心に響く、パイオニアたちの音楽

ソムリエの米沢伸介さんが、ワインバー「ナジャ」を構えたのは1997年。バーだった店を引き継いでいるので、そこからさらに時を重ねていき、いまや年齢不詳の空間となり、無国籍としか表しようのない独特の雰囲気を醸し出す。
酒飲みの空間は、肩肘張らず楽しめ、長居もできる。店側から見れば、酒や料理をはじめ、話題や情報の提供、音楽など気持ちよく酔えるための心地よいサービスを多様に用意している。とくに、店主がひとりで応対する酒場は、主の個性やスタイルが色濃く反映される。
「ナジャ」も例外ではない。店内には、セラーに納まりきれない数のワインボトルが並ぶ。空き瓶、レコード盤やCD、ワイン関連の書籍や雑誌などの積み重なりは、店とともに歩んできた主の歴史を表す。
米沢さんは、ホテルでサービス一筋のキャリア。独立する前の数年間は、ホテル阪急インターナショナルでバンケットの飲料セクションを統括していた。同ホテルは1992年に開業。当時、米沢さんは30前の年齢で、グループの戦旗店となる新しいホテルに重要な役割を担うべくヘッドハンティングされたのだった。
こうしたキャリアアップの契機も「ソムリエの資格を取得したことから始まったように思えます」と、米沢さんは話す。
職業上、食への関心は高かった。食べるのも好き、飲むのも好き。その延長でワインに興味をもち、自分なりに勉強もした。「はまってしまいました。文献を漁ったりしているうちに、ワインは体系的に学ばないといけないと思ったのです」。
そして、ワインスクールに通うなか、日本ソムリエ協会が認定するソムリエなる資格制度があることを知る。「資格を取ってからは、周囲の反応が変わりました。ワインに関しては、皆がボクに一目おくのです」。こうして、プロ意識に目覚めさせられた米沢さんは、ワインに対して、ますますどん欲になっていった。
「個人的興味で始めたことなのに、いつしか、ライフワークになりました」。ヘッドハンティングされたのも、当時はまだ希少な存在のソムリエであったからこそ。独立して開いた自店も、ワインバーと、すべてはワインに導かれての結果だ。
店であれ人であれ、ワインにつながると、すべてが刺激を受けることばかり。それよりも、もう少し個人的な気持ちに沿って考えてみれば、と言って、米沢さんが挙げたキータームは、音楽だった。
「音楽も味わってほしいから、音量も適度に大きくしてます」というように、聞かせたい(聞きたい)との思いを感じる。ワインの選択と同じで、CDをこまめに選び替える。時にはターンテーブルでレコードもまわす。「ナジャ」でかかる音楽は、単なるBGMではなく、快適さをもたらす大切な存在であることがわかる。
米沢さんのリスペクト・ミュージシャンは、アストル・ピアソラとジョアン・ジルベルト。前者は、クラッシックなど音楽的素養をもとにしたモダン・タンゴの産みの親。後者は、ボサノヴァ創成者。いずれも、パイオニアである。
でも、なぜ、南米の音楽なのかを訊くと、ワインと通じるところが多いからという答えが即座に返ってきた。「タンゴの官能は熟成したピノノワール。ボサノヴァの爽やかさは自然派の透明感溢れるワイン」というように、米沢さんのなかでは、感応しあう。
「それに、既存にはない音楽を創造していることに刺激を受けるんです」。70年代のパンクロックに衝撃を受けたのは、米沢さんが中学生の頃。それ以後、80年代のロックシーンにおける破壊と創造を、同時代的に接してきた経歴が背景にある言葉だ。現代では、ミニマルミュージックのスティーブ・ライヒ、さらにジャンルを融合させたプロデューサーとして知られるエイドリアン・シャーウッドという名も挙がる。音楽に限った話でさえ、米沢さんの傾倒ぶりがうかがえる。
好きなことにのめり込み、得た知識や経験が、米沢さんのなかでは、どれほど熟成されていることだろう。愛飲家だけなく、供給する側や広める側も含め多くのワイン好きが「ナジャ」に集うというのも納得できるのだった。
[2011年12月18日取材]




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[ 掲載日:2011年12月22日 ]