「本質の見極め」と「原点回帰」を学んだ
世界シャリサミットの存在

淡路島北部。高速船が行き交う岩屋港のすぐそばに「寿司割烹 源平」はある。この地で60年以上続く老舗であり、板場を仕切るのは三代目の吉田光佑さん。「淡路島は日本が誇る漁場の一つだと自負しています。島へわざわざお越しになるお客様へ、この地ならではの食体験を楽しんでいただきたい」と、穏やかな表情を見せる。
吉田さんがお父様の跡を継ぎ、内装もメニューもガラリと刷新したのは2019年のこと。「田舎の寿司屋からの脱却でした。それまでは寿司はもちろん、刺身や焼魚などの定食メニューも出していました」。店の近くにある岩屋漁港揚がりの鯛は、京の料亭でも珍重される一級品とされている。「地元でも高値で売買される鯛を、定食で出していては全く割が合わない。しかも安価な食材を用いるのはもってのほか。淡路島の食のポテンシャルを引き上げることができる店に」と、リニューアルに踏み切った。
その大きなきっかけが、京都・宮津市で開かれた「世界シャリサミット」の存在だという。吉田さんは2019年、第2回目のサミットに参加。曰く「僕の料理人人生を、ガラリと変えてくれた1日でしたね」と、当時を振り返る。
「世界シャリサミット」は、おそらく世界で唯一の、寿司職人が一堂に介する国際会議だ。「江戸前シャリ研究所」が主催し、「富士酢」の蔵元「飯尾醸造」五代目・飯尾彰浩さんが(京都・宮津)所長を務める。
参加条件は、寿司職人であること。毎回、申し込みが殺到し抽選になるほど業界では注目を誇っている。「僕が参加した2019年は、国内外の職人40名に加え、寿司屋に関わりのある生産者も合わせて70名超えの大規模な会でした」。
所長・飯尾彰浩さんによる「理想のシャリ」についてのプレゼンテーションをはじめ、東京・二子玉川「すし㐂邑(きむら)」木村康司さん、札幌「鮨菜 和喜智」田村光明さん、銀座「鮨處 やまだ」山田裕介さんといった、名店の主人3人によるシャリ切りの実演も。「そのシャリを用いた寿司を試食させていただきました。驚いたのは、講師の3人が切ったシャリを、僕たち参加者が実際に握る機会もいただけたことです」。また、寿司にまつわる生産者によるプレゼンや試食会もあり、夜には同業者だけの懇親会も行われたという。
「本物とは何か?を徹底的に突き詰め、極めておられる業界の先輩方と実際に触れ合うことができ、一筋の新たな光が見えたのです」と吉田さんは話す。それは「“いかに本質を見極めるか?” と“原点回帰”です。この2つを軸に、寿司職人としての道を歩んでいくと、決意しました」。
「本質を見極める」ために、吉田さんはある行動に出る。まずは「淡路ならではのテロワールを感じていただきたい」と、店で扱う食材を“ほぼ淡路島産”に特化。さらに、岩屋漁港へ毎朝、出向くことを日課とし、活魚の仕入れは「カネマサ水産」にて。名仲買人・中西一郎さんとは、家業を継いだ6年ほど前からの付き合いだという。「中西さんからは、上等な活魚を見極める目利きを教わりました。また、毎日のように緻密なやり取りを行いながら、競り落としていただく魚介のグレードも徐々に上げていただきました」。仕入れた地魚は、店にある生簀で活け越しに。「例えば鯛なら、個体によって締めるタイミングは異なります。適切な頃合いに締めることで、身の旨みが増しますから」と目を輝かせる。
いっぽう「原点回帰」のために「淡路島の一次産業のことを知り、学び続けています」。
過酷な仕事の合間を縫って、漁師の船に同乗することもある。「最近、上質とされる鱧の漁場が変わってきていると感じます。以前は、島の南部・沼島周辺の鱧が良いとされていましたが、最近は島の北東部・仮屋漁港沖に揚がる鱧の質がかなり良いんです。海底には藻が生い茂り、その中で生息する鱧だから、皮がとても柔らかくて。ミネラル豊富な餌を食べているのでしょう、身の旨みもレベルが違います」。実際に漁場へ行った吉田さんならではのリアリティーのある説明に、食べ手の心も熱くなる。
また、仮屋にある農園・直売所「farm studio」の畑を間借りして、生姜の栽培も行う。「植込み、管理、収穫と半年ほどかけて育てていきます」。甘酢漬けにしてガリとして提供したり、細かく刻み握りのアクセントに加えることも。「お客様の“生姜ってこんなに美味しかったの?”というレスポンスを直接お聞きできるのが嬉しいです」と吉田さんはにこやかに話す。
「原点回帰といえば、塩造りも始めました」と驚きの言葉が出た。「塩は水と同様、人間にとって本当に大切なもの」と、東浦で小さな製塩所を営む、塩職人・山下さんに手ほどきを受けながら「寿司割烹 源平」オリジナルの天日海塩を生み出す。まずは自分で作る、という体験を積み重ねることで「島食材のありがたみを感じながら、使うことができます。つまり、素材そのもののポテンシャルをダイレクトに知ることが、僕らしい味づくりの根源にあるのです」。
シャリには、淡路島産ヒノヒカリを使い、「飯尾醸造」富士酢プレミアムなど2種の米酢を配合。みりんと少量の砂糖で米の甘みを引き立たせながら、天日塩を加えてシャリの輪郭を立たせている。酢の塩梅も程よく食べ飽きないし、何しろ鮮度がいいネタとの相性は言うまでもない
淡路島の漁師や仲買人、生産者…。「地元の食を支える方々の、顔が見えるような寿司を握り続けたいです」。淡路揚がりの旬魚を用いた一貫一貫に、その想いを込める。






住所 | 淡路市岩屋925-22 |
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TEL. | 0799-72-2302 |
営業時間 | 11:00〜14:00LO、17:00〜20:00LO(土・日曜、祝日17:30〜) |
定休日 | 火・水曜 |
料金 | 昼のおまかせにぎり6,600円(12貫、赤出汁付き)、大将おまかせ料理13,200円〜(2日前までの要予約)。 |
web | http://genpei.jp/ |

[ 掲載日:2023年6月21日 ]