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1 theme STUDY vol.05「厨房から考える」Program 3:ディスカッション
Program 3:ディスカッション
講師紹介


門上 米田さんの料理観が明快に出ていましたが、米田さんは何年先のこととかは頭の中にあるんですか。
米田 厨房のイメージは、どのように進むか30年先くらいはイメージして、どのようになっていくかを考えるようにしています。
ここ5年くらい、料理業界の問題点は少子化の問題と飲食業の全体的なイメージダウンがあった年代だと思います。求人率も下がってきて募集しても人がこない。朝から晩まで働くということに対する感覚が世の中では受け入れがたくなってきている。今後、どのようにやっていかないといけないか。よくよく考えてやらないといけないなと思っています。
門上 これは、業界内の人たちだけで解決する問題ではなく、社会とかいろんなところも引き込んいかないといけない問題で、厨房の中で考えていることとは違うベクトルが必要な時代になっているのかなと思います。でも、料理をつくるのは料理人にとっては第一義ですね。穴見さん、30年後、我々はヤバそうな感じですが。
穴見 ヤバイですよ。私は昭和24年生まれですから67歳になるので、あと3年で70歳。70歳まではクリアできる自信はあるんです。自分としては45歳で始めたので30年間はやりたい。75歳までとすると、あと8年間やれたら幸せだなと思っていますけ。かみさんも同じように歳とってますので、腰が痛い、階段が辛いと言ってます。雇用問題がネックで、若いスタッフも大変な時代になっている。今までは午後8時以降のお客さまもお相手していたんですけど、それをしますと日付が変わりますので、その前にスタッフを帰らせたり、極力休みをとろうということです。ありがたいことに毎日15名のお客さまが年間通して入っていただける、でも、帳尻をあわせたらプラマイ0という感じです。それでもやっていけたらいいなとやっております。
門上 それぞれいろんな考え方があると思います。会場からいろいろ質問があればお受けしたいと思います。まず、関西食文化研究会コアメンバーの山根さんからお願いします。
山根 米田さんがおっしゃっていることを自分に当てはめて考えるんですけど、違いは感じましたが、おっしゃっていることは理解できました。単純に料理のことだけ考えたら、どうして一皿に100種類もの野菜を盛らないといけないのか、ずっと思っていたんです。手間がかかる、時間がかかる。100種類盛ろうと思ったら、相当、緻密なことをされていると思います。今日、話を聴いて、概念として少しは理解できましたが、一応、訊いてみたいのです。「100種類もの素材を一度に出さないといけない理由、必要性があるのかどうか」。
米田 どういうものを表現しようか考えていた時、「地球」を思った。山があって川があって海があって循環で流れていて。例えば、貝の養殖はどうやるか。山に木があって山から川へといろんなものが流れていき、最終的には貝がそれを吸収する。同じように人間は間接的に食事をしている。大地を食べることはできませんが、植物が吸い上げたものを栄養として食べている。そうした循環を、野菜と貝を両方もってきたら地球を表現できるのではないか。というところから始めて、できるだけ多くの食材を使って表現してみようと思ったのです。
山根 よくわかりました。一つの素材をできるだけおいしくするのが正しい、できるだけいらないものを省いていくのが一つの料理の仕方だと思っていたんですね。いろんな表現をする人がいて「いつか見た風景を皿の上に表現する」とおっしゃる方も中にはいます。魚が泳いでいる姿が皿の上に絵のように表現されていても別においしくなるわけじゃない。それは意味がないと思っていた。でも、米田さんがおっしゃるのは根源的な意味なのですね。特にマイクの話が面白かった。マイクを構成している素材に意味があるのではなく、それによってマイクをつくるという大きなテーマ、目的があって構成材料を選ぶということ、よく理解できました。ありがとうございました。
穴見さんは、日本料理の歴史とそれぞれの表現の意味、それをこんなによくご存じの方がおられる。すべてに対する気遣いときっちり実践するのは、それだけで創作する時間もエネルギーもなくなるくらいです。これだけやっていたら30年かかるなと思いました。敬服しました。ありがとうございました。



会員から質問 米田さんにお訊きしたいのですが、宇宙にいきたいと話しておられました。宇宙にいって料理するとしたら、無重力の中でどういうふうにするかお考えですか。
米田 空中に浮かんでいるものの表現方法はいろいろあると思います。実際にいってみないとわかりませんが、よくいわれるのが宇宙では味が感じにくいということです。口の中に入れた時、ぺたっとくっつかないで浮かんでしまうから、結構濃いめの味になるらしい。スプーンになるのかどうかわからないですが、食べる時のスプーンの形とか飲み方も変わってくるでしょう。そういうことを一個一個やっていくのは面白いのではないかと思っています。
会員から質問 穴見さんに質問です。器がすごいのも定評がありますが、器を料理と一体化させているのはすごいなと思いました。料理を盛りつけるだけでなく、浮き立たせる器であり、うまく景色になっている。45歳で独立されて今に至るまで料理方法は変わっていくと思いますが、ご自分の中で日本料理として意識が変わったとか、年相応に昔はこう思っていたが、今、日本料理にこういうことを感じるとかがあれば教えていただきたいです。
穴見 多分、私の日本料理観は世の中と逆行していると思います。私の師匠の湯木貞一さんは、50年前から外国の食材を使っていました。キャビア、フォアグラのテリーヌ、鴨の肝の煮こごり、スモークサーモンなど。デザートでも、抹茶のバニラアイス、飴のネット籠、スミレの砂糖漬けなどをいち早く取り入れていました。50年前なら、それでよかった。そうした食材自体がよく知られていませんから。今は、いろんなジャンルで世界のトップの食材が食べられるような時代です。僕の日本料理をチョイスなさったお客さまにキャビアとかフォアグラをお出ししても、ほんとに喜んではるのかなと疑問をもったわけです。そこで、食材に対して自分の中でボーダーラインを引いたのです。ホワイトアスパラやゴーヤなどは他所で楽しんでもらう、その替わり日本というものを楽しんでもらう。キノコなら今まであまり表に出ていないような、イワタケとかショウロを使う。今月ですと、サルナシというベビーキウイがあるんですが、そういう食材を提供して「これなに?」「いやいや、日本の食材です」とお相手しているのです。料理方法に関しては、もっとステキになるのではないかと常に考えています。例えば、今月の焼き物は和歌山のクエを塩焼きにしています。クエは脂分がありますので昔の技法で素焼きという技法がありまして、当然、備長炭の炭火で皮の方をカリカリにしますが、焼き上がりに米酢を何回かかけて火に炙って焼きます。すると、酢の気が飛んで米のうま味だけが表面にコーティングされるんですね。というように、昔の技法も取り入れながら工夫してやっているような現在ですが、意識の中では変わりましたね。
門上 お二人の見え方は違いましたが、考えている思いの深さはそれぞれすごいと思いました。君島さんはいかがでしたか。
君島 そうですね。お二人は対照的だなと思いました。穴見さんがお話くださったことは日本人が蓄積してきたことですが、ひとつのかたちになっているのがすごいと思いました。私たちがきちんとそれを受け止めて、伝承できているかどうか、よくわからないんですが。米田さんが個人で微細に思考を張りめぐらせて考えていることが蓄積されていくと、穴見さんのおっしゃった話のようになるのだと思いました。米田さんとお話しているといつも思うのが、ガストロノミーと他の物事との境界をどう超えられるか、料理人ができる領域をどう広げていけるか、拡張していけるかということを、いつも考えているな、と。米田さんはフロンティアなんだと感じさせられます。蓄積されてきたものをご自身の中できちんとかたちにされている穴見さんと、どう拡張していこうとか考えている米田さん。お二人はそれぞれ対照的でありながら、考えの突き詰め方、深め方と広げ方は、とても興味深いと思いました。
門上 君島さんに見事にお二人の対比をお話いただきました。山根さんが質問され、米田さんが答えられて、それぞれアプローチの仕方が違う、そこの面白さもありました。今回は「厨房から考える」というテーマで、米田さんと穴見さんにお話いただき、聞き役として君島さんに参加していただきました。みなさんの厨房での思いに少しでも新しい視点が加わればいいなと思います。これからも関西食文化研究会をよろしくお願いしたいと思います。本当にみなさん、ありがとうございました。



