家庭の味をプロならではの味へ

鈴木 基考さん
「洋食堂すずき」店主

揚げ物は、三大栄養素(炭水化物、たんぱく質、脂質)を含んでエネルギー源となり、高温の油で加熱することで褐色に揚がってメイラード反応を起こすなど、おいしく感じられる要素が詰まっていますから誰もが好きにならずにはいられません。私も物心ついた頃には揚げ物の味を味覚に埋め込まされていたくちです。私の両親はともに食べることが好きで、家でよく料理をしていました。なかでも揚げ物料理はあれこれと飽きずに作ってまして、私はとくに母親が作るコロッケが大好物で、その味は今でも覚えている程です。そうした家庭の味というのはどこの家にでもあって、忘れられない懐かしい味としてひとそれぞれの記憶に残されていると思うのです。

私の場合、料理人の原点となる味が、実家で食べてきた揚げ物でした。もちろん、揚げ物料理は多様にありますから、具体的にそのなかのどれかを指すのではなく、高温の油で揚げたもの全般という程度にしておきます。ただ、日本料理を修業していた過程で私なりに揚げ物に向き合いながら整理してきた考えはあります。

そのひとつが衣のとらえ方です。天ぷらは、小麦粉(薄力粉)と水と卵で作った衣をつけて揚げます。先に調理して味付けた食材に小麦粉だけをまぶして揚げるのは唐揚げです。これらに対して、食材にまず小麦粉をまぶし、次に溶き卵をつけてパン粉をまとわせた衣で揚げる料理があります。フライ、豚カツ、コロッケなどですが、小麦粉・卵・パン粉を混ぜ合わせた衣で揚げる串カツも同類としておきます。私は、この衣にパン粉を使う揚げ物を主に、懐かしくかつ新鮮で独自の味わいをもつ揚げ物料理を追求してゆきたいと考えています。

揚げ物ですから、油のこともおろそかにはできませんが、その油との組み合わせでもパン粉がコーティングに重要な役割をはたします。日本のパン粉は荒く砕かれ粒が大きいという特徴があり、パンを作ってから粉にするのでパン粉についた味やうま味が少なからずもたらされると思われます。そういうことからも、まぶすだけの小麦粉とは異なる扱いが求められるのです。

もともと日本では、フランス料理のコートレットをアレンジしたカツレツから豚カツが生まれ、フランス料理のコロケットの具材にジャガイモを使うことでコロッケが生まれました。いずれも洋風に見えますが極めて日本的な料理なのです。そのため、広く家庭でも日常的に作られるようになるまで浸透したと思われます。日本料理ではプロの揚げる天ぷらが家庭の天ぷらとは厳然とした差があると認められています。専門性の高い技術を要する天ぷらが高級料理に位置付けられることもありますが、私の作る揚げ物料理はあくまでも洋風の和食としてカジュアルにとらえてもらいたいので、店名に洋食堂とつけました。

カウンターで天ぷらを供する店があるように、カウンターでフライやカツだけでなくミンチカツやコロッケなどもいろいろ揚げて供する。そうしたイメージで、家庭では味わえないプロならではの揚げ物料理をこれからさらに広めてゆきたいと考えています。

揚げ物だけでなく、磨いてきた技が随所に生かされた魅力的なメニューが並ぶ。
鈴木 基考(すずき のりたか)プロフィール

1980年愛知県生まれ。料理好きな家庭で育ち、早くから料理人になりたいと思うが実行したのは大学卒業後。日本料理を基本から学ぶべく京都の調理師専門学校に入学し、卒業後も京都にておばんざいや串カツ専門店など数店で和食を幅広く修業して約20年経過した頃、コロナ禍を契機ととらえ独立する。2021年8月二条城南に「洋食堂すずき」を開業。自身の好みもあり得意とする揚げ物料理をメインにしたメニューが評判を呼び、今後の展開に注目が集まる。

[掲載日:2022年10月6日]