特製パスタマシーンに込められた職人の心意気。

渡辺武将さんが京都二条城の近く(堀川通御池西)にイタリア料理店「クチーナ イルヴィアーレ」を開いたのは10年前。自分の店をもつなら、パスタは自家製と決めていた。それは20代になる頃、初めて味わった手打ち生パスタのおいしさが忘れられないからと言う。
イタリア料理を修業した店のひとつ、京都「カーサビアンカ」では、オーナーシェフの那須昇さんにさまざまな手ほどきを受けた。パスタについても多くのことを教えられた。生パスタの場合、生地を作るところから始まる。茹でるだけの乾麺とちがい、手間がかかるし食感も異なる。が、それだけ料理に独自性を出すことができる。成形で使う多様な器具についても学んだ。
渡辺さんは「那須さんは私の師匠。食材とどのように向き合い選べばいいか。それらをいかに組み合わせて料理すればいいか。料理人の姿勢というか料理の基本を叩き込まれた。パスタがいい見本」と話す。
いよいよ独立というとき、渡辺さんの手元にはパスタの絞り出し器<トルキオ>があった。イタリアで購入しておいた器具だ。「トルキオは取っ手を回しながら麺を絞り出していくんですが、使うには、まずしっかり固定でき、かつ使う者の体にあった台が必要なんです」と渡辺さん。台は誰かに作ってもらうしかない。そこで、伝手を頼って探しまわるなか、銘木加工の職人・佐々木正明さんに出会った。
トルキオを取り付ける台とはどのようなものか、見本となるのは写真しかない。渡辺さんは「何人もの大工さんにできないと断られていたから、佐々木さんが興味を示し、話を聞いてくれたことがうれしかった」と話す。
佐々木さんは京都で家業の銘木商を受け継ぐ三代目。木についてのスペシャリストであり、主に住宅用の材木を扱い木工にも熟練している。息子と変わらぬ年代の渡辺さんが、開店前に自分の店の要となるモノを作ってほしいと頼んできたのだ。「木のことだし、形は写真を見ればわかる。使い方も聞けば想像できた」と佐々木さん。それに「彼のひたむきさを感じた」と当時を振り返ってくれた。「注文を受けたからには、納得してもらえるものを作るまで引き下がれないわな」。
しかしながら両者の話によれば、互いに満足できるまで相当な時間をかけたようだ。いくつもの木を選んで試作し、使い勝手を検討する繰り返し。何度も会って話すうちにいつしかお互いの気持ちまで通じるようになっていたという。そうして、一生使えるほどの大事な道具(パスタマシーン)ができた。
渡辺さんは佐々木さんの姿に、あらためて「職人の心意気」を教わったと言う。使う者の身になって作ること。けっして自分を押し付けず、必要ならば何度でも確認し、物事を求められている方向へと進められること。そんな職人の姿を。
そして、佐々木さんの挑戦する姿勢に刺激を受けたとも言う。料理人だって同じである、現状に満足せず新たなことに挑み前へ前へと進まねばならない。その姿は師匠の那須さんを思い出させた。
独立開店して10年。渡辺さんは手打ち生パスタを作り続け、店の定番にした。その心意気は今や多くの人を引きつける。地元で採れる野菜をはじめ、いくつものチーズやオリーブオイルなどを使い分けた料理に評価は高く、すでに3店を経営するまでになった。けれど、挑戦はさらに続く。今年末の完成を目指した新たな本店(一軒家)の建築に着手。渡辺さんの次なる展開に注目が集まる。
[2009年7月28日取材]



住所 | 京都市中京区堀川通御池西入ル |
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住所 | 京都市中京区西ノ京千本通御池下ル |
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TEL. | 075-812-0601 |
住所 | 京都市中京区壬生車庫前 坊城ビル 1F |
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[ 掲載日:2009年8月18日 ]