人と人との繋がり

オフィス街、大阪・平野町にあるイタリアン『Alla Goccia(アッラ ゴッチャ)』。重厚な扉を開け、絨毯敷きの階段を2階へと上がればそこには、木の温もりを感じる居心地のよい空間が広がる。オーナーシェフの北村仁さんは、「日常のなかの特別感を、楽しんでいただけたら」とにこやかに話す。
北村さんは、大阪で一世を風靡したイタリアン『マーブルトレ』グループにて14年間、経験を積んだ人物。うち5年間は中之島にあった系列店『アリアラスカ マーブルトレ(閉店)』で料理長を務めた。「私が刺激を受けたのは、修業時代の“人”ですね。特にオーナーの中野亮さんには、人と人との繋がりがいかに大切かを教えていただきました」。入社時のこんなエピソードがある。面接時、中野さんに“あなたは独立願望がありますか?”と尋ねられた北村さん。「もちろんです。将来的には独立を視野に入れています」とストレートに気持ちを伝えると、「いい答えです。独立願望がある人間は、どんなステージでもやっていける。今日から、自分の店だと思って仕事をやってください」と中野さん。かくして採用が決定。「その後、中野さんはいい意味で仕事を“丸投げ”してくださいました」。だからこそ、『マーブルトレ』グループ各店が、料理人それぞれの個性を前面に打ち出した店として人気を博すことになったのだろう。さらに。「中野さんは、いろんな業界の友達がたくさんいらっしゃいました」。厨房で一心不乱に仕事をするのは大切だが、それだけでは自分自身が成長しない。「人との繋がり、そこからの広がりがいかに重要かを、中野さんから教わったのです」。
そんなオーナーの元に集まった料理人たち。類は友を呼ぶのだろう。同グループでの修業時代、北村さんは先輩・後輩にも恵まれた。当時、『マーブルトレ』の料理長だった上村和世さん(ジョヴァノット)を筆頭に、溝口淑之さん(ラ・ピニャータ)、井川猛志さん(オッタントット)、北山伸也さん(タヴェルネッタ・ダ・キタヤマ)、倉谷毅さん(クラッティーニ)、村上桂司さん(BUN da BUN!!)をはじめ、まさに今、関西のイタリア料理界で活躍しているシェフやソムリエたちと、苦楽を共にした。「料理がおいしいのは当たり前。いかに、お客様を楽しませ、心地よくさせるかを皆、とことん追求していました」。例えば食事中、お客様の目線が少し上がっただけで、何を欲しておられるのか気付く洞察力。「お客様に“すみません〜(お水くだい)”などと言われたら、先輩からとことん叱られるくらい、サービスは徹底していましたね」。
もちろん、修業時代に影響を受けた料理人も数多いる。そのひとりが、先輩である溝口さん(ラ・ピニャータ)の存在。「ブイヨンの引き方から、ミネストローネに使う野菜の切り方ひとつを取っても、“溝口さんはこうしていたよな”と思い出すことが多いですよ」。当時の戦友たちとは今なお交流が続いている。「シンプルなことですが、困った時に相談し合える友人の存在が、必要だと思うのです」。
今年8月に自店を構えた北村さん。曰く、「独立するにあたり、店づくりに関して全く知らないということはなかったです」。『アリアラスカ マーブルトレ』の料理長時代、資金面やターゲット、料理構成をはじめとする店づくりのノウハウを、スタッフと共に模索して見いだした経験があるから。
「私の店には、レストランやトラットリアといったカテゴリーが存在しません。しいて言うなら“大人が集まるレストラン空間”を作っていきたいです」。テーブルクロスはない。なぜなら格式高くしたくないから。その分、料理に原価をかけた上で、作り手と食べ手との繋がり、そしてコミュニケーションを大切にしたいと、目を輝かせる。
[2016年11月11日取材]



住所 | 大阪市中央区平野町3-3-5 NJK淀屋橋ビル 2F |
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TEL. | 06-6203-5555 |
営業時間 | 昼/11:30〜14:00(L.O.) 夜/18:00〜21:30(L.O.) |
定休日 | 日曜、祝日の月曜 |

[ 掲載日:2016年11月30日 ]