料理だけでは見えない、モノの本質を教わった「建仁寺 祇園 丸山」丸山 嘉桜さん

2010年7月に開店をした日本料理店「飯田」。端正な料理と、通をも唸らせる骨董や古器、そして設えに至るまで、主の研ぎすまされた美意識が、訪れる客をほっと和ませる。ご主人・飯田真一さんが常に指標とするのは、師の丸山嘉桜さんだ(「建仁寺 祇園 丸山」店主)。
「料理人修業10年の節目に、丸山さんのもとへ。しかし、僕が自信をもってやって来たことを180度ひっくり返されることばかりでした」と飯田さん。
丸山さんから常に聞かされていた言葉が、「料理だけ見ていてもアカン。モノの本質は、そこにはない」。毎日花を生け、掛け軸を選び、庭の隅々にまで気を配る。そんな、空間づくりはもちろん、仕入れや仕込みなど、客が見えない部分への気遣いにもそれは窺える。
たとえば、魚の管理方法。保存ひとつをとっても、白身、赤身、青背…と、ひとつひとつに温度が違った。例えばマグロの赤身なら、摂氏0度で保存。軽く真空をして氷を当てるのだが、氷が大きいと当たる面積がまばらになる。ゆえに、雪のように細かく砕いた氷を敷き詰め、冷気が回りやすくなるようアルミホイルで包む。また白身の保存は、木箱のなかを10度に保つのだが、冷気が直接当たらないよう木箱に段ボールを敷き詰める。白身は冷えすぎると身が締まりすぎるからだ。この他、子持ちモロコなら冷気で内臓が固まらないよう、氷の上に箸とバッドをかませるなど、魚それぞれの特性を見極めた徹底した管理を必要とした。「この魚にはどのような管理が最適か? 丸山さんはまず、スタッフに考えさせます。ですから、僕らスタッフは、魚の欠点をどう改善するか、それをどうやって補うか?を考えていくところから、最適な管理方法を見出すのです」。「まず自分で考えなさい」。丸山さんのその言葉を常に胸に刻み、プロとしての自覚を養っていった。
「丸山さんから教わったことは、僕の店作りにも生かされています」と飯田さんは話す。「丸山さんは、『光・風・音』を考えて建物を作りなさい、選びなさい、と。それには庭が必須だとよく仰っていました」。庭から差し込む陽の光とともに、命ある木々の“気”が店の中に入ってくるよう、風通しも考慮しなければならない。「“庭”の美しさはもちろん、ひとつひとつにちゃんと意味があるんです」。
飯田さんが1年越しで見つけた物件は、昭和初期建築の元茶道具店。玄関からは床の間が目に入り、靴を脱いで上がりカウンターへ。その向こうには、美しく整えられた坪庭が。「光の入り方、風の通り方、何もかもがイメージと一致し、もうここしかないと即決でした」。そして昔ながらの波打ちガラスがあるかと思えば、海外のアンティーク照明やベトナム製の置物を配するなど遊び心が楽しい。「決まりはないと思うんです。この建築が醸し出す和の趣に、いかに調和するかに軸を置き、設えなども考えます」。
飯田さんといえば、古器や名器好きとしても有名だ。使う器は、魯山人、中国・明の時代のものや、歴代の楽や永楽ほか。茶懐石を意識した献立の中に、それらがさりげなく使われている。「料理と器との調和はもちろん、器の順にも意味合いがあります」。たとえば、江戸後期以前のものから幕末の器、そして魯山人へと、時代の流れを意識し、構成をする。モノの本質とは何か?と常に自身に問いかけると同時に、見えるもの全てのバランスと調和を常に考える。
「卓の上、皿の中はもちろん、周りの空気も一緒に食べてもらいたい」。空間全体でもてなす飯田さんの押しつけのない気持ちは、おいしさの満足感とともに心がほどけていくような安心感を与えてくれる。
[2011年10月25日取材]


住所 | 京都市中京区姉小路通富小路西ル |
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TEL. | 075-231-6355(要予約) |

[ 掲載日:2011年10月31日 ]