える。
旅行などを自粛する傾向が続く間、レストランのレジャー化はますますその傾向を強めている。なので、食器にこだわったり客の目前での料理提供のエンターテインメント性を上げるなど、楽しみをより充実させる必要があると思う。

今回のコロナ禍により、損失がかなり大きかったが、一度商売そのものをリセットして、新たな時代に対応しなければならない。事業規模の縮小なども必要かもしれないが、まず生き残ることが先決であり、まさにサバイバルな状況下にあるが、供給過剰な店の淘汰もおそらく必要だったのだと思う。当社が生き残れるかもわからない状況ではあるが、生き残らなければ享受できる実りも未来もない。

現状や将来に不安を抱えている従業員の雇用をできるだけ確保して、モチベーション高く、仕事に励んでもらうことが、とても重要だ。その協力なくして現状の維持もアフターコロナに向けてのリカバリーも繁栄もあり得ない。
比較的ヒマな今、コミュニケーションをできるだけ取り、勉強する機会を与え、職場の雰囲気を明るく保ち、この期間が彼らの未来に大いに役立つようにしたいと考えている。

[掲載日:2020年7月10日]