一日会(ついたちかい)

味覚は映像や音声のように記録して残せない。それゆえ、料理人はただ料理するだけでなく、自らが媒体となって味や技を伝える役割も担う。先輩に教わったことをブラッシュアップさせ、後輩へつなげていく。人から人へ、受け継がれ洗練されてきたからこそ、いま私たちはおいしい料理を味わうことができる。
「大阪一日会」という名で、フレンチのオーナーシェフたちが集まり、勉強会を始められたのが29年前。交流を兼ねた集いは、やがて参加する仲間も増え、大きくなっていった。とくに若い世代の料理人に門戸を開くことで活性化。世代交代を見事に行いながら継続されて、現在、同会はフレンチとイタリアンの料理人を中心に50名の会員が集う会へと成長している。
前会長の石井之悠さん(「ラ ビエール」オーナーシェフ)は、同会の役割を強調する。「料理人同士の情報交換に留まらず、外に向けた行動を加えていくことで、一般のお客さまにも私たちの存在や活動を知ってもらえるようになったのが大きな転換期だった」「個人やひとつの店ができることは限られているが、集まると違う。皆で集まって何かをするというのが大事」と話す。
「一日会」は現在、以下の3つを柱に活動。ひとつは「美食会」といって、1年に一度一夜限りの特別料理を供するもの。会員が一つのレストランに集結し、一般から募ったお客さんを迎える同会最大のイベントである。ふたつめは「講習会」。会員が講師となり、プロや一般に合わせた各講習会を開催している。そして、「ボランティア活動」への参加がある。会員は仕事の合間に時間を割いて集まり、こうした活動の計画から話し合い役割を分担しながら実施している。その他、定期的に行われる会合の議題にあわせ、さまざまな活動が随時行われている。専門家を講師として招いた勉強会、会員各店の若手スタッフが集まった料理実習など。1年を通じてまさに皆で集まり何かしら動いているのがわかる。
2001年には「IGNIS」(ラテン語で“火”)という会報誌ホームページ(http://www.tsuitachikai.jp/)を立ち上げ、独自に情報発信するようになった。直近のイベント案内はもちろん、過去の活動報告も掲載されており、関心のある方はアクセスされたし。
第4代現会長の依田英敏さん(「ルセット」オーナーシェフ)は、「さらに若い世代へ引き継ぐために会長を引き受けた」と言う。今や努力さえすれば必要な情報を入手できる。かつては知る人も限られていた食材さえ(名前だけは)認知されるようになった。しかし、と依田さん。「プロなら食材の持ち味を知り、使いこなすのが当たり前。情報や知識だけでなく経験が必要になる。そこで問われるのが感覚や感性。料理は身体で覚えるもの。火加減、塩加減など、いくらデータで数値化されても料理にはならない。だからこそ、伝承が大切」と、次の世代へ教えていくことがいかに重要かを話す。

右:前会長の石井之悠さん(「ラ ビエール」)。


発足 | 1980年(昭和55年) |
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会員 | 大阪・神戸の料理人を中心に50名 |
連絡先 | 一日会事務局「レストラン カーラ」 中本吉陽 大阪市中央区北浜1-1-30 リバービュー北浜B1 TEL.06-6222-0034 http://www.tsuitachikai.jp/ |
[ 掲載日:2009年6月5日 ]