ひと・もの・こと 多くの出合いから料理は生まれる

髙山 英紀さん
「メゾン・ド・ジル芦屋」料理長

「メゾン・ド・ジル芦屋」は、フランスの二つ星レストラン「ジル」日本店として、2007年に開店。オーナーシェフのジル・トゥルナードさんから、海外へ初めて進出する大事な店の料理長に指名されたのが、髙山英紀さんである。

髙山さんは主に東京とフランスで修業していて、関西には馴染みがない。「でも、それ以前に出会い、知り合った多くの縁があって、芦屋へ導かれたのだと思い、お引き受けすることにしたのです」と話す。

「よく、料理は人と言われますが、出会いだけではなく、多様な物事との出合いまで広げれば、それこそ無数の接点ができます。そうした点をいかに結び、線にしていくか。だから、可能な限り数多くの点を持ちたいと思っているのです」

もちろん、点を線にするだけで料理が生まれるというのではない。「選り分けたり、突き詰めたり、ときには削ぎ落としたり。料理を作り出す過程では、なにより自分の感性が試されます。小さな点をつなげるのは、皿の上、口の中で、味や香りが組み合わさるように計画していくのと同じなのです」と髙山さん。

「フランス料理は、調味料が限られており、スパイスの使い方によって料理自体も変わってしまいます。例えば、黒胡椒か、白胡椒かの選択でさえ手が抜けません。フレンチの基本になる料理体系を解釈し、その上で、新しいものを創造するとき、感性も含めより多くの“点”があれば、選択肢も増えて視界も広がりますからね」

こうした髙山さんの料理観を支えているのは、なにか。3つの時期にそって話をうかがった。ひとつめは、東京での修業時代。フレンチの名店「シェ・イノ」では、井上旭オーナーシェフとともに、古賀純二さん(現「シェ・イノ」料理長)のもとで、フランス料理の基本を学んだという。

「当時、古賀さんは、シェ・イノの代名詞でもあるソースを20年近く担当しており、店の味を守っていた人です。フレンチの場合、すべての料理にソースがあり、ひとつの点であるソースがいかに大切かを教えられました」と髙山さん。

そして、26歳で渡仏。「約8年間の下積み後ですから、ステップアップのためです。料理の背景となるすべてを知りたかったし」と、目的も明確だ。結局、一つ星レストラン「ル・シャルルマーニュ」、三つ星レストラン「ラムロワーズ」、三つ星レストラン「レジス・エ・ジャック・マルコン」などで約3年半の経験を積む。

「真空調理、低温調理、それにエスプーマを使うなど新しい料理の動きと重なって、タイミングがよかった」というフランスでの修業時代。マルコンさんはじめ、星を獲得するほどの料理人からは、プロであるための姿勢を教えられたと話す。

「彼らは、常に向き合っているんですね。食材、調理方法、スタッフ、経営、そして、お客さん。あらゆることに、きちんと向かい合う。厨房でも先頭に立って働く。流行や社会の動きにも敏感でしたが、自己管理も怠りませんでしたね」

各店で大切に継がれているスペシャリティの料理もマスターするなど、髙山さんにとっては実りの多いフランス修業になった。帰国後に、思いもよらなかった現職への要請が、ご本人に対する周囲の評価の高さを実証していると思われる。

しかし、必ずしも順調ではなかったようだ。「ジルさんのスタイルを踏襲するだけでは、なかなか受け入れてもらえなかったのです」そこで、帰国後の時期の話になる。関西でのつながりのない髙山さんが、同じ芦屋に店をかまえる「京料理 たか木」の髙木一雄さんと知り合えたことから、転機を迎える。

「髙木さんには、日本料理の技を実際に伝授していただくなど、和の心を学んでいます。そこから、日本人であることを意識してフレンチに取り組むようになったのです。今は、日本でできるフレンチを掲げ、意欲的に取り込んでいます」

新たな“点”が加わり、「メゾン・ド・ジル芦屋」髙山さんの料理も進化を果たしているというのだ。

最後に髙山さんの実力を示す話を付け足しておきます。2013年10月、髙山さんは、世界的なフランス料理コンクール「ポキューズ・ドール国際料理コンクール」の日本選考会で見事優勝。日本代表として、2015年1月にフランスで行われる本選への出場を目指しているのです。長い挑戦になりますが、エールを送りたいと思います。

[2013年12月11日取材]

「ポキューズ・ドール国際料理コンクール」日本選考会の優勝カップを手にする髙山さん。
参照:ポキューズ・ドール国際料理コンクールのHP
http://www.bocusedorjapon.jp/index.html
「ポキューズ・ドール国際料理コンクール」日本選考会で優勝したときの髙山さんの料理。和の食材や日本料理の技がフレンチと融合して、高い評価を得た。
【メニュー】
松茸と湯葉で包み込んだフランス産仔牛 柚子とトリュフ風味、毬栗に見立てたリードヴォーのファルシィ、牛蒡に詰めた仔牛のカイエット山椒風味、黒米と茸の大根巻き、柚子とトリュフの香るソース
フランス料理「メゾン・ド・ジル芦屋」
住所 兵庫県芦屋市平田町1-3
TEL. 0797-35-1919
営業時間 昼/11:30~13:30(L.O.)
夜/18:00~21:00(L.O.)
定休日 月曜日
公式サイト http://maisondegill.com
店舗は、芦屋川に沿って建つ一軒家。中庭に面したホールは、ウエディングのパーティー会場にもなる。

[ 掲載日:2013年12月19日 ]