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「火入れ」Program 2:基調講演:「火入れのサイエンス」
Program 2:基調講演:「火入れのサイエンス」
講師紹介

おいしさの要件
おいしさは、どういうことなのか。我々が食べ物を食べた時、何をもって、おいしいと感じるか。どういうものを食べたらおいしいのか。素材が、どういう状態だったら、その成分ができてくるのか。その成分をつくるにはどんな加熱器具で、どんな温度でやればいいのかという順番で、器具からではなく、お口からお話をしようかなと思います。
僕が思っている4つのものは、まずうま味です。身体が感じる必要なエネルギー、身体をつくっていくタンパク質があります。それをとるのは身体が喜ぶので、おいしいわけです。ところが生の食材の場合、生の肉を食べても、うま味はない。なぜか。味成分は水に溶けないと、舌で感知できないからです。お肉の中の味成分は肉のタンパク質に吸着しているんです。生肉をそのまま食べても味はしません。それを焼くと、どうなっていくかということです。
そして基本的なのが、塩だと思います。塩をつけることによって、うま味を感じるようになります。塩はうま味成分を引き出し、ちょっとでも、いっぱい食べられるようになる。さらに油も、おいしさに寄与します。もう一つ、おいしいなという感覚を直接的に起こすのが油です。うま味も、おいしさにかかわります。最後がメイラード反応の生成物。焼き色、お肉を焼いた時の香ばしい香り成分です。
メイラード反応というのは、アミノ酸と糖が反応するんですが、加熱して初めて出てくる成分になっています。こういう成分が含まれていると、香ばしい香りがする。それが、なぜかおいしい。お肉を火入れすることによって、この4つの成分が、お肉の中に出てきたり、外からつけたりということが重要ではないか。それが火入れの、まず目的です。火入れの目的は、ここにあるということです。それを、どういう方法論でやっていくか。
火入れは何か
火入れは、そもそも「温度×時間」ですね。ある温度をどれだけの時間かけるかということです。加熱すると、どうなるか。タンパク質が収縮します。収縮するとタンパク質は水を抱えきれなくなって水がどんどん外へ出ていってしまう。それによって水が出ているだけではなく、アミノ酸、糖が出ていく。加熱をすると基本的には、そういう反応が起こる。畜肉だけではなく、魚でも起こります。
肉の細かい温度による変化も、最近、わかってきました。筋肉細胞はタンパク質の変性と思っていただくといいと思います。筋肉細胞だけだと肉をくっつけても筋肉にならないので、筋肉細胞同士を接着剤でつけて束にしている。その接着剤がコラーゲンです。コラーゲンの温度変化もあります。タンパク質に結合する水、つまり肉汁。それぞれ見ていきますと、筋肉細胞は58度でゲルのタンパク質の温度が上がって変成を始める。それまでの温度でも、だんだん火は通ってきていますが、60度になる、ここが重要です。60度で離水してしまう。お肉によって若干違いますが、60度が目安のようです。
コラーゲンは55度でコラーゲンが弱まり始めて、60度でコラーゲンが縮んで、筋肉細胞を圧縮してします。60度は離水も始まるけど、ギュッと小さくなってしまう状態です。70度になるとコラーゲンは溶け始めます。これがゼラチン化です。お肉をずっと長い間、加熱するとゼラチン化していって溶けていく。最後にタンパク質に結合する水、これが肉汁ですが、肉汁は40度からタンパク質から遊離を始めて、との時に細胞内に止まっている状態です。肉汁が中に閉じ込められている状態です。60度になるとコラーゲンの圧力で、ジュッとジュースが出る状態になる。70度になると流れ出なくなる状態になる。これがお肉です。
重要なことは加熱温度を何度にするか。もう一つは温度を、どれだけの時間、続けるか。素材にどういう温度と時間をかけるかということだと思います。表面にメイラード反応を起こしたいかどうか。表面をどういう香ばしさに仕上げたいか。離水を、どの程度にさせるか、させないのがいいのではなく、料理人には手持ちのコマを持っていただきたい。どういう表現にしたいか。筋繊維を離したいか。ロゼの状態で煮込んだ繊維がほぐれた状態にしたいか、判断に必要なことかなと思います。
まず素材にどんな変化を起こさせたいのか。それに適した加熱方法を選択する。素材加熱から発想する。素材を、どうしたいかを発想することで本質的な表現、新しいことが考えられる。加熱方法は、文化と関係ないんですね。どういう加熱をしたいかは、フレンチの技法を和食でやってもいいし、中華の人がフレンチの技法でやってもいいわけで。どんな素材に、どういう表現をさせたいかを選択すればいいということが、最近、僕なんかが感じるところです。



