料理の本質を教わった2人の恩人とイタリア料理の名シェフたち

「生産者が手塩にかけて育てた素材を、いかに生かすかを常に心がけています」とは、『旬菜 桜花』の店主・森田龍彦さん。扱う食材は、河内鴨や犬鳴ポーク、直接畑へ出向き親交を深めた生産者が作る大阪産野菜も多い。「地元食材に関心を持つきっかけを作ってくださった方がいます」と森田さん。その人とは、浪速割烹「㐂川(きがわ)」の初代であり、浪速料理研究家である上野修三さんだ。
出会いは9年前に遡る。森田さんが参加していた『NPO法人 浪速魚菜の会』や上野さんを囲んだ日本料理の勉強会などで交流を持ち始めたという。「上野さんは“料理人として、そして人として成長しなさい”と。僕は有名店や上野さん直系の店での修業経験がありません。でも上野さんは、“やれるところからひとつひとつ、実践すればいい”と言ってくださったのです。僕自身の料理人としてのベース、そして方向性を教えてくださいました」。
上野さんを通じて森田さんは、大阪産の食材に関心を持つように。あるとき、なにわの伝統野菜作りに励む生産者を訪ねると、“こうして伝統野菜を作れるのも上野さんのおかげです”。そんな言葉が生産者の口から次々と出た。「料理人が同業者に影響を受けることは多いですが、生産者にそこまで尊敬の念を持たれる上野さんは本当に凄い人だと実感しました」。そして今、森田さんは、生産者との繋がりを第一優先に、その食材の持ち味を生かす料理を作る。
「私の料理に、的確なアドバイスをくださるフラワーショップのご主人の影響も大きい」と森田さん。店で生ける花を卸している『RJフラワー』の八木敬蔵さんだ。「八木さんと出会うまで、僕の料理は、これもあれも食べて欲しいという盛りだくさんの構成でした。しかし、花も料理も“見立て”が大切だということを教わりました」。それは、「器と料理」という概念を超えたところにある考えだという。「いかに演出ができるかが重要なのです。『秋』の場合、夏に近い秋もあれば、物悲しく人恋しい秋や、収穫祭のような賑やかな秋もあります。それらを明確にイメージした上で、具現化することが“見立てる”こと。そのなかで、何を食べさせたいのかがはっきりしている、料理を作り続けたい」と森田さんは続ける。
上野と八木さんに共通している点とは、料理やお花の歴史的背景や文化を、勉強し続けていること。「その点では、イタリア料理の2人のシェフからも大いに刺激を受けています」。森田さんがご近所付き合いをしている、『ダ ジュンジーノ イゾラベッラ KOBE』の八島淳次シェフ、そして『イ・ヴェンティチェッリ』の浅井卓司シェフだ。「2人は、イタリア料理の文化やレストラン文化への理解、そして食材に対する切り口や視点が本当に凄い」。ある日、森田さんは八島さんの店へ食事に伺った。「コース全体の流れや、メイン料理の存在感はもちろんのこと、添えられた付合せひとつひとつにも感銘を受けました。例えばネギの場合、青い部分は青臭い香りや小気味良い食感を残したまま調理され、白い部分はクタクタに煮て、甘さを十二分に引き出していました。私は、“ひとつの大根で100種類の料理を作れる料理人になりなさい”と、『RJフラワー』の八木さんから教わりましたが、八島さんはそれを実践されていると思うのです。1つの食材に100通りの視点ができれば、素材が持つ可能性や着眼点がぐんと増えます。私も努力したい」と森田さんは目を輝かせる。浅井シェフに関しては、「とにかく発想力が凄いのです。ひよこ豆の煮込みに大徳寺納豆を混ぜてコクを深めるなど、浅井シェフの料理は、食べるたびに驚きがある」とも。
人生の先輩ともいえる人との出会いにより、森田さんの技も味も高められていくのだ。
[2013年10月24日取材]


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TEL. | 06-6201-0223 |
営業時間 | 11:30〜13:30入店(火曜〜金曜) 17:30〜22:00入店 |
定休日 | 日曜、祝日不定休 |

[ 掲載日:2013年10月31日 ]