京都ならではの 鍛錬と自覚

竹中 徹男さん
京料理「清和荘」三代目主人

広大な庭園に囲まれた数寄屋造りのお屋敷。日本料理を味わうにはこの上ない環境を堅持するのが、京都市伏見区の京料理「清和荘」である。その三代目主人、竹中徹男さんは「料理人になるための修業をして、戻ってきたのが平成になったばかりの頃でした」と、この30年を振り返る。

長男だから家業を継ぐのは自然な成り行きだったけれど、竹中さんは先代と違い、自ら料理をつくる三代目の道を選んだ。「もともと食べることが好きでしたし、何より、お客さんの料理に対する反応ですね。美味しかったよと喜ばれるのを見ていれば、自分で作りたいと思うようになっていました」と話す。

とは言え、修業から戻った当時は先代も健在だし、生え抜きの料理長もいる。難しい挑戦になるのは覚悟していたという。「厨房では意見を交わすこともありましたが、チームワークによる達成感は何ものにも代え難い訳です。そういう料理人でないと得られない経験をできたのが今につながっていると思います」

竹中さんは、料理人として一人前になることがその後の可能性を大きく開いたというのだ。例えば、日本には日本料理店を継ぐ若い料理人の全国組織「芽生会」があり、京都では「京都料理芽生会」と呼ばれる。そこに迎え入れられたのも、転機のひとつだった。「まわりには先輩しかいません。大先輩に“お近こうに”と言われ恐縮していましたが、聞くこと見ること刺激でいっぱいでした。皆さん料理の話だけでなく、器、絵画、書、設えや庭のつくり、華道や茶の道などに精通しているのが当たり前。日本料理とはどういうものかを教えられました」

そうして未知なる大海へ押し出され、竹中さんは必要と思われる物事は何にでもがむしゃらに取り組んだという。料理の腕を磨いてゆくことで、お客さんからも、同業の仲間からも認められていった。平成16年に京都で設立された「日本料理アカデミー」には当初からメンバーとして参加。「海外の料理人や学識者との交流、行政と共に和食を広める活動などを通じて、料理人としての視野をさらに広げられました」と、ここでも転機になるような経験ができたと話す。

今では、店の外で活動する機会も増えている。「食育セミナーや講演会の講師役もまわってくるようになりました。教える側になると、事前にしっかり勉強しておかなくてはならず、それもまた自分のためになっていると思います」

30年の間に、「清和荘」は何度か大きな改修をされている。「その都度、先輩がたには、経営者としてどう考えればいいか、どう動けばいいか、貴重なアドバイスもいただけまして。ありがたいことです」という話もしてもらえた。時間をかけ、守るべきところは守り、変えるべきところは変えて、築いてきたのが、現在の三代目主人の姿なのだ。その姿は、日本料理の伝統を踏まえた上でなお、新しい食材や調理技術に向き合い、ワインに合わせるなど新しい料理にも挑戦を続け、評判を高めてきた気鋭の料理人の姿と見事に重なる。

なんと、竹中さん、来年には「京都料理芽生会」を卒業するという。「順繰りなんですね。若いひとを見ていると、何十年か前の自分を思い出しますよ」そうして代替わりが行われていくのだ。「二人の息子もどうなるか案じていますが、私のときと同じであえて何も言わず、見守っていきたいと思っています」

竹中さんは、今あるのは、これまで出会い、教えられたり助けられてきた人々の“お陰様”という言葉を口にする。しかし、こうして話をうかがってくると、京都ならではの関係性を強く感じる。同じ料理人にして主となり、家業を引き継ぐ者同士、互いに高め合いながら、つながりを強くしてゆく。鍛錬と自覚、そうして、京料理と呼ばれる日本料理は長くその価値を保っていけているのだと思われた。

[2018年3月29日取材]

近年、新たに設けられた天ぷらカウンターから庭園を望む。池泉回遊式庭園は、建物を囲むように整えられており、様々な部屋から楽しめる。
正面玄関に立つ三代目主と女将さんの竹中夫妻。竹中さんによれば、妻の邦子さんは、ワインを飲み比べながらいっしょに料理を考えたりする良き同士だという。
春らしい、おもてなしの茶。あえて煎茶に、桜の花を浮かべて供する。香りと彩りを楽しめるようにと、こういう工夫を皆で相談しながら進めるのが楽しいと竹中さん。
京料理「清和荘」
住所 京都市伏見区深草越後屋敷町8番地
TEL. 075-641-6238
営業時間 午前11時〜午後10時(午後7時入店)
定休日 月曜日(祝日の場合は火曜日)
公式サイト http://www.seiwasou.com
昭和初期に建てられた数寄屋造りのお屋敷を、1956年(昭和31年)に料理旅館として創業。現在、周囲にはマンションが次々と建つなか、偉容を誇っている。

[ 掲載日:2018年4月20日 ]