焼鳥人生に影響をもたらしてくれた人

竹田 英人さん
「焼鳥 市松」店主

大阪・北新地にある「焼鳥 市松」。凛とした空気が漂うカウンター席。目の前の焼き台にて店主・竹田英人さんは流れるような所作で、自在に炭火を操る。料理は“鶏懐石”(6800円)のみ。秋田の比内地鶏を丁寧に仕込み、焼き上げる串の数々は、国内のゲストのみならず海外のシェフたちをも魅了させている。

「僕が商売を始めたのが1995年。23歳の時です」と竹田さん。大学在学中、アルバイトをした焼鳥屋で、飲食の世界に惚れ込んだ。卒業後は知人の紹介で、佐賀・唐津にある焼鳥「又兵衛」へ。商売人としての生き様を見せてくれたのが「又兵衛」の主・山口又左衛門氏だ。「100席はある大バコ店。だからスタッフは料理人だけでも10人はいました。大将は高齢でしたが毎晩、店に顔を出しては怒ってばかり。常に目を光らせながら、お客をいかに満足させるかという姿勢を忘れない。商売人としての統率力というものを日々感じさせてくれました」。住み込みで1年限定の修業と決めていた。だから竹田さんは、人一倍、いや何倍もの仕事量をこなした。「ほんまにしんどくて、大阪へ帰りたかった(笑)。だけど“苦労は買ってでもせい!”とか“技は見て盗め”といった、大将のいい意味で古風な考えは、今の僕の礎になっています」。

1年後、地元・八尾市で焼鳥屋を開業。当時は個人の焼鳥屋が少なく、瞬く間に繁盛店へと。そして2007年には大阪・キタに進出。堂島に「焼鳥 市松」を開く。「新しいスタイルの焼鳥屋を」と、白木のカウンターを設け、シックで落ち着いた雰囲気のなか、供するメニューはおまかせ1本のみ。「あの頃、僕が料理人として向かうべき道を教えてくださったのが、居酒屋『ながほり』の店主・中村重男さんでした。生産者との繋がりを大切にし、素材にとことんこだわるその姿勢にずいぶん影響を受けましたね」。「ながほり」へ足しげく通ううち、「居酒屋や焼鳥屋=カジュアルな店だけではない。いい素材ありきで、きっちり仕事がなされた料理を出せば、価格を上げても勝負はできる」と確信した。「ウチで使わせてもらっている比内地鶏の生産者を紹介してくださったのも中村さんです。インパクトある味であり、脂が本当にキレイで。僕にとって比内地鶏は、飽きない美人さん…みたいな存在(笑)」。

2014年、北新地へ移転した後も、中村さんとの交流は続いている。「店の看板の字を書いてくださったのが中村さんです。今もちょくちょくウチに食べにきてくださるんですよ」と竹田さんは嬉しそう。「ちょっと創作的な串をお出しすると“何でこんなことすんの?”とか“これ要らんな”とかすぐ指摘されます」と苦笑するが、「余計なことをしたらアカンのです。中村さんから学ぶことは今も多いです。素材と、そして炭火と対話しながら、シンプルで力強い料理を作り続けていきたい」と意気込む。

そんな竹田さんのスタンスが、アジアの食シーンを牽引するトップシェフの目に留まった。シンガポール「レストラン・アンドレ(モダンフレンチ)」のシェフ・アンドレ チャン氏だ。「いつからだったか、国内外の料理人たちに来店いただく機会がぐっと増えたんです。皆、口を揃えて“アンドレからの紹介で”と。誰やねんアンドレって?(笑)」。竹田さんはトップシェフの存在にも、来店にも気づかぬままだった。「いろんな料理人を紹介してくださったアンドレ・シェフにせめてものお礼を、とシンガポールにある彼のレストランへ行きました」。その後、国境を超えたシェフ同士の交流が始まる。2018年には、台湾でのフードイベントで、アンドレ・シェフとのコラボレーションが実現したのだ。「焼鳥を料理として認めてくれたアンドレ。“焼鳥を世界へ広げたい”という思いが僕の中に芽生えたのもアンドレがいたからこそ」。2020年4月に予定していた中国でのイベントは、新型コロナウィルスの影響で中止に。しかし、「アンドレとまた一緒に仕事ができる日を期待し、今、僕たちができることをコツコツ頑張っていきたいですね」と、竹田さんは締めくくった。

[2020年3月25日取材]

割烹など飲食店が入るビル1F。黒を基調にしたシックな店構えが印象的。店内はどの場所からも焼き台を臨むことができるカウンター9席、さらに店奥にはテーブル4席がある。
アンドレ・チャン氏とともに。2018年、台湾で開かれた焼鳥のイベントでは、アンドレ シェフほか、香港やシンガポールの焼鳥屋とコラボレーションが実現した。
焼鳥 市松
住所 大阪市北区堂島1-5-1 エスパス北新地23・1F
TEL. 06-6346-0112
営業時間 18:00~22:30入店
定休日 日曜
コース 6800円(税別・サービス料10%別)

[ 掲載日:2020年4月20日 ]