家族と親族と友人と

髙橋 拓児氏
「木乃婦」三代目主人

今年のキーワードは、「家族と親族と友人と」だと思います。正月早々、父、弟、従兄とゴルフに行きました。毎年、仕事で海外に幾度となく行く私も、昨年の3月以降は全く海外に行かず、それどころか東京やその他の地域への出張さえも限定的にしていました。普段は海外の有名なレストランや地方の日本料理店や割烹店など、知人と食事をしながら新しい考え方や面白い情報を享受してきました。それが今は一切なく、今ある仕事を丁寧に仕上げていくことに終始しています。

当然、店の事業規模は縮小し、新規採用も今までは毎年10名ほどでしたが、今年は2名の採用となりました。今年の需要予測から考えると直接的な必要性はないのですが、10年間の継続性を考えるととても必要な人材となります。今年、コロナ禍の影響もあり出勤日数が減少した厨房のスタッフの中には中途退社するものも出てきて、35名から27名まで減りました。しかし、スタッフが減ったことによって各個人の考え方や動きが今までよりもよく見えて、それぞれに対して的確な指示が出来るようになりました。料理やサービスの精度が急激に上がったように見受けられます。恐らく、彼らの危機感も少なからず影響していて、会社への依存度が高くなったように思います。

お客様はというと、目に見えるお客様ばかりのご来店とご注文です。出所が確認できるお客様ばかりです。来られたお客様はこう仰います。「久しぶりにいいお部屋でゆっくり安心してみんなで食事が出来ました。有難う。」月曜日から金曜日のお昼は奥さま方のご友人の集まり、金曜日の夜から日曜日のお昼と夜はご家族・ご親族のお食事で、日曜日の夜はいつも暇です。

会社の集まりと観光客が皆無なので平日の夜は団体客が全く無くなり、売り上げは全体の3割減です。つまり社用と観光客を合わせてそれくらいあったのだなと思いましたが、反対にそれ位なのかとも思いました。地元の固定客の需要が大きいことに気付きました。今後、新規顧客に対してのECも含めて勘案すべきですが、まずは7割のお客様に対してのアプローチを充実させる方向で進めていこうと考えています。

そんなことを考えていた矢先、先ほどの家族・親族との正月ゴルフでした。従兄はとても楽しかったらしくこんなメールが来ました。「とても楽しかったです!また、ゴルフ誘ってください。コロナ禍だから肉親の有難みは痛切に感じます。」従兄は嵐山で店をしていて、手作りのクッション等を製造しています。天龍寺や有名な料亭などにも座布団を納めています。普段からよく仕事の話もしていて、海外でのビジネスの話もします。従兄のお店も観光客の脚は止まり、専らECサイトとデパートでの販売で家族需要となっています。

私的な事では、両親を含めた家族といる時間が長く、様々な細かい内容に首を突っ込むようになりました。それが今は何故か楽しいのです。やはり、心を許せるところで過ごせることに満足しているのだと思いました。ゆっくりと家族個人々々の想いを細かく察することなく過ごしてきましたが、それらが見えるようになるとその時間の充実を求めるようになり、家族と親族を大事にしようと思うようになります。

食べるものが無くなった時に、まず自分の子供に食べさせる。家族を守り、絆を深める、そんな基本的な人間の行動規範が呼び起こされる時代なのだと感じました。来られるお客様、仕出しをとって頂けるお客様も潜在的にそのような親近感を求めてお越しになりますし、ご注文も頂いているのだと実感しています。その想いにお応えできるよう、心を込めてお料理を届けようと思いました。

[掲載日:2021年1月26日]