言葉以外のコミュニケーションツールで飲食店ならではの社会貢献を。

NPO法人 essence(エッセンス)

「essence」のホームページ。
活動実績や最新ニュースなど、当会のあらゆる情報を展開している。
http://www.essence-since2011.com/

2012年5月に発足したNPO法人「essence」。飲食業界における、障がい者との交流を軸にした継続的社会貢献を目的とし、双方の繋がりをコーディネートする。当会の代表、岩永歩さん(『ル シュクレ クール』オーナーシェフ)は会の成り立ちについてこう話す。「障がいを持つ娘を授かったのが大きなきっかけのひとつです。そして飲食業界にいると、修業や自分のことに精一杯で、社会との関わりが少ない。それは良くないなと」。また、飲食業界を俯瞰すると、料理、パン、菓子と、各業界ごとにヨコの繋がりはあるものの、ジャンルを超えたタテの繋がりが弱いという現状も。「僕たちが居させてもらっている『飲食業』という大きな括りで、継続的に発信できる活動を」と、岩永さんは考えた。「属しているのは業界でははく“社会”です。また、僕たち飲食業の人間は、“物作り”という言葉以外のコミュニケーションがある。この能力を生かすことはできないか」。

そんな折、岩永さんは、車椅子や義足を扱う企業の社長にこう言われた。「自分たちの技術の進歩を喜ばしく思う反面、ソフト面において障がい者の日常生活や社会復帰のお手伝いができない。そこを飲食業の皆さんがサポートしてくれるのであれば、どんなに嬉しいことか」。岩永さん曰く、「飲食業が社会に必要とされると気付き、すごく嬉しかったのです」。例えば、健常者には当たり前の外食も、障がい者にとっては予約すらままならないことも。「同じ街で暮らしているのに、健常者と障がい者は接点が少ないし、平等に過ごすことが難しい。では何が平等なのか? それを知るには、互いがコミュニケーションを取ることが大事だし、飲食店がそのきっかけとなれば」と、岩永さん。「この活動は、“何かをしてあげる”という意識を剥がしていくことが重要。大切なのは“相互関係”。お互い、得るものがあればと考えるのです」。

メンバーは、京阪神の飲食店、パティスリー、ブーランジェリーをはじめ、遠くは沖縄の飲食店など約40店舗。当会のおもな活動に、料理教室や食事会がある。聴覚障がい者向けのお菓子教室や、関西初となった義足ユーザーのための食事会、また、手話通訳付きの餃子教室&ランチ会など。そのような交流がきっかけとなり、飲食店にも変化があらわれた。あるうどん店では点字メニュ−を導入したり、店主自らが自発的に手話のセミナーに出向くなど、来店しづらかった方々に少しでも来て頂けるように、という気付きが生まれ始めた。「僕たち飲食業が受け皿となり、お客さんを巻き込むことで、双方にいろんな気付きが生まれると思うのです」。なお、5月10日(金)には日本初となるイベントを実施。大阪・難波にて『遠隔地通訳つき吉本新喜劇』が行われるのだ。「かねてより吉本興業さんに、耳が聞こえない方でも楽しめる劇場に…とお願いに上がっていたのですが、この度、株式会社アイセック・ジャパンさんにもご協力いただき、試験的にではありますが『遠隔地通訳つき吉本新喜劇』を実施するこに」と岩永さん。遠隔地通訳とは、文字通訳者が音声を文字に通訳することで、コミュニケーションを支援するサービス。詳細は「essence」ホームページにて。今後の目標について、岩永さんはこう話す。「最終的には、この活動が不要になることが大きな目標。障がい者と健常者の同席が当たり前の社会になることを願いたいです」。

昨年7月に開かれた、NPO法人essence設立記念セレモニー。ろう者による和太鼓生演奏のほか、飲食店による料理提供も。参加者は100名を超えた。
第二回目 聴覚障がい者向けお菓子教室。『パティシエ エス コヤマ』小山進シェフ実演の後、ホットケーキの実習を行った。
今年2月に「赤穂バスツアー」を実施。このツアーでは、音声言語をパソコンが文字化し、携帯電話やスマートフォンに文字が表示される「モバイル型遠隔通訳システム(モバイル型遠隔情報保障)」を導入。全国でも数例の試みだった。
NPO法人 essence(エッセンス)
発足 平成24年5月
代表 岩永 歩
「ブーランジュリ ル シュクレクール」オーナーシェフ
「パティスリー ケ モンテベロ」オーナー
web http://www.essence-since2011.com/

[ 掲載日:2013年4月16日 ]