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『WORLD EDITION「フロンティア・サミット」』Program 3:ディスカッション:「料理のフロンティア」 1/2
Program 3:ディスカッション:「料理のフロンティア」 1/2
講師紹介


門上 講演とデモンストレーションでは「コントロール」という言葉が印象的でした。料理はいろんなこととかかわりあっていると、あらためて思いました。和食が世界の無形文化遺産になってちょうど1年になります。村田さんはその登録に向けて、料理人という立場でありながらいろんな活動をされてきました。この1年、ご自分がされたことと周りの変化についてどう感じられていますか。
村田 日本は特殊な考え方とつくり方で料理をつくる民族なので、世界に理解を広げていく必要があるし、またその必然もあると考え、活動してきたわけです。この1年間にこれだけ盛り上がるとは思いませんでした。農水省もTPPとか外圧を受けないといけない事情もありまして、国からサポートをいただきましたので、そういう勢いで盛り上がっていることはありがたいと思っています。
門上 成澤さんは海外からのお客さんも多くて、いろんな国の方がこられると思います。英語、フランス語も堪能で、その中で和食ということで日本に対するコメントは増えましたか?
成澤 震災の後の落ち着いた対応への反応など、海外の人たちが日本人や日本に対してリスペクトしてくれているなと思います。ただし、みなさんわかりづらい部分も同時に感じているのですね。独特の文化をどう説明していくかを考えると、日本人の自然とのかかわり方が、自然を克服する感覚ではなく、自然と共存、もっというと人間も自然の一部だという考え方が根底にある。そこまでの話がないと日本のことは、わかりづらいのかなと考えています。
門上 そういうことを成澤さんは料理で表現されているのですよね。
成澤 まさにその通り。四季があって、その時にとれるもの、旬ということではなく、瞬間のもの。北海道から沖縄まで長細いですから。昨日は鹿児島から大阪にきましたが、九州を回っていても九州の中でさえ地域によって温度差がありました。食文化も違う。そういうことを比較的わかりやすく表現してあげた方がいいのではないかと考えているのです。
門上 和久田さんはオーストラリアに加えシンガポールにも出店されました。和食と西洋料理の融合という点からみて、日本がわかりづらいという感覚はありますか?
和久田 日本の文化そのものがミステリアスといわれたことはあります。シンガポールやオーストラリアの人たちも日本にきています。村田さんや成澤さんのお客さまでもいろんなことを質問されると思います。食べ物だけではなく、時には「なんで京都では一見さんお断りとか、どうして入れないの」とか。わかろうと努力しようという気持ちはあるように思います。和食が無形文化遺産になって、シンガポールのお客さまは一段と増えました。シンガポールではこの数年、特に日本に対しての尊敬というか、ラブ・ジャパンの人が増えています。雑誌でも日本の店やシェフを紹介するとか、1週間か2週間、日本の旅をしようとか、変わってきたと思います。成澤さんがいわれたリスペクトです。日本人だったら大丈夫というところがある。今は日本のものも多くオーストラリアに入ってくるようになりました。オーストラリアに32年いますけど、私が可愛がられたのも、日本人だったからこそだと思います。
門上 辻先生、3人の料理人で「お客さん」の見方があるかと思いますが、先生の立場で世界からみて、この1年はどういう時期だったと思われますか?
辻 無形文化遺産は和食の伝統を守るという前提で登録されたわけですが、各国の料理の進化と比べた時に、伝統は守るだけではなく革新性がないといけない。この1年を振り返ってみれば、伝統を革新していかないといけないという前提で新しいものを採り入れよう、日本料理の持つ力を再確認しようという動きも大きいですが、伝統を守る立場の方々とイノベートする方々の役割をもう少し明確にすべきではないか。守る人は徹底的に守る。イノベートする人は徹底的にイノベートする。もちろん技術交流は大切ですが、どこかで線を引いておかないと、守るところとイノベートするところがごっちゃになってしまうので、その辺をこれから明確にしたいと感じています。
門上 料理は時代的背景、経済的背景、社会の動向で左右されがちです。村田さんは京都と東京にお店をもたれて、東京と関西の違いを感じられますか?
村田 東京の方が敏感なんですね。首相の言動一つでお客さんの入り方まで変わってくる。関西はおおらかで「そんなこと、こっちは関係ないわ」というところがありますのでピリピリと動かない。しかしそれは日本人だけで、海外の方は動きませんから。ありがたいのは日本にたくさんの外国人観光客がこられるようになりました。東京は景気がいいとか悪いとかで反応が早いが、雨が降ったらキャンセルが入るんです。紙の体やあるまいしと思うんですけど。関西では考え難い、文化が違いますよね。京都の財界人は公用車には乗りませんが、関東では公用車できます。関西では「自分が、うまいと思うところにいったらええ」、関東では「皆がうまいというているところにいきたい」という指向はありますね。成澤さんのところみたいに毎日満席のところはキャンセルなしでしょうが。
成澤 キャンセルにルーズなところはアジアの国の人たちにはあったりもしますが、ありがたいことに海外のリピーターが多く、ニューヨークから3月に一度くる人や、台北は九州からくるより近いくらいで日帰りで食事にいらっしゃる方とか。海外からのお客さまが特別ではなく、常連のお客さまということで、普通にメールや電話で予約がきます。信頼関係も生まれてきたり、季節を変えてきていただくことによってガラッと食材が変わりますし、きちんとした発信をしていかないと、ただきて「おいしかった」で終わりではなく、それ以上のものを持ち帰ってもらうことが必要なのかなと思っています。
門上 海外のお客さんが顧客になる。ジェット機でやってくるとか、伝達手段も変わってきて、10年前では考えられなかった社会の変化がある。昔のメールがない時代にウェイティング1日3000人という店がありました。和久田さんの店ですが、ファックスを受ける人が4人いたそうですね。
和久田 ありがたいことで、今年で27年になりますが、5人いまして、小さい店というのもありますけど、昔は6週間前の予約しかとらなかったんです。うちの場合は外国のお客さまが多く、日本のお客さまは1%くらい。4割がオーストラリアで、2割が中国、香港、シンガポール。今はアジアのお客さまが日本にすごくきておられると思います。この2、3年でほんとに変わりましたね。今はオーストラリア人でも自分の幸福のためにということで、お金ではないんです。シンガポールの友人たちは貪欲ですよ。「おいしい店をどこか教えろ」といわれるくらい。食べ物に対するハングリーさは、すごいです。当然、そういう人たちへの料理やサービスも変わってきます。うちにこられると、コースを召し上がっても、せっかちなんです。ニューヨークと同じ。出してものの数分でパッと食べる。1、2分で次の料理が出てこないといやだ、と。キッチンでも料理をつくって出したらすぐに次のものをつくってと、対応して変えざるをえなくなりました。昔のように2、3時間じっと座って食事というのではなく、時を楽しむというのがなくなって、ちょっとさみしい気がしますけど。
門上 そういう時代の流れの中で、辻先生、どういうところに着目するべきか、動向とのかかわりをどう感じるべきでしょうね。
辻 ガストロノミーという言葉の解釈自体が昔と全然違ってきています。昔のガストロノミーの世界は特別な一部の階層の人たちだけが食べられた料理、そこで客と料理人との関係が生まれた世界でしたが、今は価格帯でも、目が飛び出るほどびっくりするような値段ではない。昔より確実にグルメなら誰もが、おいしく、すばらしいものを食べられるような時代になってきているけれど、逆に食べ手と料理人の距離が離れてきている。インターネットとSNSの時代になり、料理人が哲学やメッセージなど発信したいものをこれだけ明確に発信しているにもかかわらず、食べ手の方々が作り手の哲学や意識に対してちょっと距離がある。食べ手と作り手の距離が離れているような気がするし、今後もっと離れていくと思います。昔のグルメとは、ちょっと違うのですね。本来であれば、作った人の哲学まで感じとれるような食べ手が育つのが当然。こうした事態になったのは、作り手の責任というよりも、食べ手の責任ではないかという気がします。



