3人の生き様が、僕の礎。

大阪・肥後橋。緑豊かな公園の斜向かいに「RiVi」はある。
オーナーシェフ・山田直良さんによる、枠に縛られない斬新な料理の数々。さらには、ソムリエ・旅田裕士さんによるペアリングの妙味や、接客が評判を呼び、ガストロノミー・レストランが増えつつある大阪において、ひときわ存在感を放っている。
日本、そして異文化の技を自在にコースへ組み込むクリエイティブな発想は、どこからやってくるのか。「僕には人生の師匠が3人います。彼らの生き様に影響を受け続けているからこそ、今の自分らしい表現ができていると思うんです」。
山田さんが飲食業界へ足を踏み入れたきっかけは製菓の世界だった。「製菓専門学校を卒業後、堀江にあったカフェでパティシエをしていたのですが…。自分は、料理を作るほうが性に合う」と同店では、フードの調理も担当。しかし、「もっと本格的に、料理を学びたい」。大丸心斎橋本社地下にあったリストランテ「アンジェロ・パラクッキ」で料理修業をスタートさせた。
「初めてこの店で料理を食べた時のこと。しみじみとした味わい深さに感動して。作り手の人柄が、料理に出ている。僕は絶対にここで働きたい」と直感した。そこで待っていたのは、運命の出会いだった。
「当時、スーシェフをしていた小野 洋さんです」。現在、千鳥橋にてイタリア料理店「パルゴロ」を営む料理人だ。「小野シェフからは、イタリア料理の基礎をみっちり学びました」。「アンジェロ・パラクッキ」心斎橋店は、ほどなくして閉店を迎えた。その後、京都大丸店へ異動になった小野シェフに、山田さんは付いていく。「小野シェフは“分からないことを当たり前にしない。美味しいをもっと美味しく”と、僕が理解できるまで、とことん教えてくれました」。山田さんが自店を築き上げた今、寝る暇も惜しんで日々、メニューの創作活動に没頭するのは、とことん粘りいいものを創り上げる、小野シェフのエスプリを継承しているからだろう。
小野さんと共に3年半過ごした後、山田さんはイタリア・ボローニャ地方での修業を決意。モダン・イタリア料理の先駆者、グアルティエーロ・マルケージ シェフのお弟子さんの店で1年経験を積んだ。
帰国後は、かつて堺筋本町にあったビストロ「ル・ヌー・パピヨン(閉店)」の、立ち上げスタッフとして働くことに。「この人に惹かれて、自分の中で2年間と期限を決めて働かせていただきました」。その人とは、オーナーソムリエの関本大学さんだ(現在は野田阪神で酒場「DAIGAKU」を経営)。
「ル・ヌー・パピヨン」は、店主・関本さんの強いビストロ愛、フランス愛に満ち溢れた店だった。本場パリのビストロを彷彿とさせる空気のなか、ベアルネーズソースを添えた「ステック&フリット」などクラシックなビストロの味を提供。さらには自然派ワインとの妙味も提唱するなど、“目に舌に入るもの全てがパリだった”と、今なお語り継がれるビストロ。山田さんは、スーシェフとして働く中、ソースや火入れなどにみるフレンチならではの料理技法を身につけていく。最も刺激を受けたのは、関本さんの思考だ。山田さん曰く「僕がオーナーシェフという立場になった今、実感していること…。もちろん数字は大事だけれど、後からついてくる。一番大切なことは、自分自身に揺るぎない信念がないと、お客様には伝わらないということ。関本大学さんから、その思想を学びましたし、僕の店づくりの礎になっています」。
2011年、山田さんは地元・八尾でイタリア料理店「ラ・リサータ」を開業する。「独立前から交流があり、オープン直後に来てくださったシェフが、僕の人生における3人目の師匠です」。シェフの名は、吹田・岸部と北新地、四ツ橋にパン店を構える「ル・シュクレクール」岩永 歩シェフ。
山田さんにとって八尾市は慣れ親しんだ地。しかし、大阪の郊外というロケーションと、理想とする店づくりとのギャップに悩み続けた。例えば、それなりの価格帯で料理を提供するとなると、「お客さんに八尾までわざわざ来てもらう…というプレッシャーが重くのしかかり…。そんな時、岩永さんはいつも、僕を励ましてくださいました」。
岩永シェフのこの言葉が忘れられないというーーー。
「問題は場所じゃない。誰がやるかなんや」。
岩永シェフは、故郷でもある吹田・岸部で“フランスの味”を追求したパンを作り続けてきた。やがて多くの人が「ル・シュクレクール 」を目がけて来るようになった。「郊外でも成り立つんだということを、岩永シェフは証明してくれました。“郊外だから良い料理ができない”という考えに陥らずに、続けられたのは、岩永さんのおかげです」。
独立5年目にして山田さんは「次のステップを目指したい」と大阪市内、肥後橋へと移転。2017年、店名も装いも新たにイノベーティブ・レストラン「RiVi」を開く。余談だが店舗探しの際も、岩永シェフから『大阪市内に来る意味を、しっかり考えないといけない』。『レストランであれば周辺の環境や、店にたどり着くまでのアプローチも重要』など、スタンスを持って動くことの重要性を叩き込まれた。まるで兄貴か本物の師弟のような愛情をもって。
「何が嬉しいって、『RiVi』オープン以降ずっと、『シュクレクール』のパンを使わせてもらっていることです」。メニュー替えの際、山田さんはいつもコース全品の構成やルセットを表記した手書き資料を、岩永シェフの元へ持っていく。2月のパンは、香り立つカモミールのフォカッチャ。「毎回、料理とパンの相性の良さに驚いてばかりです。岩永シェフのおかげで、僕の料理が何であるのかを考え続け、日々ブラッシュアップさせながら、自分らしさを表現できています」。
山田シェフが料理の中で表現したいこととはーーーー。
「美味しいが大前提にあり、日本人が培ってきた料理を、僕のフィルターを通して伝えたい」。
たとえば「稚鮎のフリット」。「鮎はスイカのような瓜の香りがするから」と、スイカの果汁から作り出した透明のシートに、蓼のジェノベーゼ・ソースを添え、セモリナ粉を纏わせた稚鮎を盛り込む。稚鮎が放つ、スイカを彷彿とさせる香りと、やわらかな旨みが、爽やかなソースと響き合う。
地元の「八尾若ごぼう」は粉末にしてパスタに練り込み、味醂かすと鶏ブロード、魚醤からなるソースを絡ませる。「イメージは茶そばですかね」といった遊び心を加えた、エキサイティングな一皿だ。「日本ならではの食材を使い、イタリアンやフレンチの技も取り入れますが、スタイルはより無国籍になってきました」。
突き詰めるのは料理だけにあらず。作家さんが創るオーダーメイドの器や、どことなく日本らしい木の温もり感じるフロアも含め、至るところに山田シェフの美意識が張り巡らされている。
「毎日、試行錯誤の連続。心が折れそうなこともありますよ」とシェフは苦笑する。しかし、先輩3人の生き様から学んだ“何があろうともブレずに、信念を持ち続けること”がずっと自分の根底にある。
一方で、ジャンルや制約に対する縛りが皆無。既存のルールを軽く乗り越える柔軟性が山田シェフにはある。だからこそ、「RiVi」でしか味わえない新たな料理をもって、発信し続けることができるのだろう。
[2021年2月7日取材]撮影・文/船井香緒里



住所 | 大阪市西区京町堀1-16-28 W京町堀ビル1F |
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TEL. | 06-6136-6830 |
営業時間 | 12:00〜15:00、17:00〜23:00 |
定休日 | 不定休 |
公式サイト | http://www.rivi1122.com/ |

[ 掲載日:2021年2月25日 ]