“縁”や“出会い”が料理を変えてゆく

森永 宣行さん
「ドロワ」オーナーシェフ

京都・御所の目の前にある、フランス料理店『ドロワ』。香りと余韻を大事にした記憶に残る料理をコンセプトに、2017年にオープンしました。培った古典料理を活かしたネオ・クラシックともいえる料理で、ファンの心を掴んでいます。開店して7年、自分の料理の変化やフランス料理への思いについて、オーナーシェフの森永宣行さんに話をうかがいました。

“縁”や“出会い”で、膨張・収縮する

最近、自分の料理を「キュイジーヌ・リアン」=縁の料理と名付けた森永シェフ。オープンして7年が過ぎ、「根本は変わっていません。『ドロワ』=まっすぐ、と店名の通り、素材や物や人など愛のあるものをそのまま届けたいということは今も思っています。ただ、リアン=“縁”や“出会い”によって、自分が変化して成長し、料理も変化してきています」と話す。さらに、「縁によって刺激があると、気持ちの面で、自分が膨張したり収縮したりする。この自分の変化を表現するためには、大前提として技術と知識が必要となる。そのための勉強、学びだと考えます」と。縁については、「人はもちろん、土地や自然、本、音楽、絵画など……そのすべてですね」。

ユルバン・デュボアのイベント

自身が膨張したり収縮したりし、「キュイジーヌ・リアン」が生まれる。その最も印象的な出来事は2021年のこと。コロナ禍に、フランス料理人、ユルバン・デュボアの古典料理書『ecole des cuisinier』(1871)のメニューとルセットをすべて書き写して、一冊のファイルにしまとめたという。「時間ができたときに、なんとなく過ぎてしまうのは、もったいないと思ったので。もちろん全部を実際に作ったわけではないですけど、妄想は膨らみますよね。古いことを学んでいるという感覚は全くなくて、面白い本を読んでいる感覚でした。面白いと思ったら人間は活性化します。こんなのしてみたいな、という思いが自然に出てきました」。古典だけあって、読むのにはかなり苦労したそう。フランス人でもさらさらと訳せないものもあり、フランス人の友人に聞いてなんとか紐解いていったという。
当時『オテル・ド・ヨシノ』、現『シェ・イノ』手島純也シェフとイベントをすることになった。古典料理をテーマにしようという話になったとき「ユルバン・デュボアがいいね」となったという。
イベントのメニューは、本から互いに気になる料理をピックアップして構成。手島シェフと密に連絡を取りながら、検討を重ねた。イベントには錚々たるシェフたちが参加し、率直にどう感じたかを話してくれたという。「間違いなく、学ぶことで、いろんな意味で広がることを目の当たりにしました。それは自分自身の中でもそうですし、人の縁も広がります。しかも深い太い縁が広がりました。それによって自分の中の料理の一つのクリエイションのスタイルを感じることができました」。

クラブ・エリタージュへの参加

また、クラブ・ドゥ・レリタージュ・キュリネール・フランセ(Club de l’Héritage Culinaire Français)、通称「クラブ・エリタージュ」に参加したことも刺激的であり、縁を感じることだった。「クラブ・エリタージュ」は2023年8月、伝統的フランス料理の継承を目的に40代を中心とするシェフにより立ち上げられた会。発足するとき、9人のメンバーの中で関西からは唯一だった。「それはもう大きな僕の変化ですね。それこそ何を話していても刺激と言いますか。店の規模や場所など違う方々ですが、共通するものが自分の中にあると思っていますし、そういう方々との時間は影響を受けます。“すごいな”と見ているのではなく、“自分はどうなんだろうか”と冷静に入らせてもらえるようになりました」。

変化を恐れないことを課す

「この8月の日曜日にランチ営業にチャレンジしたんです。やってみれば、店先に広がる御所の緑がやはりすごい気持ちよかったり、お客さまの楽しみ方がいつもと違ったり、新しい発見がありました」。料理好きの青年が、長い歴史の中で磨かれてきたフランス料理の技術体系に傾倒し、学びと出会いで森永流ネオ・クラシックの料理表現で評価をえるも、自身に“変化を恐れないことを課す”。海の未来を考える料理人チーム「Chefs for the Blue 京都」の加入や、NHK「きょうの料理」の出演など、新しい表現の場にもチャレンジ。リアンという言葉を胸に更なる高嶺を目指し、日本のフランス料理界を牽引していく。

森永 宣行(もりなが のぶゆき)プロフィール

Droit オーナーシェフ。1982年佐賀県生まれ、大阪で育つ。大学卒業後、大阪「ルール ブルー」、京都「ベルクール」で修業。卸売市場の鮮魚店を経て、飲食店数件の立ち上げに携わり、京都のフランス料理店で料理長を3年半務める。2017年に京都御所前で「Droit」を開業。2018年より6年連続ミシュランガイド一つ星を獲得。ゴ・エ・ミヨに5年連続掲載。「ニュージーランド・オーラキングサーモン社」のアンバサダー、「Chefs for the Blue 京都」チームメンバー、「クラブ·ドゥ·レリタージュ·キュリネール·フランセ」理事、2023年 第20回 メートル・キュイジニエ・ド・フランス“ジャン・シリンジャー杯” 準優勝など。

[掲載日:2024年9月6日]