「アコルドゥ」川島宙シェフの料理哲学。

―花は野にあるようにー
千利休が茶道の教えとして遺した「利休七則」の中の言葉である。
「師匠から教わったこの言葉を、ずっと心に刻み続けています」と堀田大樹シェフは、静かに語り始めてくれた。
その師匠とは・・・奈良にあるスペイン料理の名店「アコルドゥ」オーナーシェフ川島 宙さんだ。
奈良市生まれの堀田さんは、大学卒業後にイタリアへ渡り、ボローニャ州のレストランで料理人としての道を歩みはじめた。帰国後は「カノビアーノ京都」や奈良「イ・ルンガ(二子玉川に移転)」など、名リストランテで経験を積み、さらに。「フランス料理の火入れやソースの技術を学びたい」と、「ランベリー ナオトキシモト」(現・神田錦町「naoto.K」)でキャリアを積む。独立も視野に入れていた折に、生涯の師匠となる川島シェフに出会った。「スペイン料理「アコルドゥ」の姉妹店「アバロッツ(閉店)」のシェフをやってみないか、と川島シェフに声をかけていただいたのです」。
イタリアン出身の堀田さんが、スペイン料理に転身。しかもシェフのポジションとは、ためらいはなかった?「いえ、むしろチャンスだなと。川島シェフは奈良を代表する料理人のおひとり。そして料理ジャンルは違っていても、将来、僕がやりたいことと方向性が同じでした」。それは、奈良の土地のものを使い、地域に根ざすテロワール(郷土)を表現した料理を、自身のフィルターを通して表現すること。「イタリア、スペイン…国の違いはあるけれど、根っこの精神性は同じだと実感する日々でしたね」。
「アバロッツ」のシェフに就いたのは34歳のとき。「アコルドゥ」移転準備期間中だった川島シェフが厨房に入ることも多く、濃密な時間を過ごした。「川島シェフからは、技術的指導よりも、料理に向かう姿勢。つまり、精神的な部分を学ばせていただきました」。なかでも堀田シェフが感銘を受けた言葉が、「“花は野にあるように”と千利休が言った。その精神を大切に」という川島シェフからの一言だ。「その花が咲いていた状態を感じさせる姿に生けること。それって料理も同じ。つまり“食材が育まれた土地の、情景を思い浮かべるように盛り付けなさい”ということ。この言葉を教えていただき、僕のなかの新たな扉が開きました」。
2017年末、「アバロッツ」はアコルドゥ・グループとしての運営を終えた。翌年2月には、堀田シェフが同店を受け継ぎ、自身のレストラン「コムニコ」として、新たなスタートを切る。そうして4年目を迎えた今、堀田シェフは、“ローカル・ガストロノミー”を追求し続けている。「おいしさの背景にある、食材のストーリーや作り手の思いを感じてもらえたら」。地元の野菜であれば5軒の地元農家から直接仕入れるし、大和肉鶏、ヤマトポーク、「小西勇製麺所」手延べパスタなど、用いる食材のほとんどは奈良県産。「地元以外の食材は、海の魚だけじゃないかな」と話す堀田シェフは、日々、生産現場へ出向くことを欠かさない。
葛城山の麓で育てられた倭鴨は、モモ肉やハツ、レバーなどをミンチにして、地元の原木椎茸に詰め、網脂で包み焼き上げる。フランス南部の郷土料理「カイエット」から派生したオリジナリティを感じる。添えられたハコベやオゼイユが、すぐそこにきている春の野山を彷彿。倭鴨と原木椎茸の質朴でいて深みのある味わいに、あたかも奈良の山麓の情景が脳裏をよぎる。奈良という土地の味がするのだ。
「食材が育まれた地域の情景をイメージしながら、盛り付けをします。だけどジオラマでも、押し付けでもない。お客様それぞれの記憶のどこかに引っかかるような、抽象的に何かを感じていただけたら」。奈良の豊かな恵みを感じさせながら、食べ手の感性を刺激する表現が、堀田シェフの料理の中には存在している。



住所 | 奈良県生駒市東生駒2丁目207-1-111 |
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TEL. | 0743-85-6491 |
営業時間 | 12:00〜13:00、18:00〜20:00(共に最終入店) |
定休日 | 月曜 |
料金 | ランチコース7,700円〜、ディナーコース1万3,200円(共にサ5%別途) |

[ 掲載日:2022年2月21日 ]