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![「リクエスト・ワークショップ(1)70年代生まれの料理人とともに探る未来」Program 1:料理プレゼンテーション [日本料理]](https://food-culture.g.kuroco-img.app/v=1774927649/files/topics/592_ext_2_0.jpg)
「リクエスト・ワークショップ(1)70年代生まれの料理人とともに探る未来」Program 1:料理プレゼンテーション [日本料理]
Program 1:料理プレゼンテーション [日本料理]
講師紹介
「鯨すじ肉の土手味噌和え」

門上 上野さん、よろしくお願いします。テーマを何にしようかという時、最終的に「記憶」ということになったのですが、そのテーマで、今日のメニューは何を?
上野 鯨を使います。「玄斎」の客層が50歳前後です。鯨は、それくらいの方が懐かしいというか、ある種、独特の感情をお持ちの食材かなと思いまして、今日は鯨を使って「鯨のすじ肉の土手味噌和え」を披露します。あたたかいものです。鯨というと、世界から非難されたりしていますが。でも、西日本を代表する特殊な食文化を感じられる材料ですので、今日はあえて、もってきました。
門上 鯨は食材ですが、調理方法の中で、何をテーマに記憶に結び付けて?
上野 鯨は、好きな方と嫌いな方と分かれるところがあります。子供の頃に食べられた給食にあった、いわし鯨は独特のにおいがありますから、それを逆手にとって、どこまで癖を出して、どこまで癖を抑えるか。その加減で、若い方でも、それなりの年齢層の方でも食べていただけるようにしたいと思います。特殊な持ち味を増長させるために添えるもの、生姜、山椒、水菜など、昔、食べたハリハリ鍋とか、その頃を思い出して、食材を合わせることで記憶を呼び覚ますという感じです。
門上 では、よろしくお願いします。
上野 僕は神戸ですが、ただ一軒だけ、神戸で鯨のすじ肉を使っている居酒屋さんが新開地にあります。九州のご出身の方で、そこだけのために神戸の中央市場で仕入れています。それを、少しだけ分けてもらえないかとお願いしたら、これが結構、おいしいんです。牛肉よりも軽い感じで、少し特徴もあって。今日用意しましたのは、ミンク鯨です。鯨の中では癖の強いものですが、すごく状態がよかったので、臭みはないです。びっしりと、すじなんですけども、これを煮込むと、大体、4、5時間で柔らかくなります。圧力鍋を使われる方もいらっしゃると思いますが、僕はゆっくり炊いていく方がわりと好きなんです。すじ肉を回しますので、見てください。
鯨のすじ肉を一回煮こぼします。熱湯に入れるとギュッと固まるので、水から湯がいて、灰汁が出てくるので、これを取り除きます。これで一回さらして、汚れとか、ぬめり、灰汁が固まっているのを取り除きます。さっと湯がいただけですので、包丁で切ります。繊維が粗いです。繊維に逆らうように切っていきます。ここについている肉もおいしいですね。一口大に小さい目に切っていきます。これをもう一度、湯がき直します。
次は大根。肉が500gに対して300gほど。大根は肉を柔らかくすることもありますし、甘味が出てきます。煮汁も甘味を出すために使います。大体、4時間くらいたったくらいからグッと柔らかくなります。スッと串が入ります。お湯を継ぎ足しながら4、5時間炊いていきます。
炊くと、かなりとろとろとした感じです。土手焼きのようなものです、これに味をつけます。濃い口が大さじ1、薄口が大さじ2分の1、ちょっと濃い目にしています。割烹料理は一つの材料を使い回します。だしで割ったりしながら使いますので、和え物に関しては味噌が混ざりますので少し薄めにしてもらってもいいかと思います。水と昆布と調味料を入れて30分くらい炊いてもらうと味が出ます。
だし、煮汁を600ccだけ残しておきます。残りはキッチンペーパーで漉して、衣になる味噌を練る時に使います。お酒が入りまして。煮汁を漉したもの。かなり柔らかい触感です。店では、もう一度裏ごしをかけています。これを火にかけます。こうやってシュンシュンと沸いてきますと、火をとろ火にして最後の方はつききりですが、1時間くらいで、いい固さになってきます。根気がいるんですけど。割烹料理の店で牡蠣の土手焼きとかする時に、土手味噌という煮詰めた味噌をつくっておきます。鍋に入れて牡蠣をほりこむ。こういう状態でつくっておきます。
次は水菜。湯がく場合もありますが、今の野菜は灰汁もなくて、水菜も直接炊いて食べます。湯がいてしまうと色はきれいですが、味が水臭くなりますので青味は直接だしで炊きます。灰汁のあるものは一度湯がいたり、茹でこぼしたりしますが、今日は生だし、鰹の一番だしを沸かして、この中で湯がいていきます。ハリハリ鍋というくらいで、あまり煮すぎたらだめですね。さっと乾くくらい。ハリハリ鍋は水菜を箸でとってお鍋の中で「のの字」を書くくらいで。これは引き上げまして、肉の残りの煮汁に味付けをしていきます。今日は味噌、醤油ベースに混ぜこんでしまいますので、水菜の輪郭をはっきりさせるために塩けを強みにして醤油は薄めに、という感じです。
味をつけたものを冷ました状態で漬けておきます。2、3時間漬ければ十分使えると思います。これが2、3時間漬けたもの、これが炊きあがり。これもいい感じで炊けていますので。仕上げですが、最初に1人前のお味噌をかけまして、このまま火にかけると焦げたりしますので、煮汁で伸ばしていただいて。お鍋の中に味噌を溶いていく。今回は和えるという感覚で、混ぜながら濃度がつくまで温めまして、粉山椒をこの時点で多めに入れます。鯨を入れて、水菜を入れます。さっぱりと。あとは盛りつけです。
大阪っぽい食べ物です。コクがあって、寒い時期はいいですね。水菜は霜がおりていませんから、ある程度、固いんですが、来月くらいになると、どんどんおいしくなってきます。生姜と山椒は鯨の出合いものです。これで完成です。



門上 鯨は哺乳類ですが、魚料理としてとらえるのか、肉料理として、ですか?
上野 これは微妙なところで、土手焼きに関しては哺乳類ということでとらえるんですが、扱っていると魚という感じがしますので、肉ではないかということを感でもらって、生姜は匂い消しで入れますが、生姜を入れなくても食べられる感じですが、わざと入れることで、魚っぽい癖もでるかな、と。
門上 生姜を入れることによって、ある種、癖を出すと。
上野 記憶を思い出すという。
門上 料理のコースの中では、どのへんに出てきますか?
上野 コースでは出しません。一品料理で、あたたかいもの、ほっこりしたもの、お酒を飲まれる方に日本酒のアテで「そんなにおなかはすいてないけど、なんかない?」という時にお出しするという。コースは、鯨は難しいです。
門上 本日は川崎先生にも来ていただいていますが、「記憶をゆさぶる」というテーマの中で鯨の料理を見ていただいて、どういうふうに思われましたか?
川崎 調理科学的な話からすると、ハリハリを、もっとハリハリさせたいと思うと、加熱を60℃くらいで、数分加熱するとペプチンが固まって、もっとハリハリとする可能性もあったりします。今日は記憶ということから考えると、僕は食文化も記憶と思っているんですね。食文化はその土地で育ってきた野菜、肉なり、その土地の文化を味わうということだ、と。個人としては例えば大阪を思い出して食文化を食べることやな、と。そういう意味で面白いなと感じました。鯨は哺乳類ですけど、食べているものがオキアミとかイカとか、牛とは違います。牛は植物性のものを食べますから。そこでも香りが違っていて、その香りが鯨独特の香りを呼び起こすというのがあると思います。

門上 この料理は、大阪の食文化を呼び起こす力をもっている、そういう記憶だと。確かにそうですね。京都では出てこない料理ですね。
村田 京都では絶対に出てこないですね。それでいいと思うんです。彼がやっているのは基本的には京料理なので、京都の手法で調理しているんですが、最終的に出来上がったものは大阪人にとってはうれしいですね、これは。最初に出してもコースの中に入れても大丈夫やと思います。水菜を60℃でセルロースを糖化させたら、もっとシャリシャリするでしょうし、別にそのまま固めてしまえば冷菜にもなるでしょうし、鯨のすじが、こんなにおいしいものやとは思いませんでした。牛肉のすじより、よっぽどおいしいのではないかなと思います。
上野 鯨の力です。大将のやさしい言い方で、ありがとうございます。
門上 藤原さんも高山さんも、出身は大阪ですけど、鯨は、どんな素材でしたか?
高山 小学生の頃から、給食で鯨のから揚げが大好きで、たくさん食べていたというイメージしかなかったですね。
藤原 鯨はあまり記憶がなくて、あまり食べたことがないんですけど、土手焼きとかは懐かしいなと思いました。
門上 鯨という言葉自体が大阪的なんですね。
上野 京都とか神戸では、あまり聞きません。大阪には鯨カスとかハリハリとかありますので、胸張って鯨を使ってもいいのかなと。
門上 その言葉だけで、道頓堀のおでん屋さんの名前が浮かんでくるような。言葉も、ある種、強い記憶というか。
上野 親父(上野修三さん)の料理メモの最後の最後に鯨カスが載っているんです。よう覚えていますね。油っぽいものを食べられない年齢の方でも、鯨というのは懐かしく思われるみたいです。
門上 ある種、大阪のイメージを持っている。いろんな世代の方に満足していただけるというところがありますね。手法的には、どこに注意されましたか?
上野 それは大事なことだと思います。臭みをどこまで抜くか、若い人は知らない分、臭みを受け入れてくれたりするかもしれませんが。鯨の場合、癖を抜きすぎたら何だかわからなくなります。癖の出し加減に注意しました。
門上 木下先生も大阪生まれですけど、この料理はどういうふうに?
木下 鯨はあまりいい印象はもってないですね。すき焼きが鯨でしたので、泡が一杯出てね、血なまぐさいという、いい印象ではない。ですが、何か頭の中で鯨は懐かしいです。おいしさは、おいしくなくてもノスタルジックなことがあって「ああ、食べてみたいな」と。決していい印象ではないけれども、食べたい。今日は、油の感じもなく、大変おいしかったので。鯨って、こんなのだったのかなという感じを受けたところはあります。もっと噛みごたえとかがあると、もっと郷愁とを呼ぶとか、記憶をゆさぶるというか。今、高山さんが鯨を知っていると聞いて、驚いたんですが。まだその年代でも鯨が給食にあったんですか。その方がびっくりしますよね。ところで、大根ですが?

上野 土手焼きに使ったりする時は入れてます。
木下 大根は4時間も炊くと柔らかくなって。
上野 大根自体は、とろとろになります。これに入れても問題はないんですが。ある程度、痩せてきますから。
木下 その大根も食べてみたかったです。
上野 よろしかったら後で。おいしいですから。
門上 確かに、おいしいですよね。上野さん、どうもありがとうございました。

