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1 theme STUDY vol.05「厨房から考える」Program 2:トークセッション:「日本料理の明日」
Program 2:トークセッション:「日本料理の明日」
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門上 和食が世界の無形文化遺産になりまして注目を浴びています。だからこそ、今あらためて日本人として日本料理とは何かを考えるべきと思っていまして、穴見さんはそのお手本です。変わっていくもの、変わってはいけないものがあると思いますが、穴見さんは日本料理をどのように定義されていますか。
穴見 私は、日本の文化、歳時記や先人がつくった約束事とかを守り続けるのが日本料理だと思いますが、お客さまのニーズにあわせた食材を使うなど、進めなくてはいけない。けれど、進むばかりでもない。今や日本では世界のいろんなジャンルのレベルの高い料理が楽しめます。お客さまが今日の一日を楽しむために私どもの店を選ぶわけですから、主人として日本料理で受けて立つのが私の仕事だと思います。日本料理=日本の文化のエッセンスとして提供することですね。ですから、外国の方が日本に来られて、今ここで味わうのが日本料理だと思っています。日本人が外国で発信するのは、ちょっと違うんじゃないか。外国で食べるのは和食だと、分けております。
今月11月は「玄猪(げんちょ)の祝い」といって、子孫繁栄の願いを込めた「亥の子餅」を食べる習わしがあります。でも、料理のスタートからお餅を出すわけにいきませんので、亥の子餅に代わるめでたい食材や料理方法がないかと考え、店では五色のなますを供しています。木火土金水の五行を表す5つの色です。それに伊勢海老の白髪盛りを入れています。白髪になるまで伊勢海老のように腰が曲がっても元気にという意味ですね。ボイルした伊勢海老の赤い色素を若いスタッフといっしょにきれいに取り除いて真っ白な白髪に見立てます。そうして用意するのは、お客さまに対してのめでたい思い、日本の歳時記のメッセージなのです。
また、日本料理はお箸でいただきますので、食べやすい大きさ、ちぎれる大きさまで、食べるお客さまのことを思ってつくる料理でもあります。それに、日本だけですが、手のひらにもって食事する際、口をつけますので、器のつくり手は手のひらにもった時のあたり具合、口をつけるなめらかさ、液状のものを何度の角度であげたらスッと流れるか、そういう道具づくりも何百年とかけてやってきています。祝い事とか記念日とか、ご予約の時にお聞きしまして、めでたいお祝いだと部屋の軸もめでたいものに替えます。道具の中にはめでたい時に使う器がありまして、末広がりとか扇面とか鶴とか亀とか宝船とかの、めでたい器に料理を盛りつけるということをします。私どもの料理だけではなく、しつらえ、空間、道具、すべてが重なっての日本料理ですから、海外へこういうものをもっていってやるのは難しいと思います。



門上 日本料理には「3つのキ」があります。「季節」のキ、どういう集まりかという「機会」のキ、それに「器」のキ。これが根本といわれています。穴見さんの話からでも、季節を料理の中にどう移しこむかということがありましたし、食べる側にも、季節や歳時記を理解していく必要がありますね。
穴見 私の好きな言葉に「主人は客のことを思い、客は主人のことを思い、客は客同士を思い」というのがあります。一つの空間を互いに共有しあい、楽しむのが日本料理だと思います。
その中で、お客さまのために私がもっているコレクションの道具を提供することもあります。今日、ここにもってきている器は、茶の湯の道具です。
門上 器のストックだけでもかなり数が必要なようですね。
穴見 店の地下を掘って、1~12月までの道具を全部並べて保管しています。毎月、1日には軸から花入れ、香合なども含め、道具を総入れ換えしますので、月末は大変なことで何時間もかかります。1日には店を閉め、スタッフ全員で部屋のしつらえから器まで全部入れ替えます
私、16歳からこの世界に入りまして52年になります。独立させてもらったのは45歳で、この店を始めたのはいいですが、最初は器も揃っていませんでした。1年中使える、季節にとらわれない「時知らず」の器で数年がんばりました。そうして季節ごとに揃えていきました。あとはパズルみたいに足りないものを埋めていくのです。1年分の四季の道具が揃うまでは何十年とかかりました。
門上 今日もってきていただいている器各種は、いわゆる骨董なのですか。
穴見 古いですね。新しいものでは「焼締め」で、これは大正から昭和初期にかけてつくられた北大路櫓山人の作です。
古いのが楽家4代目のもので、秀吉の聚落第の土でつくらせた「楽焼」ですね。本来ならガラスケースの中でしょう。こうした器は次の世代に渡すことが義務で、私の代で壊すことはできませんのでお客さまのどなたでも出すわけにはいかないです。
「蓋向」は初代の大樋焼です。楽焼ですからお菓子でいうとサブレみたいなものですから、もった時にやさしさがある。日本の器には「一楽、二萩、三唐津」という言葉がありまして、当然、楽焼がトップなんです。けれど壊れやすい。道楽の器です。店で営業に使う器ではないのです。
こちらは「筒向」です。江戸時代の白井半七・八世の作ですね。これは冬の道具です。
お茶の懐石料理と日本料理の会席料理は、ま逆なものなんです。お茶の席の料理の陶器は向付だけです。あとは全部塗り物、漆です。ここにもってきましたのは、吸い物用ではなく、煮物椀です。季節の椀種がポコンと入っています。椀種を食べやすくするために、だしがあるわけです。これは私がもっている中で一番のお椀ですね。あらゆる日本の技法が入っています。「扇面蒔絵」の器、蓋にも椀の方にも蒔絵が入っています。メインの道具ですから一番華やかなものです。ただ、蒔絵のお椀は使いづらい。今、メンテナンスに出しています。手のひらにもって食事する日本料理ですが、お客さまのお椀の召し上がり方が、外国の方も、若い方もできなくなっています。
「内蒔絵」の青海波という波の模様は夏用のお椀です。夏用と冬用はどう違うか。夏用は平たくなっています。熱いだしを椀盛りすると顔を近づけると湯気が顔にあたりますよね。日本は夏、湿気が多いので湯気が邪魔です。平椀だと四方に湯気が逃げていく。そういうふうにつくられた夏用の道具です。蒔絵も涼やかな、波の爽快感のある蒔絵です。
冬は乾燥して湯気もご馳走になりますから、湯気が上がるようなお椀になっています。ただ、今のお客さまはテーブルでお箸をお使いになりますから、お椀をおいて使われると中の金の蒔絵をこすりキズをつける。ですから1年に一度はメンテナンスに出さないといけないのです。手のひらにもちますと箸に力がかかるとこれが下がりますので中の蒔絵にキズはつかないのですね。こういうふうにお椀の世界も夏用、冬用とあり、蓋向も平と蓋とある。冬の寒い時に中の温かい風呂吹きなどは蓋をもってもらって、それが懐炉の代わりになり暖をとってもらえる。ふうふうして、手の冷たい、かじかんだ手を温めるような冬の道具です。
筒向には約束事があって、底には高台がなく、汚れ物を盛ります。ゴマ和えや白和えの和え物を召し上がった後の残存が見えないようになっています。フランス料理やイタリア料理ではフラットな皿の中でソースが残るとパンとかできれいにできますけれど、お箸ではできません。それを見えないようにして他のお客さまに気遣いさせないようにする。このへんがまた、知ってしまうとたまらん世界なんです。
このお箸も利休箸といいまして両細ですね。赤杉です。昔は一升瓶ではなく、酒樽でしたので、その端切れでつくったのが利休箸です。一番いいのがこの赤杉で、香り豊かです。両細というのは、食事の中で一番ハレの時の食事用です。どちらを使ってもいいようになっている。日本は農耕民族ですから神さまのおかげで食事をいただけるということで、片方は自分が、片方は神さまがいただいている、それで「いただきます」という世界なんです。お箸にも夏と冬と使い分けがあります。夏は30分ほど湿らせておいて、手にした時に少しでも涼やかにという思いです。冬は全部濡らすと手にした時ゾクッとしますから、3分の1だけ水を吸わせてお敷きに載せます。そうすると、ものがくっつかない。米粒や女性の紅がつかないようにという配慮ですね。こういうことを知りますと、やめられないのです。
門上 器一つとっても季節感とか機会とか、いかに日本料理の中で大事かということでした。穴見さんが考える日本料理の大切な部分を語っていただきました。この後、皆さんの質問を受けながら、さらにトークセッションを進めていきたいと思います。穴見さん、どうもありがとうございました。
