新たな発見と刺激を求めて行く 中国への旅

松本 明さん
中国料理「アムアムホウ」オーナーシェフ

松本さんは、中国の国内で実際に提供されている料理と、自分が神戸で学び身につけてきた中華料理とは、あまりにちがうことに衝撃を受けたという。

そこで、現在進行形の中国料理を学ぶために中国本土へ渡った。四川省濾州市で四川料理、香港で広東料理、それぞれ現地の店の厨房へ入り調理に携わり、今の中国料理を体験して帰国。2008年7月に独立し、「アムアムホウ」を開いている。

例えば、四川料理を代表する料理に挙げられる麻婆豆腐。日本においては中華料理の定番にもなっているが、もともとは家庭料理の位置づけだと、松本さん。「四川省では、一部の専門店を除き、ほとんどの店のメニューに麻婆豆腐はのっていません。もちろん、オーダーすれば、どこでも作ってくれますが‥」

外食するなら、家庭の味よりもプロが作る料理を味わいたいもの。松本さんは、現地の各店には、実にさまざまな豆腐料理があることを実感したという。

そのひとつが“麻辣豆花”という豆腐のマーラーソース料理。麻は、花椒の爽やかさと痺れ。辣は、唐辛子の香りと辛味。その組み合わせ、麻辣(まーらー)味は、四川料理の味の基本になるものだ。

「麻辣豆花は、おぼろ豆腐に、ナッツやザーサイ、香味野菜を加え、麻辣味に仕上げた料理。麻婆豆腐とはまったく別の料理です」

松本さんは、自店を構えた後も、時間をつくっては中国へ頻繁に出かけている。 「野菜、調味料、薬味、香りの出し方など、まだまだ知らないことが多くあります。だから、行くたびに発見があって、いつも刺激を受けて帰ってくるんです」。

旅は、単なる食べ歩きではない。かつて修業した店の厨房へ入り、料理の変化を直に見聞したり、知り合った中国の料理人との情報交換も行なうなど、実際的だ。松本さんは、2010年には中国で試験を受け、中国の調理師免許も取得している。

また、時には、香辛料の卸を訪ね、新しい材料を仕入れてくる。「日本で手に入るものとは、香りや味がちがうのです。五香粉なんて、甘くて旨いのですから」。今や、香辛料は独自のブレンド、醤(じゃん)やソースは自家製が多いという。

こうして、中国から帰るごとに新しいメニューが増えていく。「今の中国で作られているのと変わらない料理を味わってほしい」との思いが、独自のスタイルになって現れる「アムアムホウ」。松本さんは、今年も2月に香港を訪れたという。その成果を楽しみに待つ、お客さんも多いにちがいない。

[2012年4月11・13日取材]

皮付き豚バラ肉のクリスピー焼き
表面の皮がパリパリに焼けている。その食感が、バラ肉のジューシーな味わいを引き立てる。タスマニア産の粒マスタードを添えるのは、松本さんならではのアイデア。
ピーナッツの黒酢漬け
中国では香醋と呼ばれるほど、香りの高い黒酢。なかでも、中国では最高とされる山西省産の老陳醋を使用している。薄皮の付いた落花生のピクルス。
羊肉と新じゃがの四川スパイシーライスパウダー蒸し~クミンと四川花椒の香り
松本さんが中国で手に入れた香辛料のなかから、クミンと花椒をブレンドさせた独自の四川スパイスを使用。米粉で蒸した羊肉の下にじゃがいもが隠れている。
A菜の腐乳炒め
A菜は、油麦菜と呼ばれる細長のレタス。豆腐に麹を付け、塩水で発酵させた腐乳と一緒に炒めた一品。
*この炒め物は、野菜が3種(空心菜、A菜、豆苗)から、炒める方法が5種(ニンニク炒め、腐乳炒め、中国アンチョビ炒め、海老味噌炒め、自家製XO醤炒め)から、それぞれ選んで組み合わせオーダーできる。野菜や味付けは、季節ごとに変わる。
トロトロ黒ゴマ餡のピーナッツ団子
落花生を砕いた粉をまぶした団子。皮はもちっとして、中にはトロトロの餡が入っている。中国では近年、中にトロッとした餡が入り、食べる前に驚かされる料理が目立つと松本さん。
中国料理「アムアムホウ」
住所 神戸市灘区深田町3丁目4-13 アルカディオ六甲 1F
TEL. 078-891-6171
営業時間 ランチ11:30~14:00(ラストオーダー)
ディナー17:30~21:00(ラストオーダー)
定休日 火曜日(毎月1回不定休)
公式サイト http://ngamngamhou.blogspot.jp/

[ 掲載日:2012年4月26日 ]