土の上に立ち 未来を想う

河北 卓也氏
河北農園

農業を生業にして二十四年。農家になって何が良かったのかと聞かれたら、自分の時間を自分で作ることが出来ること。休みたければ休めば良いのです。
しかし、種をまかなければ収穫をすることもなく、販売してお金を得ることもないことを知れば知るほど休めない。
農産物が育って収穫するまでの時間は長い。お米は、五月に田植えして稲刈りが九月なら五ケ月も無給で働くことになる。だから色んな野菜の種をまき、前年に収穫したお米を冷蔵庫で保存しながら小売りをして生活を成り立たせるわけです。
以前なら、秋に収穫したお米を自宅で食べる分だけ残し、すべて販売委託している企業にお願いして秋に一年分の収入を得ていました。

僕が農業を仕事にして三年くらいしたとき、友達になった酒屋を経営している方から、お店でお米を販売したいから売ってくれないかと言われたときから僕の農家としての方向性が決まったように思います。
自分で育てたお米や野菜を自分で販売したい。すべては自己責任における農家の自立。自ら土作りをして種をまき育てた農産物の価値を、他人に付けてもらうことは僕が思う面白い農業では無い。酒屋さんとお米の価格交渉を行い、再生産可能な価格設定をしました。
肥料、農薬、機械、農地の維持管理費、経費が払えない価格ではやる意味が無いと思ったからです。京都市内に僕の育てたお米を販売してくれる拠点が出来ると、お米を飲食店さんで使ってくれるところが増えてきました。
お米から賀茂茄子の販路が拡がり、河北農園の販売している商品のすべてではありませんが価格を自分で決めることが出来るようになってきました。
僕が思う面白い農業を二十四年かけて作りあげることが出来たことは、本当に今までお世話になった方々のお陰です。

僕の育てた賀茂茄子を一品に仕上げてくれる料理人さんの求めるものを育てたい。試行錯誤を繰り返し旨味のある賀茂茄子を育てています。しかし、コロナの影響で飲食店からの注文が激減してから、自分のやっていることには価値があるのか自問自答する日々が続いています。
野菜やお米の価格が安定している理由の1つが、飲食店が使ってくれていることで価格維持できていることが判明しましたね。
飲食店と共に歩んできた河北農園は、僕の育てた農産物を使いたいと思ってくれいるお店を信じます。きっと僕以上に苦しい経営をしているはずだ。苦しいときはお互い様です。
僕は土の上に立ち 明るい未来が来ることを願います。

[掲載日:2021年8月2日]