サスエ前田魚店から届く魚

プロが作る洋食に、懐かしい味を求める者もいれば、家のとはひと味違う料理を期待する者もいる。時代を経て親しまれてきた洋食への、多様で気ままな欲求に応え、幅広い世代から人気を博しているのが京都の『洋食おがた』だ。
オーナーシェフの緒方博行さんは「気になる食材と出合ったら、生産者さんに会って確かめたくなるのです」と話す。実際に牧場や農園を訪れ、飼育や栽培の方法、取り組みなどの話を聞き、確信が得られた食材を仕入れている。なかでも、京都丹波の平井牛、宮崎の尾崎牛、京都河北農園の野菜など、洋食おがたの料理には欠かせない食材になっているのも多くある。
お馴染みの定番メニューに、こうして選ばれた食材が使われていたら、どうだろう。懐かしい味の記憶も更新させられるほど旨くなるはず。また、正統フレンチやビストロで鍛えた緒方さんが手を加えて作れば、見た目は同じでも他では味わえない洋食になる。これを、多くの人は、大人の洋食と呼んでいる。
ところが、評判のよい肉に力を注ぐうち、メニューの8割が肉料理になっていた。緒方さんは魚料理のレパートリーを増やさねばと思ったそうだ。「静岡に住む友人から、近くに凄い卸業者がいると聞かされていたのです。ようやく今年になって、焼津にある店まで行ってみました」その伝手を頼りに出会えたのが、鮮魚卸小売業『サスエ前田魚店』の5代目、前田尚毅さんだった。
『サスエ前田魚店』は、同じ静岡にあって東西の食通が通いつめる天ぷらの名店『成生』をはじめ、国内外の料理人から篤い信頼を得るオーダーメイドの魚屋として知られている。「お会いして、何故そうなのかよくわかりました」と緒方さん。
「捌き方、締め方、塩する方法、それらを魚の種類に応じて変える。その理由も聞きながら見せてもらいました。オーダーごとに魚の水分や旨みを調整し、鮮度をコントロールしているのですね。魚を熟知していないとできない技術だし、前田さんと話しているだけでも勉強になるのです。それに何より、前田さんの魚への愛情まで感じられ、心を揺さぶられました」
大いに刺激を受け、『サスエ前田魚店』の魚を京都へ送ってもらう段取りになった。「こちらの希望だけ伝え、あとはお任せです。静岡県駿河湾で獲れる魚介は結構いろいろありますから、前田さんの目利きで選んでもらいます」そうして、届けられるたびにまた、新たな刺激の連続なのだと話す。
「ある日、ネットに僕のアジフライが出ていたらしく、うちのアジを使ってよ、と送られてきたのを見てビックリ。身がプリップリ、こんな身の太いアジがあるなんて初めて知りました」と、届く魚の質のよさには驚くばかりという。それに「紙に包みラップして送ってくれるのですが、頭を左に揃えきれいに並べてあるのです。配送にこれだけ気を遣われるのも前田さんのとこだけです」
取材の日に届いていた魚のひとつ、スズキの切り身を見せてもらう。「塩で締めてあります。余分な水分が抜けて甘みが増していますから、余計なことする必要もない」と、緒方さんはカルパッチョふうの一皿にして供してくれた。
口にすると、身がホロッと弾力があり、生の身のはずなのに刺身とはまったく異なる感触だ。洋食の店で、スズキの新たな美味しさを知ることも新鮮である。
こうして『サスエ前田魚店』から魚が届くたびに、どう活かすかの対話が始まった。「店のメニューに並べ始めたのが5月からなので、これからもっと考えて増やしていきますよ」と緒方さん。肉料理には定評のある『洋食おがた』に新たな魅力が加わって、どのような展開になるのか楽しみだ。
[2017年11月29日取材]





住所 | 京都市中京区柳馬場押小路上ル等持寺町32-1 |
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TEL. | 075-223-2230 |
営業時間 | 11:30~14:30(L.O.13:30) 17:30~22:00(L.O.21:00) |
定休日 | 火曜日、月一回不定休 |

[ 掲載日:2017年12月22日 ]