アール・ブリュットという世界観

佐藤 功一さん
「ユキフラン佐藤」店主

祇園・花見小路通りから一本東に入った、雑居ビル奥にある「ユキフラン佐藤」。店主・佐藤 功一さんが、一人で切り盛りする和食店だ。
コースの献立に決まりはない。肌寒い日には、旬素材の香りを閉じ込めた揚げたての春巻きから始めるなど、その日の温度感を鑑みた自在な構成だ。椀物なら、利尻昆布とマグロ節から引いただしを張り、「実は相性がいい」と天然鰻と梅干しを組み合わせ、食感楽しい五穀米を忍ばせる。
日本料理の伝統を重んじながらも、随所に光る自由闊達な発想に、常連客の同業者からは、「奇才シェフ」との呼び名も。

その発想の源はどこから…?と問えば、「おいしさの先にある、心の奥に響く味を、作りたい一心です」と、佐藤さんは真剣な顔をみせる。「味づくりに繋がっているかどうかは分かりませんが…。僕は技術を超えたところにある何かに、惹かれることが多い」と話す。その一つに、「アール・ブリュット」の世界観があるという。
「アール・ブリュットとは、芸術を学術的に学んでいない人が創り出したアートのことです」。

20世紀初頭にヨーロッパの精神科医たちが発見したこの芸術は、「アウトサイダー・アート」という名を持ち、前衛芸術家たちにも多大な影響を与えたという。
第二次世界大戦後、フランスの画家・ジャン・デュビュッフェが、「アール・ブリュット(生の芸術)」と呼び、賞賛したとされる。そのアーティストの多くは、精神的・知的障害を持つ方や、刑務所の受刑者なども。「いいことも悪いことも、感情全てが剥き出し。ゴツゴツとしたエネルギーの塊です」。

佐藤さんは、休日になれば荒神口「アートスペースコージン」へ足を運ぶことも。このギャラリーは、障害のある人の作品や表現に出会える場として、きょうと障害者文化芸術推進機構(事務局:京都府障害者支援課)が運営。気に入った作品は、交渉次第で購入が可能だという。

「この作品に一目惚れしました。何だと思います…?」と、オープンキッチンの一番目立つ場所に掲げられた作品を、指差す佐藤さん。オレンジや黄色、紫、ベージュ…温かみを感じるタッチながら、作品全体から力強さが漲る。
宇宙船…?「いえ、違います。僕は“カラフルな慈姑(クワイ)だと思ったんですが(笑)。じつは、下を向いた亀らしいです。言われてみれば、甲羅に見えてきます。アール・ブリュットは、小手先のテクニックを使っていないんです。だからこそ、ずっと心に残り続ける何かを秘めています」。
そんな作品に出会うたびに、佐藤さんは感じることがあるという。「人ってさらに高みを目指したいために、自分と誰かを見比べてしまうことも。そうじゃなく、自分の内側を掘り下げていくと、見えてくる何かがあるんじゃないかと。その思いを持ち続けたい」と熱く語る。

佐藤さんは、大学で建築を学ぶうちに、木造建築や茶道に魅せられ料理の道へ。何を隠そう、佐藤さん自身がアーティスト肌だ。「建築も料理も、ジャンルは違いますが同じものづくり。ですがお客様の反応を日々、ダイレクトに感じられる料理人の仕事が、性に合っています。僕の中で、及第点まできたなら、残りはお客様の反応を見ながら、食べ手と一緒に作り上げてこそ料理は完成するものだと思っています」。
中でも、一番シビアなお客が、奥様であり「お菓子教室 シトロン」主宰・山本稔子さんの存在だ。
「彼女が、目を白黒させながら、美味しい!と言ってくれたのは、今まで5品あるかないか(笑)。僕は料理人ですし、彼女はパティシエ。お互い、仕事の事細かな内容まで理解していないからこそ、言えたりすることもあるでしょうから」。
一番の理解者に日々、支えられながら、佐藤さんは我が道を突き進む。

亀をモチーフにした作品を前に「制作者はどなたか存じ上げないのですが、一目惚れでしたね」と、佐藤さん。
10月の椀物では、豊穣の秋を表現。「鯉の丸仕立て」の椀種は、鯉のから揚げ。鯉からとっただしに、銀杏や栗、蕎麦の実、麦を忍ばせた。落ち葉に見立てた栗チップの食感が楽しい。
佐藤さんは、かつて目白にあった茶懐石料理店、嵯峨野にある京料理の老舗を経て、2013に独立。
「ユキフラン佐藤」
住所 京都市東山区新橋通花見小路東入ル南側2軒目 八百平ビル1F奥
TEL. 075-531-3778(要予約)
営業時間 11:30〜翌1:00
定休日 1・11・21・31日(前日までの予約は対応可)
料金 コース1万6500円(全10品ほど)

[ 掲載日:2021年12月27日 ]