「分かち合う喜び」をSOUZOUする

辻井 良樹さん
「ポアール」代表取締役社長・グランシェフ

大阪・帝塚山に本店を構える「ポアール」は、関西にまだ数えるほどしか洋菓子屋がなかった1969年(昭和44年)に創業。現在は、創業者・辻井良朗さんを父にもつ辻井良樹さんが、グランシェフ兼代表取締役社長として日々、現場に立つ。今では大阪市内に6店舗(キヨスク店舗含む)を構えるほか、Premiumフルーツソルベ専門店「ポアール・デ・ロワGINZA」のヴァーチャルショップ、さらには「ポアール公式ストア」と「ポアール・デ・ロワGINZA」の2つのオンラインストアも展開する。

2代目として守り続けてきたこと。それは「絶対的に美味しいものにこだわる。そして、お客さまの期待を‘心地よく裏切る’お菓子づくりです」と辻井シェフ。守るべきは守り、変えるものは変える。家業を企業へ飛躍させた辻井シェフならではの流儀には、目を見張るものがある。

「分かち合う喜び」をSOUZOUする。
この言葉は、「ポアール」の企業理念であり、8つからなる行動指針(クレド)の一つだ。
https://poire.co.jp/about/philosophy/

店で働く全スタッフが、クレドカードを携えていて、毎日のように朝礼で共有。カードに記されたその行動指針は、製造や販売ほか、各部門の担当者が集まり、3ヶ月のグループワークを重ねた末に完成したものだ。
「皆で一緒に考えると、行動指針の一言一句に、意識が行き届くと思うんです」。

現在、30人近い菓子職人を筆頭に、150人近い従業員が「ポアール」を支えている。しかし約5年前、辻井シェフは人材育成で壁にぶち当たることもあった。「若いスタッフが続かず、菓子職人が育たない…」。そう悩んでいたある日、若手の菓子職人と、パートタイマーの女性スタッフとのやり取りが目に入った。「ある若いスタッフが、ケーキの仕上げを、先輩にチェックしてもらおうと現場を離れるときでした。隣で作業をしていたパートの女性が、彼にこう言ったんです。“アンタ、ここ直さんと(先輩に)怒られんで”」。

その言葉には、長年勤務するからこその重みがあり、しかも母親が息子に放つような、優しさがあったという。「スタッフは“そーっすかねー”と言って、淡々と修正していました。そこでハッと気づいたんです。若い子達を育てるには、ベテラン職人の存在はもちろん大切ですが、パートタイマーの女性の力が、とても大切であることを」。

製造現場を見渡せば、「ポアール」で働きはじめて10〜15年選手のパートさんも少なくはなかった。
「皆さん、仕事が早くて、とても丁寧なのです。そして単調な仕事があったとしても、楽しみながら進めてくださる」。パートスタッフの中には、子育てが落ち着いた主婦もいれば、趣味のお菓子作りが高じて働きはじめた方も。ベテラン勢を見渡せば、自分の名前を柄に刻印した、パレットナイフやペティナイフを持ってきている女性もいた。
さらに、パン製造部門のパートさんは「家で試作してきたんだけど、このパンどう思います?」なんて強者も。辻井シェフ曰く「みなさんそれぞれが「ポアール」のファンとして、働きに来てくださっています。だからこそ、お菓子一つ一つに対して、そしてスタッフに対しても“ハートと腕(技)”をもって接してくださるのです」。
結果、未来に繋げる力を育むことができた。そして職務の垣根を超え、チームとしての信頼関係が育まれていく。

リスペクトし合う信頼関係は「ポアール」で働くスタッフだけにとどまらない。生産者との関係も同じことが言えよう。
日本の旬の果実を贅沢に用いた、プレミアムなフルーツソルベ専門ブランド「ポアール・デ・ロワGINZA」の場合。

「アイスクリーム自体は、創業後すぐに製造を開始。1975年には果物の皮を器として使ったフルーツソルベを発売しました」。丸ごとのメロンやリンゴといったフルーツに、果実味豊かなシャーベットを詰めたスタイルは見た目も斬新で人気を博した。しかし「フルーツソルベの売り上げは右肩下がりでしたし、社内では“直ちにやめたほうが良い”という声もありました」。

それなら、と辻井シェフは考えた。「誰もがハッピーになるやり方があるのでは?いかにして商品の価値を上げるか」を最優先にしたアクションに出る。「まずは生産者に負荷をかけないことを考えました。質が高い食材を、生産者の言い値で仕入れさせていただいたのです」。
結果、日本全国の選び抜かれた一級品の完熟果実の入手が可能に。だけど、フルーツには個体差があるので、レシピは常に微調整しなければならないが、そこには50年以上培ってきた技術が支えた。そうして、エピソードが深くて価値のある、何しろ美味しい、見た目は果実のアイスクリームを続々と生み出してゆく。

SDGsの観点も抜かりはない。鮮度の高い産地直送のフルーツをアイス・シャーベットに加工することで、フレッシュかつ一番の食べ頃である状態で冷凍保存でき、フードロスにも繋がる。しかも規格外のフルーツもピュレにするなど有効活用して、価値のあるものに仕上げていった。

「まずフルーツを半分に切り、スプーンで果肉をできるだけ大きくくり抜き、変色しないよう氷水につけます。ジューサーで撹拌した果肉をサラシで搾り、ジュースにします。さらにそのジュースをザルで濾し、生クリーム、そして味にキレを出すための洋酒とともにアイスクリーマーに入れ、できあがったアイスを皮に戻して完成です」。果肉をくり抜く作業にも、パートタイマーの女性スタッフの繊細な手仕事が底支えしている。

『「分かち合う喜び」をSOUZOUする』にはこんな想いが込められている。
「お買い上げいただくお客様、またそれを分かち合う人達はもちろん、仲間や家族、取引業者、自分自身をも笑顔にできる想像をし、創造すること。あなたのSOUZOUからHAPPYを」。

辻井シェフ、そして「ポアール」スタッフが生み出す小さなきっかけが、大きなうねりに。大阪が誇る洋菓子店の名店から、今後も目が離せない。

丸窓がトレードマークの「ポアール 帝塚山 本店」。2022年12月にリニューアルオープンした2階の喫茶フロアでは、カフェタイムはもちろん、朝食や昼食も提供する。
「ポアール・デ・ロワGINZA」のフルーツソルベには、匠の技が詰まっている。ラインナップは、今がまさに旬の果実を用いた商品が中心。オンラインストアで購入可能。
2023年12月には北新地に、「ポアール・ル・ボン ブール」がオープン。“いい香り、いい一日。なんておいしいバター!”がテーマの、焼きたてフィナンシェ専門店。
「ポアール 帝塚山 本店」
住所 大阪市阿倍野区帝塚山1-6-16
TEL. 06-6623-1101
営業時間 売店9:00~20:30、喫茶9:00~20:00(19:30LO)
定休日 年中無休(※元旦のみ休み)
web https://poire.co.jp/

[ 掲載日:2024年7月22日 ]