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「ベジタブル講座」~各国・精進料理~Program 1:対談1:「中国料理における精進料理について」
Program 1:対談1:「中国料理における精進料理について」
講師紹介

国安 日本の精進料理は中国から仏教とともに伝来したのですが、実は、精進料理は中国と日本では違いまして、その話を簡単にさせていただこうと思います。
そもそも精進料理の精進というのは仏教用語で、仏陀の教えを重んじて努力に勤しむことを意味しています。日本の精進料理は、殺生戒の教えにしたがい、肉とか魚とか生臭いものを一切使わずに調理しますが、仏教の信仰から来ているということです。
中国でも肉や魚を使わない料理があって、それを「素菜(スーツァイ)」と呼びます。肉や魚を使った料理は「葷菜(ホワンツァイ)」と呼んで区別しています。この素菜には元来、宗教的な意味合いがないんです。中国には仏教が伝わる漢の時代から菜食の習慣があったんですが、近親者の死を身近に感じて、健康に気をつけないといけないという考えで肉類等々を控えたりした。それが後に仏教の教えにのっていく、というのが中国のざっくりとした精進料理の思想であり、意味合いです。
そういうふうに、寺院とか僧侶の修行の場で、肉や魚を使わずに野菜、茸、大豆とか、豆腐の加工品、五穀類を使った料理が盛んに作られるようになったのが、中国の精進料理です。特徴としては、味気のないものですから、代わる味を求めたり見た目に工夫を凝らしていくんです。湯葉を固め薄切りしてハムのようなものを作るなど、今ではほとんどの料理に精進バージョンが存在します。
厳しい修行に耐える身であっても、おいしいものを求める欲求はあるんですね。お坊さんが塀を越えてまでも食べたいスープというのが広東料理にあります。そういうものが尽きないのが人間、おいしいものを食べたいということで、擬製=形や味を似せたものが生まれていくわけです。なかには厳密にいうとこれが精進料理か、と思えるのもあったりしますが、人間は視覚から入りますからね。
川崎 精進料理で、僕が注目しているのは2点です。一つ目は、戒律で禁じられた食材があること。例えば、ニンニク。ビタミンB1とニンニクが合わさると、元気になる物質がカラダの中で作られます。不思議だなと思うのが、修行を考えたら、元気になるのをできるだけ排除して、欲望に勝つという修行よりも、元気になって出てきた欲望にさえ勝つ、ということも大事かな、と。
もう一つは、なぜ擬製が必要なのか。日本料理と中国料理には精進の場合、擬製という考え方がありますが、フレンチやイタリアンにはないんです。日本と中国の精進の源流インドにも擬製はないんですね。インドのベジタリアン、精進料理は、素材そのものを味わうのです。フレンチとイタリアンも,素材を活かしているところで違いが出ています。
そもそも、こういう話があります。おいしいのは、脳の扁桃体という部分で感じる感覚なんですけど、そこにはいろんな情報が入る。記憶、カロリー、舌や匂いの感覚などいろんな情報があって初めておいしいという判断になる。研究で、CM、噂、価格、そして視覚、見た目なども、おいしい判断にかかわってくるとわかっています。最近は、期待感を感じさせることで快感物質が出るのがわかってきました。見た目とかにも快感を出すような要素がある。だから擬製が行なわれるのではないか。
ところが、擬製には学習が必要だと思うんです。例えば、日本の和菓子は花を模してます。つまり擬製しますよね。花は普通食べないんです。食べないものをなぜ似させるのか。それは、情報を事前に与えておく、見た目だけでもいいから事前に与えて、バーチャル化しておくことによって快感を最後に高めるのです。
精進をいかにおいしくするかは、次の3つだと思うんです。バーチャル、油、ダシ。国安さんも油の話をされましたが、精進料理は油をかなり使う。野菜というのは本来、ヒトが好まない風味を持っています。それをある意味それだけでむりやり食べさせるのが精進であって、それにはバーチャルな部分と油とダシ。いろんな快感を無理やり集めないとたくさん食べられないのではないか、というのが僕の精進を見ている時の考え方なんです。
国安 期待感ということですが、例えば、料理人が料理を出すとき、ものすごく講釈をたれるとか、それでも期待感は高まるわけですか。
川崎 それは内容によると思います。国安さんの蟹に似せた精進料理も、蟹を思い浮かべながら食べると蟹の味が何となくしてしまうんです。実は、脳はそんなに厳密なものでもない。イメージによって大きく左右されるので、そういうこともあるのかと思います。
最後にダシの話です。日本栄養食料学会の調べでは、野菜のグルタミン酸の濃度は、ニンニクやサヤエンドウが高い、モヤシも結構高いのです。今日の料理でも、モヤシをダシに使われていますよね。いかに野菜を食べるために努力が必要だったかという話です。
国安 なるほど。精進料理のスープにモヤシが入っているんですが、なんでモヤシが入っているんだろうなと、ずっと思っていたんですよ。不思議でしょうがなかったんですけど。
川崎 いろんなものを試してみた中で、モヤシがおいしいな、となったんだと思います。



