福岡うどん文化を関西へ届ける

奥尾 峰英さん
「峰のうどん」オーナー

『峰のうどん』は堺筋本町にある、福岡うどんの専門店。だしをたっぷり吸ったふわふわ食感のうどんが他では味わえないと評判です。なぜ今、福岡うどんなのか、その経緯や今後についてオーナーの奥尾峰英さんに話をうかがいました。

福岡の食文化を大阪で

「福岡の食文化を大阪で広めたい」という想いを持つ奥尾峰英さん。これまで、もつ鍋とサムギョプサルの店、野菜巻き串ともつ鍋の店など、さまざまな形態で大阪に店を展開してきた。現在は集大成として、千日前の上方ビルに、『牛タンと野菜巻き串 おくを』を構えている。「僕の食のアイデンティティというか、発想の元はいつも福岡なんです」。
「福岡は独特で、大手チェーン店があまりない。地方独自のチェーンはあるんですけど、多くは福岡市内などで完結している業態。福岡は経済圏として成り立っているせいか、食文化が関門海峡を越えにくいんですよね(笑)」。大阪には福岡の食文化が馴染んでいないことを独自性を出せるビジネスチャンスと捉えた。これまでも野菜巻き串や牛タン、何度かブームはあったもつ鍋。「どれも始めるタイミングがよかったのかもしれません。あとは関西の方は接客もすごく重要視されるので、商品の力だけではなく、マンパワーというかコミュニケーションや接客力、雰囲気は重視しました。店作りで一番大事にするところは人でしかないなと思っています」。

福岡うどんで働き方改革

そんな奥尾さんの新展開はうどんだった。2023年9月、福岡うどん専門店『峰のうどん』を堺筋本町にオープン。ちょうど『すけさんうどん』が関西に開店し始めた時期だ。
独立して7年間、うどん店をやろうという想いを温めてきたという。「僕自身、何よりうどんが好きで、『資さんうどん』で育ったようなもの。ずっと大阪にはごぼう天がなくて」。そんな中、先輩から「やってみれば?」と背中を押してもらったきっかけがあった。また、「これまでの業態としては時流に乗った食材を扱っていることが多かったんです。浮き沈みがある。一方、うどんなどの麺類は安定していますよね。加えて、居酒屋で朝まで働くような時間帯を変えていきたかった。働き方改革です。働き手の確保も難しくなっていきますし、僕らも年を取っていく。そういったときに働ける環境、人を確保しやすい環境としてうどん店は合うんじゃないか、と」。
柔らかいふわふわ食感の麺に昆布と5種類の節からとったたっぷりのだし。大きなごぼう天がどんと乗った福岡うどんの魅力については「やっぱり、柔らかさ」と話す。「茹で置きしたものをさっと温めた、労働者が食べてきたうどんなんです。ちょっとせっかちな大阪にも合っているんじゃないかと思いました。おかげさまで、オープンから安定して、お客さまにはリピートしていただいています。うちのうどんを食べに行こうっていう、目的来店が多いようです。7時からの“朝うどん”はデータを見ていった上で週末のみにしました。もてなしは大事なので、うどん店でもあえての座り、あえてのフルオーダー。おしぼりも出てくるし、お水もセルフじゃないんです」。

大阪府外にも進出

今後についての構想もいくつかあるようだ。「うどん業態は店舗展開しやすく、その基盤もある程度できてきたので、店舗を増やしていきたいな、と。大阪府外に出ていきたい。乱立することはあまり良しとしていません。ドミナント戦略じゃないですけど、近くでやればお客さんの取りこぼしはないかもしれませんが、価値観が下がるかなと思っています。次は京都や奈良、うどん不毛の地の和歌山で出してみたいです」。
メニューとしては、「多様化は進んでいますが、うどんの面白いところはベースがあまり変わっていないこと。鰹と昆布が中心。だからこそ、まだまだ伸びしろがあると思っています」。単価も1000円の壁を超えるための努力を惜しまず、「今でも料理の品質を守り、大体2~3ヶ月に一度、新メニューを投入しています」。また、「丸天うどん! なかなか出す勇気がないのですが(笑)。いわゆる平天が乗っているだけのうどんも今後やってみたいですね」。
今の課題はうどんを40分茹でることでロスが出てしまうこと、と話す。「冷凍技術でなんとかできないか、いろんな方に相談しています。柔らかい食感を実現することが難しいらしく……。これができていけば提供時間をさらに短くすることができる。エネルギーコストもカットできる。ロスも軽減できれば、地方で店舗展開するにしても参入障壁は下がると考えます」。
経営者、料理人……自分のことを何だと思っているかとの問いには、「一番は飽き性(笑)。まあでも、アイデアマン、いわゆる企画部でしょうか。だから、新しいことを思いついたら、まずは人とやりたいですね。三方よしを目指しているので、人を巻き込みたいです。一つ始められるなら、一つ削ってもいいと思っています。リスクヘッジも経営では大事ですから」。
最後に、「良い人材が入ってくるんじゃなくて良い人材が出ていく会社にしたいと思っています。アルバイトも含めて。これは先輩の受け売りなんですけど、すごくいい言葉だなと思っています」と話してくれた。

奥尾 峰英(おくお みねひで)プロフィール

1980年福岡県小倉生まれ。中学生のときに父と宿泊したペンションに魅かれ、ペンション経営を目指す中、料理の必要性を感じてまずは料理の道へ。高校卒業後、小倉の老舗料亭旅館に入り、4年間修業を重ねる。22歳で大阪のレストランに就職し、フレンチやイタリアン、菓子を学ぶ。その後、居酒屋へ。約10年間、スタッフ、店長、統括などを経験し、1軒を買収する形で2017年、独立。その後、もつ鍋や野菜巻き串、牛タンなど福岡の食文化に特化した店を、天満や福島に事業拡大。2023年には堺筋本町に『峰のうどん』を開店。

[掲載日:2024年12月2日]