食は人となり-You are what you eat-

和田 有史氏
「立命館大学 食マネジメント学部」認知デザイン研究室 教授

英語に「You are what you eat」という言い回しがある。「健康は食べ物で決まる」、という意味があるが、「食は人となりを表す」という意味も含む。美食家として有名なブリア=サヴァランも「美味礼賛」の中で「ふだん何を食べているのか言ってごらんなさい、そしてあなたがどんな人だか言ってみせましょう」と述べている。こうした信念は古くから様々な文化圏で存在しているようだ。

我が国では草食系・肉食系という言葉が少し前に流行した。Wikipediaで調べてみると、草食系と関連した草食男子は“恋愛に「縁がない」わけではないのに「積極的」ではない、「肉」欲に淡々とした”男子。肉食系は“恋愛や異性との関係に積極的な人”であるとのこと。食べ物のイメージに草食動物がのんびりと草をはむ姿と肉食動物の猛々しい姿の対比が付加された連想であろうが、草食動物が肉食動物よりも恋愛に淡泊であるという証拠はなさそうだ。しかし、妙にしっくりくるのがおもしろい。

物事には真偽はどうあれ様々なイメージがつきものだ。心理学ではこれをステレオタイプと呼んでいる。私たちが行ったステレオタイプの研究では、日本人ではとんかつ・ステーキ・牛丼・ラーメンには男性的、パスタ・サラダ・果物・ケーキなどには女性的なステレオタイプを持っていることを確認した。

こうした直感的なイメージは科学的ではないとして、一笑に付されることも多い。しかし、人間の判断や行動はイメージに知ってか知らずか左右されることは確かであり、心理学者や商売人にとってはおもしろいトピックだ。かつてカウンターのみの店舗で男性客がほとんどであった牛丼屋がテーブル席を設けて店のイメージを一新し、女性客や家族づれを取り込んで躍進したこともある。科学的根拠のない風習であっても、数の子が子孫繁栄の縁起物としておせちに入っているなどと伺うと、子孫の幸せを願う祖先の気持ちや子供たちの未来を思ってほっこりした気持ちになるし、勝負の前にとんかつを食べるのも気持ちのメリハリがついて楽しいではないか。気持ちは食べ物の味わいの大切な要素だ。

その一方で、ステレオタイプは人に不利益をもたらすこともある。例えば、日本人は新鮮な食材ならば何でも生で食べられると思っているきらいがある。刺身好きの影響だろうか。当然、むやみに生食をすると食中毒を起すリスクが高い。また食品添加物に対する消費者の嫌悪感を過度に意識してその使用を避けると、消費期限が短い商品が店頭に並ぶことにつながる。こうなるとフードロスにつながりそうだ。温室効果ガスや海洋資源などの環境問題や人口増加に伴う生産量の問題などはリンクしており、食を取り巻く社会には論理的に対処すべき事柄が山積みである。さらに、最近は新型コロナウィルス感染症の流行により、これまでに増して感染症対策を目に見える形で示していく必要も生じている。「食は人となり」、には、こうした問題に対する「バランスの良い配慮」も内包することになっていくのだろう。

[掲載日:2020年8月3日]