人、街をつくるための店づくり

『LE BOOZY』や『THE BAKE』など神戸の人気店を多店舗展開する小林元気さん。料理人として経営者として、今、何を考え、目指しているのでしょうか。テーマとして掲げる、人を育てて街を育てることなどについてうかがいました。
成り行きから、目的意識を持つことへの心境変化
「最初の店、ビストロ『LE BOOZY』の立上げは自分のやりたいことを詰め込めました」と小林さん。フランス料理店で学んだ技術を惜しみなく料理で表現し、神戸の食いしん坊の胃袋を掴んだ。しかしお客さまの期待は肉料理への欲求。また時代も肉ビストロのスタイルが人気を博していた。「僕がお肉が好きなこともありますし、風貌もそんな感じなので(笑)」。自分の我を通すよりもお客様のニーズをしっかりキャッチする店作りに意識が変わったという。また2号店であるパン屋の開店のきっかけもまた成り行きだったと小林さん。「そのまま食べても美味しいパンを買っていたのですが、僕の料理には美味しすぎた」と。ご飯のようにソースに寄り添う素朴なパンを提供するためスタッフたちと何度も話し合ったという。会話を深め「日本のパンの立ち位置や働き方」にまで話しが拡張。そんな中で出たキーワードが夜パンや飲めるパン屋というアイデア。「そんな成り行きで2号店『THE BAKE』を開業しましたがコロナ禍もあり紆余曲折はあります。でも働くスタッフと一緒に考え、新しいモデルを意識して立上げたので想い出も深い」と小林さんは振り返る。ユニークな新しい視点での店づくりに注目が集まると、「色々な人たちが応援してくれるし、チャンスをくれるんです」、3店舗目はクラウドファンディングで挑戦し、4店舗目は神戸の洋食をリブランディングしたコンセプトで出店。「店舗を増やす中で、何のためにこの店をやるのかを思考しました」と、目的意識が明確になったという。
「スタッフ(人)」の活躍を考え「街」を意識
目的意識をもって出店。5店舗目を出店したときにスタッフから「この先どうなりたいか聞かれたとき、即答できなかったんです。考えをまとめるのに実は1年かかりました」と小林さん。経営を意識したときにビジョンやミッションを設定し、スタッフと共有する大切さに気付いたという。導き出したのが「人」と「街」。自分の知識・経験を継承すること。そのためにスタッフに教育の場と時間を設けること。「スタッフに自信と活力があれば、お客様も楽しいのでリピートしてくださいます」と小林さん。人が元気になれば、そのお店に活気が出て店の周りが元気になる。また知識を持ったスタッフが接客すれば説明力が上がり、お客様にも食材が料理技術の背景を知るきっかけにもなる。「もっと食事(外食)が楽しくなるんです!」と、その好循環を意識した運営を目指している。
A面、B面という仕組み作りに挑戦
そんな小林さん、経営も順調かと思いきや「採用」が課題という。「今のビストロやパン屋、洋食店はコンセプトやカルチャーがしっかりしている反面、若い人たちには取っ付き難いところがあるんです」と小林さん。アルバイトを選ぶ条件は、お店が近いや、アクセスが良い、作業が簡単で時給が見合うからといった、もっと気軽な要素も考える必要があるとのこと。A面がコンセプト/カルチャーがしっかり店作りならば、B面はフードコートなど、アルバイトさんが主体の店作りだ。「アルバイトさんが食に興味をもってA面の仕事がしたい思ってくれるような(循環)仕組むづくりに挑戦したいです」と小林さん。現在、B面仕様として、明石にハンバーガー屋、岸和田にステーキ店を準備中だ。
「自分は人を育てて街を育てることを企業理念としました」と小林さん。企業理念を決めてからジャッジ(判断)がしやすくなり、スタッフにも分かりやすく伝わるようになったと話す。人が育てば、感度の高い人が街に集まってくる。ひいては街が育つ。そんな方程式に挑戦しつつ、10年先20年先のスタッフの活躍を見据えている小林さんは元気だ。



1988年、神戸市生まれ。神戸北野ホテル、『ギャロ』などでの経験を経て、2016年ビストロ『LE BOOZY』で独立。2019年パン屋『THE BAKE』を隣にオープン。2021年、屋台フード専門店『新世紀』、会員制レストラン『GATSBY』、2023年には『洋食パリス』を開店する。音楽イベントを開催するなど、その活動は幅広い。
[掲載日:2024年5月8日]