スタッフの存在と、酒場文化。

関本 大学さん
「酒場DAIGAKU」店主

大阪・野田阪神。迷路のように入りくむ飲屋街「地獄谷」の入口に、「酒場DAIGAKU」はある。店主の関本大学さんは、自然派ワインをいち早く、関西に広めたキーパーソンの一人。「ワインが日常にあるビストロの文化を伝えたい」と、東心斎橋「bistro a vin DAIGAKU」や、堺筋本町のビストロ「ル・ヌー・パピヨン」ほか数々の人気店を手がけてきた。その関本さんが、店舗をクローズ。意を決し「ずっとやりたかった酒場を」と現店を開いたのは2019年10月のこと。現在、48歳。50歳を手前にして大きな決断に出たのだ。

関本さんのオーナーソムリエとしての人生を振り返ると、数多くの優れたシェフやソムリエを輩出していることに驚く。
2005年に開いた「bistro a vin DAIGAKU(閉店)」のシェフだった
他谷憲司さん(熊本市「ワイン食堂トキワ」オーナーシェフ)を筆頭に、
松本純子さん(野田阪神「肴・和洋酒マツケン」マダム)、
竹内賢太郎さん(楠葉「フジマル醸造所 京阪くずは店」シェフ)
松田考史さん(烏丸御池・イノベーティブ「ORTO」ソムリエ)
安藤徹生さん(谷町九丁目「ヴィノ バール チルカ」オーナーソムリエ)
川田祐樹さん(靱公園「ビストロ デ シュナパン」オーナーシェフ)
山田直良さん(肥後橋・イタリアン「RiVi」オーナーシェフ)
若江宏太さん(東天満・お好み焼きとナチュラルワイン「にこらしか」オーナー)
山根億斗さん(岡山「ナチュラルワイン食堂 Okuto」オーナーソムリエ)
北山伸也さん(本町・イタリアン「タヴェルネッタ・ダ・キタヤマ」オーナーシェフ)
魚見洋一さん(谷町六丁目・イタリアン「イル・チェントリーノ」マネージャー兼ソムリエ)
岡田三四郎さん(西天満・中国料理「月泉」オーナーシェフ)
中島恵美さん(ソムリエール)
今川 岳さん(靱本町・日本料理「靱本町 がく」店主)
前芝 平さん(谷町六丁目・フランス料理「前芝料理店」オーナーシェフ)
内田 勝さん(松屋町・フランス料理「ココカラ フランス編」シェフ)
木下稔也さん(東天満「ワインスタンド ペルシェ」オーナーソムリエ)

「僕は料理人じゃない。だから人を育成し、“チームの力”で」ビストロとワインというフランスの食文化を発信し続けてきた。「有能なスタッフがいたからこそ頑張ることができました。彼らには感謝しかないです」。しかし、料理人の独立は3年サイクルでやってくる。その度に、新たに人を雇い入れ、店を経営していくべきなのか? 曰く「10年、20年先の僕のソムリエ人生を見据えたとき。自分でコントロールできる店を開きたいと思うように」。かつて数多のスタッフを抱えていた彼が、「酒場DAIGAKU」ではほぼ一人で店を切り盛り。「もちろん、彼らとは今もいい関係ですよ」と微笑みながらも、関本さんは熱い眼差しを向ける。

50歳は人生最大の転機でありチャンスなのかもしれないーーー。
そう感じさせる関本さんの創造の根底には「酒場の文化」があった。

「僕自身が飲みに行くのは、常連さんだけで成り立っているような、昔ながらの大衆酒場が多いです。そこは酒というモノの消費だけでなく、“ヒトの繋がり”が大きく関与しています。古くて何の特徴もない酒場でも、なぜか潰れずにずっと続いている店も」。地域のコミュニティスポットとしての酒場に、関本さんは長年、惹かれ続けてきた。
下町風情が残る野田阪神に店を構えたのも、「地元に根ざす酒場」としての成熟を鑑みたからこそ。でも、ザ・大衆酒場のカラーでないところが関本さんらしい。
アテならハムカツやポテサラといった酒場の定番から、クスクス仕立てのカツオとアボカド、クミンの香りを利かせた明石タコと豆のサラダなど、和洋自在の酒のつまみが揃う。飲み物は、ハイボールやサワー、日本酒、コップに注ぐ自然派ワインまで幅広いラインナップ。例えば角ハイボールなら、薄いガラスのグラスに氷屋から仕入れる氷を入れ、冷凍させたウイスキー、冷えた炭酸を注いでステア。バーテンダー出身の関本さんならではのきちんとした仕事が、飲ませるのだ。
オープン半年後、新型コロナウイルスの影響が街に暗い闇を落とした。「自粛営業期間中も、近隣に住む常連さんが気を遣いながらも訪れてくれたのが嬉しかったです」。現在1組2名までの入店にしているのは、コロナ禍におけるニューノーマルだけでない。「例えばお酒を飲みながら本を読んでいたっていい。しっぽり飲めたりリラックスできたり…。職場と家との間で、自分の切り替えができる“サードプレイスとしての酒場”でありたいですね」。
取材時も、週1、2回の頻度で訪れる地元客がいれば、「毎週来てますよ」という近所で店を営むフランス料理のシェフの姿も。コロナ禍でわかったこと。それは「ファンが付いている店は強い」ということではないだろうか。
関本さんは「地域に根付いた酒場」という不変を、ナチュラルに、信念を持って伝え続ける。

[2020年10月7日取材]撮影・文/船井香緒里

牛モツ煮込み 玉子入り(530円)。脂のりがいいモツはぷるんと食感楽しく、清々しい風味。コップに注がれたワインは、「ソレイユ クラシック 赤」(山梨・旭洋酒有限会社)。
鯖きずし(550円)。艶やかな身は〆具合ほどよく、さらりとした脂の甘みが印象的。品書きには和の肴から、油淋鶏(450円)、仔羊と豆のトマト煮(800円)まで和洋中、酒選びに悩むアテ揃い。
急な階段を上がった2階に店はある。開店は16時。まだ明るい時間から、ゆるりと杯を傾けることができる。酒好きにとっては嬉しい限りだ。
「酒場DAIGAKU」
住所 大阪市福島区吉野2-13-7 川田ビル2F
TEL. 06-6459-7797
営業時間 16:00〜23:00(土曜15:00〜)
定休日 月曜休

[ 掲載日:2020年10月29日 ]