おくどさんの文化を通して、日本人の食文化・食生活を見つめ直す。

おくどさん研究会

「草喰なかひがし」のおくどさんは、炭床を備えつけたオリジナル。「これが手前どものメインディッシュでございます」と、炊きたてご飯、炭火で炙ったメザシ、お漬物を供する。

2009年8月に活動を開始した「おくどさん研究会」。“おくどさん”とは、京言葉で竃(かまど)のこと。竃は別名を「くど」と言い、親しみを込めて、おくどさんと呼ばれている。

当会の会長である、『草喰なかひがし』店主の中東久雄さんは、会の成り立ちについてこう話す。「京都の生活文化の良さを発掘し発信されている『遊悠舎京すずめ』の土居好江さんからお声掛け頂いたことがきっかけで、会長を務めております。かつて、おくどさんは京の人々が暮らす京町家において、台所の中心にありました。煮炊きものや炊飯などができるだけでなく、家族の暮らしを支え、見守ってきたのです。昨今、家族が別々に食事を摂ることも多く、家庭内での団らんの時間が薄らいでいるなか、改めておくどさんの良さを見つめ直したい。忘れられてきた感性や、京都の伝統や風習、そして新たな価値の発見も含め、おくどさんから学ぶことが多いのではないか。そう感じている有志が集まりました」。

実際、中東さんの店でも、おくどさんは中心的存在だ。信楽・中川一志郎さんが作る土鍋を用い、薪の火ではなくガス火を据える。昔の道具のみに固執するのではなく、その柔軟性が新たなご飯の旨さを生み出したのだ。「おくどさんは、ひじょうにエコロジーなんですよ」と中東さん。土壁に囲まれているため、保温効果に優れており、小さなガスコンロでじゅうぶん、その真価を発揮するという。

メンバーは、自店におくどさんを構える飲食店の主や、おくどさんを作り上げる京壁師をはじめ、おくどさんを今に残す旧家の主も。「不定期ではありますが、様々な活動をおこなっています」と中東さん。2013年11月には、彬子女王さまが総裁を務められる「心游舎」の企画にて、銀閣寺にあるおくどさんを、数十年ぶりに使うことに。「おくどさんで炊いたご飯を、おにぎりにして、30人ほどの小学生に食べてもらいました。湯気が立ちのぼると子ども達の歓声が上がり、おにぎりを食べて“こんなに美味しいご飯は初めて”とキラキラと目を輝かしていました。子ども達の喜ぶ顔を見るのが、本当に嬉しかったです」。今後も年に1度は、この活動を続けるという。

また、文化庁登録有形文化財である「山口家住宅 苔香居」では、領事館の外交官を招き、食事会を実施。中東さん曰く、「火吹き棒を用いて薪火を熾すなど、おくどさんの調理も体験してもらい、ご飯とお味噌汁を食べて頂きました」。この他、会員の店舗での視察をおこない、情報交換することも多いという。「おくどさんで炊いたご飯は、懐かしい味がします。便利さを追い求めて、大切な何かを失うことが多い今の時代、豊かな心を呼び起こすものが、おくどさんだと感じます。京都の街に、おくどさんを扱う店が少しでも増えると嬉しいですね」と中東さんは話してくれた。

「草喰なかひがし」でおこなわれた、当会メンバーによる、おくどさんの視察。
会長の中東久雄さん。「中川さんの土鍋を使わせてもらい、おくどさんでご飯を炊くと、おこげができ、じつに昔懐かしい味わいなのです」。
400年以上の歴史がある「山口家住宅 苔香居」。台所にあるおくどさんは、明治期に新調された。5つ釜のおくどさんであり、今でも薪を用いてご飯を炊くことができる。
「御菓子司中村軒」では、クヌギの割り木を燃やし、粒餡などをじっくり炊き上げる。
おくどさんの視察後、今後の方向性の検討するなど、会員同士で密なる交流がおこなわれている。
おくどさん研究会
発足 2009年8月

[ 掲載日:2013年12月26日 ]