おやじは“愛の塊”「祇園 さゝ木」佐々木 浩さん

西天満・老松町にて、12年6月に割烹店「老松 喜多川」を開いた喜多川 達さん。「料理だけでなく、空間の心地よさを含めた“時間”を買って頂ける店でありたい」。そう話す喜多川さんは、辻調理師専門学校卒業後、「船場吉兆」、「一汁二菜うえの」、「祇園 さゝ木」での修業を経験。曰く、「今なお刺激を受け続けている人物が、『祇園 さゝ木』・佐々木のおやじです」。
修業時代から、休みの日となれば気になるお店の食べ歩きを欠かさなかった喜多川さん。22歳のとき、初めて「祇園 さゝ木」へ伺うことに。「なんじゃこりゃー!でしたね。使用している食材の質、使い方。さらには、“佐々木劇場”と称される、お客様に喜んで頂くための演出に至るまで。衝撃的すぎて、自分のなかに雷が落ちました(笑)。その後、毎月通わせて頂きました」。通い続けて1年経った頃、友人である和食料理人から、佐々木さんがスタッフの募集をしていることを聞く。「その日の夜、すぐに『祇園 さゝ木』へ電話をしました」。佐々木さんから“一度、話をしようか”と言われ、面談を行うことに。「おやじはこう言いました。“やめとけ!お前には子供がいるし、給料を下げてまで来る場所ではない”と」。喜多川さんは当時の修業先で、献立を考える重要なポジションを任されていた。しかし、またとない機会だと直感し、さらに佐々木さんへ頼み込んだところ、「おっしゃ、分かった。そこまで言うなら来い。お前のおやじ(師匠)に話するさかい」と佐々木さんから了承を得たのだ。しかし、喜多川さんは当時、勤めていた修業先の師匠から“店を離れるのを1年、待ってほしい”と言われた。佐々木さんに事情を説明すると、「佐々木のおやじは“分かった。1年待つからウチへ来い”と仰ったのです。涙が出るほど嬉しかった」。
1年を経て、「祇園 さゝ木」の門を叩くこととなった喜多川さん。「僕ができるところから手伝おうと、洗い物をしていたところ、おやじの右腕・木田康夫さんに“ウチに洗い物しに来たんちゃうやろ!はよ串を打て”と言われ、焼き物の串打ちをし始めたことを今も鮮明に覚えています」。そして、おやじとしての佐々木さんには、食べ歩きの頃には感じ得なかった刺激を多々受けた。それは「料理人としてはもちろん、人間性にいたるまでおやじの全てです」と頬を緩める。たとえば食材の使い方。冬の時期、「祇園 さゝ木」では津居山漁港で揚がったズワイガニを、コース料理のなかに組み込む。〆のご飯はカニチャーハンだ。「高価なズワイガニでしょう。だから、チャーハンを作る工程で、カニの身をビビリながら入れていたんです。すると、おやじは“何びびってんねん。はよ、ガッツリ入れんかい!”と(笑)。おやじは常に、“日本料理って何を食べたか印象に残らないではアカン。あの料理、あの食材がおいしかったとお客様に分かって頂ける、インパクトを残す料理でないと”と、話していました。大胆さと繊細さを併せ持つ、おやじのような料理人にはなかなか出会えませんよ」。
当時、喜多川さんは原因不明の右手首の痛みに悩まされていた。整骨院を5軒ほど回ったが、どの医者からも“腱鞘炎だから、時間が経てば治る”と言われた。ある日、鯛をおろしていた途中、手から庖丁がポロッと落ちた。「これは何かおかしいので、佐々木のおやじに相談したら、すぐさま手首専門の医者を紹介してくれたのです」。そして医者から、驚愕の事実を知らされる。「骨が溶ける病気で、かなり進行していると。右手首の違和感は2〜3年前からありましたから」。「祇園 さゝ木」での修業1年半目に、料理人としての余命を突きつけられたのだ。
右手を使わずしてできる仕事はあるのか、さらには他の仕事での再就職も考え始めていた喜多川さん。「その時です。佐々木のおやじが“治る可能性があるんやったら、ウチで面倒を見たる”と仰ってくださったのです。涙が出ました。佐々木のおやじはまさに、“愛の塊”です」。
右手首の手術を無事に終え、ギプス生活が始まる。職場でできることといえば、電話番のみ。お客様からの予約はすべて、喜多川さんが担当した。「厨房で、スタッフが仕込みをしている。その横にあるテーブルで電話番をしていたのですが、皆が一生懸命働いている姿に堪えられなくなり。これ以上、迷惑はかけられないから、上がらせてほしいと、おやじに頼み込んだのです」。その後、時間をかけて右手首を完治させ、古巣である「一汁二菜うえの」で4年弱、研鑽を積み、晴れて自店を開くことになったのだ。
「佐々木のおやじは、僕にとってマイケル・ジョーダンのような存在。いわゆる、神のような存在なのです」。
喜多川さんのこれからの目標は?との問いに、「先日、おやじの誕生日会があって。『祇園 さゝ木』から独立した弟子たちが集まりました。その時、おやじから“お前らのこれからはな、弟子を育てる立場なんや”と。それをしっかりと受けとめ、精進したい」とも。そして、満席が続く自店において、「今の状況を持続させつつ、常連のお客様とより深く、お付き合いをさせて頂きたい。また、僕らしいとお客様に言って頂けるよう“人間性”が滲み出るような店づくりを行いたいです」と喜多川さんは語ってくれた。
[2014年12月24日取材]

住所 | 大阪市北区西天満4-1-11 |
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TEL. | 06-6361-6411 |
営業時間 | 12:00入店、18:00〜21:00入店 |
定休日 | 不定休 |
料金 | 昼コース5,400円、夜コース15,120円〜 (各税込/仕入れにより変動あり) |

[ 掲載日:2015年1月26日 ]