「焼鳥YAMATO」川口 伸さん
「カハラ」森 義文さん

名倉 和弘さん
「串揚げ 名倉」店主

料理人や食通も足しげく通うことで知られる、「串揚げ 名倉」。店主の名倉和弘さんは、大阪の日本料理店と、北新地にある焼鳥の名店「YAMATO」でそれぞれ10年研鑽を積み、2020年8月独立した。
名倉さん曰く「お二人に出会わなければ、おそらく僕は平凡な雇われの板前をしていたことでしょう」。そのキーパーソンとは、「YAMATO」店主の川口 伸さん。そして「カハラ」店主の森 義文さんだ。

「師匠であり、家族のような存在。それが川口 伸という料理人です」。
名倉さんは、川口さんが独立をする前から苦楽を共に歩んできた。「川口さんが、北新地に焼鳥店を開いたのは2010年。彼が焼鳥を、僕は付出しや一品料理を担当していました」。

鶏といえば鮮度重視の「朝締め」が一般的のなか、「YAMATO」では、数日熟成させた平飼い地鶏を使用。品種ごとの個性を見極めながら、炭火焼はもちろんカルパッチョ、スモークなどあらゆる手法をもち、熟成地鶏のポテンシャルを引き出す感動の一皿へと。緻密に考え抜かれた「YAMATO」ならではの味づくりは、同業者の間でも話題に。「師匠はあっという間に、誰もが一目を置く存在に」と、名倉さんは微笑みながら当時を懐かしむ。そうして川口さんは、料理人の集まりに顔を出す機会が増えていく。「普通、店主が一人で参加するじゃないですか。でも“お前も顔を売らなアカン”と、常に僕も一緒に行かせていただきました」。そうして、名倉さんは“「YAMATO」の2番手”として知られることになる。

店には同業者の客も多く、なかでも「カハラ」店主の森 義文さんは、仕事終わりに度々訪れていた。「森さんからはいろんなアドバイスをいただきましたし、それは現在進行形です。はじまりは、デザートに提供していたシフォンケーキでしたね」。シフォン生地に、オレンジリキュールで風味づけした生クリームを挟んだ一品に、森さんは「うむ、80点ですね」と忌憚なきご意見。閉店後、悶々としていた名倉さんに、川口さんがこう言い放った。
「何を放ってでもいい。たとえ睡眠時間を削ってでも、森さんに納得いただけるものを作るべき。打てば響く、と響かないとでは、教え甲斐が全く違う」と。

「僕を奮い立たせてくれた一言でした」。数日後、改良を重ねたシフォンケーキを「カハラ」へ持参する。「森さんから“2回目でここまでやりますか。いいじゃないですか”と、ありがたいお言葉をいただいたのです」。

その後、同ビル4Fに姉妹店「焼鳥YAMATO 北新地・はなれ」がオープンし、名倉さんが店を任されることになる。「お店の閉店は夜中2時。ですから森さんは、仕事帰りに毎週のようにお見えになりました」。

酒肴や焼鳥を味わっていた森さんから、「名倉くん、こんな料理はできますか?」と毎回、オーダーが入るように。旬魚の造り、焼魚、煮物…など和の一品にはじまり、「オムライスが食べたい」とオーダーが入れば、「オムライスは作ったことがないから、洋食の料理人に作り方を教えていただくところからでした」。
森さんはお題を出すたび、名倉さんにこうも伝えた。「教えてもらいたい料理人がいれば、私の名前を出してください」。寿司、水餃子、薬膳料理、ブイヤベース、焼菓子…その道のプロに教えを請う。そして自身の料理へと昇華させていった。

森さんは、名倉さんの潜在的な力を引き出すだけでなく、切磋琢磨する料理人や、各界の名人達を繋いでいくのだった。

独立するにあたり、森さんから「串揚げの店をやってみては?」と一言。「串揚げがお好きなんです、森さん(笑)。なにしろ、今まで学ばせていただいたあらゆるノウハウを、表現できるジャンルが串揚げだと感じました」と、2020年8月に「串揚げ 名倉」を開店。

おまかせコースは、厚揚げから。大阪「靖一郎豆乳」の豆乳を用い、絹豆腐を作るところからはじめる。揚げたての厚揚げの上には、目の前で削ったばかりの枕崎産カツオ節をふんわりと添えて。
続く串揚げにも、丁寧な仕事が潜む。例えばパン粉は、フランスパン生地の食パンを自作する。「これ以上、細かくできないってくらい極細です。森さんから“もっと衣の食感を出すために、乾燥をしてみては?”などアドバイスもあり、冬は3日、夏場であれば1週間近く乾燥させたものをパン粉にします」。米油で揚げた甘鯛は、香ばしい鱗と艶やかな身のコントラストが美しい。続くフカヒレは、醤油と酒、水で炊いたシンプルな味わいと、薄衣の軽やかな食感が調和。

「森さんの要求に応えていくうちに、理想とする串揚げに近づいていますが、まだまだです」と謙遜するが、研究熱心な名倉さんらしい技が随所に光るおまかせコースは、食べ込んだ客を魅了し続ける。

「川口さんは、僕と森さんの関係を、こう喩えます。“名倉が庖丁だとしたら、森さんに研いで研いで、切れる包丁にしてもらっている”と」。主人となった今、名倉さん自身で、さらに磨きをかけている。

料理はすべて、おまかせコース12,100円より(約20品)。厚揚げは絹豆腐を作るところから。ザクっと香ばしく、大豆本来の甘みと香りが口中を占拠。
甘鯛はまず、鱗だけに190℃の米油を通す。冷蔵庫で締めた後、お客様の食べ進める頃合いをみながら再び、揚げる。繊細なテクスチャーに驚く。
フカヒレは醤油と酒、水で1時間ほど炊き、味を含ませた後に、薄くパン粉をつけて揚げる。天つゆと共に。
カウンター7席のフロア。「焼鳥YAMATO 北新地・はなれ」の跡地を買い取り、今に至る。
店内には、辻村史朗氏の茶盌、史郎氏のご長男である唯氏の壺をはじめ、名陶芸家の作品が多数並ぶ。
「串揚げ 名倉」
住所 大阪市北区堂島1-3-16 堂島メリーセンタービル4F
TEL. 06-6344-9411
営業時間 17:30〜23:00
定休日 日曜
料金 おまかせコース12,100円
web https://www.kushiage-nagura.com/

[ 掲載日:2023年4月20日 ]