“シャンパーニュの魅力”と“ビジネス力”を教えてくれたハインツ・J・シュワンダーさん。

大阪・北新地とその周辺で、シャンパーニュを軸に、バーやビストロなどコンセプトの異なる店舗を展開する、元田武章さん。「今の僕があるのは、『ヒルトン大阪』での修業時代、お世話になった総支配人のおかげです」と話す。その人とは、『ヒルトン大阪』で10数年に渡り総支配人を務めた、スイス人のハインツ・J・シュワンダーさんだ。
元田さんは専門学校卒業後、96年に『ヒルトン大阪』へ入社。約10年の在籍期間中、洗い場からルームサービス、メインダイニングほか、さまざまな部署を経験した。最終的にはバーで働きたいと思い、メインサービスバーへ異動することに。メインサービスバーとは、ホテル内にあるさまざまなレストランやバーに、お酒を選んで運び、氷を削り、フルーツを切る、といった作業を一手に担う、「レストランやバーの裏方」である。ある日、元田さんはレストランのランチバイキングに訪れた女性客から「白ワインを飲みたいんだけど」と尋ねられた。「当時、バーでお客様と接する機会が僕にはありませんでした。ランチタイムにグラスワインを提供するシステムはありましたが、テーブルにドリンクメニューが置かれ『ドリンクはいかがですか?』と聞く程度。そこで、バーの先輩の見よう見まねで、グラスで提供できる白ワインのボトルをお客様の前に複数並べ、ご説明させて頂きました」と元田さん。その一部始終を、ハインツさんが遠くから見ていた。そして「『あいつはサービスができる人間なのに、なぜ裏方なんだ!今すぐ、バーに入れろ』と、総支配人がバーのマネージャーに伝えたみたいです」。そうして翌日の夜から急遽、念願だったバーにスタッフとして入ることとなる。
「総支配人は、ホテル内の隅から隅にまで目を光らせる、非常に厳しい人でした」と元田さんは話す。例えば、館内の回廊にあるキャンドルがひとつ消えているだけも担当者は叱責され、「お客様の目に付きやすいように」とレストランにディスプレイするワインボトルの位置にまで細かな指示を入れる。さらには。通常、総料理長が行う月替わりメニュ−の、味わいや盛り付けに至るまで、事細かにチェックを行う人だった。「僕もそうでしたが、皆、総支配人に怒られながら仕事を覚えていきました」。そこには、ハインツ氏が強く思う、ホテル、そしてレストランやバーなどの確固たる「理想像」があったのだ。「例えばバーなら、海外のホテルによくある“クラブ ラウンジ バー”が理想だと。イメージは店内の半分がスタンディングで、アペリティフにも対応。食前から食後まで、あらゆるシーンで使え、常に賑わっている活気あるバーを作りたいと」。
元田さんは、厳しい上司であるハインツ氏と深い絆で結ばれていた。「総支配人はホテルに住んでいました。23時頃になると毎晩、ナイトキャップにシャンパーニュを飲んでおられました」。ハインツ氏はいつも決まって、シャンパーニュ『シャルル エドシック ミレジム 1995』を飲んでいたという。ある時、“元田、お前も一杯どうだ”と薦められた。「日本にはもう入ってきていない、あのシャンパーニュの、熟成感からくるまったりとした蜂蜜のような香り、味わいに、こんなシャンパーニュもあるのか!とビックリしました。当時、190席あるメインダイニングでは、「ドン ペリニヨン」がグラス販売だけで1ヶ月に1000杯以上出る景気の良さ。でも、それらとは明らかに別物のおいしさを感じたのです」。そんなシャンパーニュとの出会いが、ホテル退職後の彼の方向性を位置づけることとなった。さらに。「総支配人は、マネージメント能力に長けていました。丁寧なサービスはもちろん、料理やお酒がおいしいのは当たり前。それ以上の感動がないと、お客さんは戻ってきてくれない、と。彼は数字だけを追う総支配人ではないのです。お客様をいかに感動させるか。クオリティの高さをつねに保つことで、結果、それが売上げに結びつくといった、ビジネスの成功例を組み立てるための、確固たるセオリーを持っていたのです」。
元田さんは、ヒルトン大阪を退職した後、“ビジネスとしての飲食店展開”をやって行きたいと考えるようになったのも、ハインツ氏の影響が大きいという。そんな折、現在の勤務先「有限会社T・M」に出会う。「ずっとバーテンダーをやっていたのでバーを経営する自信はありましたが、何か強みがないと生き残っていけない」。それなら大好きなシャンパーニュをグラスで何種類か開け、シガーも楽しめる店をと、06年、西天満に『ニューヨークバー シャンパン&シガー(現 シャンパン食堂の洋食屋さん)』を開店。その後、和食・洋食の修業をしたシェフが入り、料理の提供も行うことになる。そこで、「2店舗目は、バーのポジショニングが欲しい」と08年、堂島に『New York Bar UPPER CLUB Champagne&Cigar』を開く。
さらに。「シャンパーニュを嗜む、アッパー層をゲストとして持ち続けるには、若い世代の人たちが気軽にシャンパーニュを楽しんで頂く場所が必要」と11年、北新地にシャンパーニュとビストロ料理『シャンパン食堂』を、さらには「カウンターでさくっと気軽に使える店を」と、12年にシャンパーニュと炭火焼料理をテーマにした『ル・コントワール・ド・シャンパン食堂』を同エリアにてオープン。両店とも1000円未満のグラス・シャンパーニュも提供しており、「シャンパーニュを気軽に」という元田さんの取り組みは今や、北新地という地が“シャンパーニュの街”として認知されるまでに。
そして13年8月、北新地本通りに、シャンパーニュと餃子の店『スタンドシャン食』を開いた。フレンチの豚肉料理から発想を得たという餃子の餡には、豚バラ肉のほか、じっくり炒めたキノコも入る。また、グレープフルーツを用いた自家製ポン酢ほか、付けダレにも工夫がなされ、シャンパーニュの酸や果実の甘みと合う餃子として、早くも固定客を掴んでいる。
ハインツ氏から教わったシャンパーニュの魅力、さらには氏から学んだ「ビジネスとしての店づくり」が、今の元田さんの血となり肉となっているのだ。
[2014年11月3日取材]


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[ 掲載日:2014年11月11日 ]