ソムリエはプロデューサー

ソムリエは料理人とお客さんの間で仕事をします。基本的に提供する料理の内容を把握してお客さんに伝えながら、お客さんの嗜好や要望にも応えねばなりません。両者をつなぐ意味でも、レストランのサービス業務として大切な役割を担います。ソムリエは、ワインだけでなくどのような飲み物であれ、持てる知識と経験をもとにお客さんのために選んだ
私がソムリエとしてのキャリアをスタートさせた1990年代、日本ではマリアージュという言葉が使われ始めたところでした。最近ではペアリングと呼ばれ、ワインと料理との相性に注目されることが身近になっていきました。お客さんのなかにもワインをより知ろうとするひとが増えるとともに、フランス料理に限らず多様なジャンルの料理に合わせてワインを飲む動きが広まりました。もともとワインはグローバルスタンダードな飲み物です。味や香りを表すときには誰もがわかるような世界共通の表現で伝えます。ですから、ワインと合わせることで、むしろ料理のほうの違いが明らかになったりするのです。そうなれば、どういうワインにするか相性を考えた飲み方も食事の楽しみ方のひとつとなっていきます。
おいしさは、いろんな料理の味を経験して覚えていくものですが、学んで知るおいしさもあります。ワインの味わい方も同じだと思うのです。何かしらの知識、つまり情報をもっていれば、このワインはこの料理と相性がいいのは何故かということも理解できるでしょうし、なにより味わう楽しみも広がるはずです。料理も嗜好も、時代とともに変化していきます。しかし、ワインそれぞれの基本的な味や香りは保持し続けているので、料理とワインを合わせることが長く継承されているのだと思われます。
こうした役割を担うソムリエとして経験を重ねているなかで、私はこう考えるようになっていました———料理に合わせてワインを勧めるだけでもなくワインに合わせて料理をつくるでもない、双方を楽しめる相互のかかわりを通してお客さんとのつながりを広げていけるレストランをプロデュースしたいと。これまで、ワインを選ぶときに、食事される目的や同席されている人との関係などまでうかがうことで食事を通したドラマを演出したり。また、飲食を提供する側、食事する側双方にとって使いやすい空間をソムリエの視点で計画したりしてきました。そうした実績をもとに理想の店「ビストロ・レクレ・神戸」を構えたのです。
テロワール(大地)とアルチザン(職人)を意識して、アペラシオン神戸(神戸らしさ)のような独自の価値を創り出してゆきたいと思い、自由な気分で利用してもらえるビストロスタイルにしています。1日の終わりにおいしい料理とワインで自分を取り戻し、レクレアシオン(再創造)できる魅力的な場になれるよう務めてまいります。
1974年京都府生まれ。大学生でアルバイトに入ったレストランでソムリエという専門職を知り、ホテルオークラ神戸入社後は給仕業務に就きながらワインなどの必修科目を履修して資格を取得。その後「神戸北野ホテル」「近藤亭きっしゅや」など神戸を中心に研鑽を積む。シニアソムリエとなり、実績を生かした理想的な店づくりを目指して2019年神戸鯉川山手エリアに「ビストロ・レクレ・神戸」を開業し、注目を集める。
[掲載日:2023年1月13日]