落ち着ける場所、シンプルであること

壺坂 恵さん
「ジャスティスブラウン」店長

大阪天満宮にある、カフェ「ジャスティスブラウン」は、常に人が絶えない人気店。軽やかなコーヒーと、唯一無二な台湾ドーナツを供しています。カフェが流行る理由とは何なのか……。店長の壺坂恵さんに、店づくりやその想いについてうかがいました。

そばにいつもコーヒーがあった

31歳まで東京で音楽をやっていた壺坂恵さん。レコーディングや作曲など、どこの場面でもそばにコーヒーがあったという。行きつけのカフェができていくなかで、人の落ち着く、寄り添える場所は素敵だなと感じていた。バンドを解散する時には、「カフェをやるのもいいな」と思っていたと話す。
東京から大阪へ帰ってきて、コーヒーの卸会社へ就職。コーヒーの基礎や焙煎を学んだ。その後、自身も好きなカフェ「エルマーズグリーンカフェ・インザパーク」で店長を務めた。

店は大阪天満宮北門のそばにある。

シンプルにメニューを突き詰める

「ジャスティスブラウン」は、オーナーである高校からの友達と一緒にやろうと始まった。最も大事にしたのは、“落ち着ける場所”であること。場所は天満天神繁昌亭や大阪天満宮からすぐ。外観も内観もシンプルながら、壁やオリジナルのテーブルなどは時間をかけて作り上げた。「テーブルの境として、ちょっと壁が外に出ていたり、秘密基地のような感じにしたかったのです」。
コーヒーはスペシャリティーコーヒー。飲み口が軽やかなすっきりした味わいを目指す。小さな農園で一粒ひと粒手摘みされ、小ロットで日本へ卸しているものを選択。豆の味がストレートに出るので、少々時間はかかるが、ハンドドリップで一杯ずつ淹れている。「ブレンドはすっきりバランスのいいグアテマラのウォッシュドと、ワインっぽい余韻が残るエチオピアのナチュラルを使い、豆は粗めに挽いています。ペーパーフィルターは初めにリンスし、95℃くらいの熱めのお湯で落としています」。
コーヒー専門店は多くあるので、もうひとつの軸となるコーヒーの相棒を考えた。ドーナツかクレープでずっと迷っていたが、オーナーが台湾と関係があったので、台湾ドーナツにヒントを得て、衣がついたタイプのドーナツを提供することに。製法などは一から勉強し、半年かけてドーナツを開発。「衣がついたタイプのドーナツがヒントですが、中身は結構リッチな食パンみたいで、国産小麦を使い、発酵バターと生クリームをふんだんに使用しています。衣をつけ、米油を使い、キレよく揚げています。だから中はふわふわで、外がカリッとしていますよ」。平日は100~150個、休日は200個をようすを見て1~2回、すべて店内で仕込んでいる。発酵には2時間半かかるそう。「私が、パン屋に行ってもうどん屋に行っても、食パンや素うどんなどノーマルを食べるタイプなんですよ。種類よりは素材を楽しんでもらいたいので、今、ドーナツは5種類。オープンしてからレシピは変わらず、冬と夏でちょっと水分量が変わるくらいです」。

コーヒーはオリジナルブレンドのほかに、季節のシングルオリジンなども味わえる。
ドーナツは、プレーン、チョコレート、ミルクなどが揃う。

真剣に、嘘なく向き合う

22年9月にオープンして、平日でも夕方にはドーナツが売り切れる人気店となった。飲食店の知り合いに「カフェは厳しいよ」「3年はかかるね」などと言われていたが、出だしから好調!と話す。「狙ってインスタグラムを見て来てくれる若い人たちや、ふと入ってきてくれる人もいるし、“コーヒーおいしかったね”で常連になってくれる人いますよ」。特に今年入ってからは海外のお客さんが急増。「この感じで続けていければと思うのですが、変化も必要」と、1ヶ月半で変わる、ドーナツをアレンジした季節のプレートを用意している。
また、今後の展開としては「当初考えていた路面のクレープ店はやりたいですね! 手で食べるタイプで、大人向けの」とも。こちらも素材ありきのメニューを提供したいと考えているそう。
流行る理由も尋ねてみた。「シンプルなものが好きで、もっと言えば、店主が神経質っぽい店が好きなんですよね。この料理に対してこの人は、適当じゃない、真剣だろうという姿勢が伝わってくるような。堅苦しいのは嫌ですが、きっちりしていることはお客さんに対しても安心材料なのかなと。なので、嘘なくやりたいです」。壺坂さん自身が「やっぱりこれこれ!」「いつも美味しいよね」って思える店が好きで、それを追求し続けているのだ。
さらに、「長くやっていくならば、“人”になるんですかね。行きたいなと思う場所というか、味より何より“あそこに行きたいな”、“すごく落ち着く場所やな”っていう安心感が大事ですね。私がフラッと行くところは、同じ空気がいつも漂っていて、フワッとしていて、安心感があるところが多いですよ」と付け加えた。

開店時、最も導入をのぞんだコーヒー器機は、マールクーニック社のグラインダー。
壺坂 恵(つぼさか めぐみ)プロフィール

大阪府生まれ。大阪音楽大学を卒業し、音楽の道へ。ギター・ヴォーカルとしてバンドに所属し、27歳でメジャーデビュー。31歳まで東京で過ごす。解散後帰阪し、コーヒーの卸会社に就職。その後「エルマーズグリーンカフェ・インザパーク」で3年店長を務め、現職。

[掲載日:2024年7月1日]