世界は蕎麦を待っている

私は料理人ではありませんが、日頃からシェフをはじめスタッフといっしょにメニューを考案しています。その話し合う場で大事なのは、各自が互いに同じ方向で考えられる基準となるものを共有できていることです。当社の場合、それが十割蕎麦になります。蕎麦はかくあるべしといった通のこだわりみたいなものをお客さんに求めたり押しつけたりするのではなく、十割蕎麦で蕎麦という食べ物を楽しく味わい、その良さを広く知ってもらうのがテーマです。
蕎麦は製麺しやすくするため蕎麦粉に小麦粉などを混ぜたりしますが、十割蕎麦に使うのは蕎麦粉100%です。しかし、蕎麦粉だけでは粘りが弱く細長い麺に切るには技術が必要です。当社では、こねた生地を入れさえすれば自動的に押し出して麺を作る製麺機を導入しています。そうして、スタッフの誰が作っても安定した品質の十割蕎麦ができるようにし、その上で従来にはない蕎麦の新しい味わい方を求めているのです。
そのひとつが、カフェ・スタイルの提案です。女性や若い人でも蕎麦をもっと気軽に食べられるように、店内を明るくお洒落な造りにしました。それが1999年神戸・三宮に開業させた『四季愛菜ダイニング』です。当初は、定食メニューを充実させ、そこに十割蕎麦の一品を必ず付け足すなどして多くの人に親しんでもらえる機会を提供することから始めました。
日本では蕎麦は古来から食されてきた伝統的な食べ物です。今では、和食のひとつとして認知されていますが、他方で「蕎麦打ち」と呼ばれるような手作りの技が伝承されるなど独特の蕎麦文化も根強く残されています。蕎麦屋には蕎麦前と呼ばれるサイドメニューが豊富なのも、蕎麦をおいしく食べてもらえるように先人が創意工夫を重ねてきたからです。私たちは蕎麦を学ぶなかで天ぷらが蕎麦とは相性のよい料理だと教えられ、創作天ぷらのメニュー開発にも取り組みました。2013年、神戸・磯上通りに十割蕎麦と創作天ぷらを打ち出したバル『ISOGAMI FRY BAR』を開店。続いて2016年には東京へ進出し、恵比寿に『EBISU FRY BAR』を開店させました。こうして機械式の蕎麦打ちと十割蕎麦で運営できる新しいビジネスモデルを確立させていったのです。
蕎麦粉を使った料理は世界各地にあります。それだけ蕎麦という食材の栄養や効能は広く知られていますが、グルテンフリーなのは十割蕎麦の強みです。当社では、無農薬で蕎麦粉を栽培する国内の農家と契約するなど事業をさらに強化。ここ数年はコロナ禍のために雌伏していますが、近い将来、十割蕎麦を日本が誇るヘルシーフードとして世界に認めさせたいと考えています。寿司やラーメンに続いて和の蕎麦を世界の食へ育ててゆきたいのです。
日本の握り寿司は、職人の優れた技とともに世界の食通に認められた価値を保っていますが、それに加えて回転寿司やシャリロボットのような機械化によって世界での市場を一挙に広げました。そうした二極化を前例にすれば、国内で広まる蕎麦打ち文化とは別に、当社ですすめる機械式の蕎麦打ちによるヘルシーな十割蕎麦を世界で広められる可能性は高いと思われるのです。今は、コロナ後に世界へ挑めるよう、準備を着実にすすめてゆきたいと考えています。



1970年兵庫県生まれ。大学卒業後水産商社に就職するが義父の経営する外食事業グループに転職、食にかかわる各種の業態で実績を重ねてゆく。転機となったのは十割蕎麦ができる自動製麺機の導入で、十割蕎麦をカフェ感覚で提供したり創作天ぷらと組み合わせるなどして新規事業を軌道に乗せる。現在は東京に2店舗、神戸に3店舗を展開。DXにも積極的に取り組み、コロナ後には蕎麦で世界へ進出するチャンスを虎視眈々と狙っている。
[掲載日:2022年3月1日]