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「リクエスト・ワークショップ(2)70年代生まれの料理人とともに探る未来 Part.2」Program 2:ディスカッション

「リクエスト・ワークショップ(2)70年代生まれの料理人とともに探る未来 Part.2」Program 2:ディスカッション

Program 2:ディスカッション

講師紹介

コアメンバーの、村田 吉弘氏(「菊乃井」3代目主人)、山口 浩氏(「神戸北野ホテル」総支配人・総料理長)、山根 大助氏(「ポンテベッキオ」オーナーシェフ)、木下 幸治氏(辻調理師専門学校フランス料理主任教授)。そして、料理のサイエンスでお世話になる川崎 寛也氏(農学博士)。いつもはステージに立つ皆さんも、今回は客席で各実演を見守り、客席から参加してのディスカッション。会員同士の交流を深める会になりました。
進行:門上 武司

門上 さて、プレゼンテーションが終わりました。各者とらえ方が広くて、それぞれがデザインをどのように考えておられるか、一言では難しいですが、まず、高橋さんは椀ものを具体例にして「調和」という考えを出されました。

高橋 いろんな調和があると思いますが、微妙なバランスをとるというような意味を表現してみました。突出したりしない、マイナスの要素も織りまぜながら、トータル的に満足度の高いもの、なおかつダシが一番おいしく味わえる感覚、というようなことを試みました。

門上 マイナスの味も含めて全体の調和をどういうふうにしていくか、日本料理の中でもデザインは大事なんですね。山中さんは、前菜を例に、お客さんのオーダーによって構成を変えていくとか、「構成」というキーワードが出ていましたが?

山中 構成、構築、自分の中で足し算することなど、諸先輩方のお話を聞き、どこかでマイナスにすることも大事なのかな、と思うようになったのです。

門上 構成していくと今の段階では足し算になっていくんですけど、引き算もどこかで必要だなということですね。高山さんは、器の選択も含めてのデモでした。デザインで大事にされたことは?

高山 その人の個性を表現する、伝えることでしょうか。器もそうですし、コースの流れにしてもそうです。どういう方向性で料理を作っていくのかというのがデザイン、表現なのかなと考えました。

門上 川崎先生には、風味のデザインだったり、時間のデザインだったり、デザインすることの大切さを投げかけていただいています。今回のテーマで定義というのをお聞かせいただきたいと思います。

川崎 僕の中では広いとらえ方をしていて、一言でいうと「本質をとらえる」ということなんです。つまり、何か表現したいものが必ず先にあって、それを表現していく。季節、伝統など、自分が表現したいものが先にあって、その後、技術と食材を選択していく。それがデザインをして、料理を考えるということではないかなと思っているんです。「先輩がやっていたことだからやる」のではなく、「この材料はこれに替えてもいい」ではなく、「この材料でしか表現できないものがある、だからこれを使う」ということを、ガストノロミーが進化していく中でしていけばいいのではないか。そのためには、本質をいかにとらえるかが大事だと思うんです。つまり、料理って何なのか、我々の仕事って何なのか、料理を食べるとは何か。例えば、椅子をデザインするのと同じです。流行りや見た目を表現して形にするのではなく、座るってどういうことかを考えて、椅子を新たにつくりだすこともできる。そこまで深く考えてデザイナーはデザインしているのではないか。それを料理人に当てはめれば、そうやって新たな料理ができていくのでなはないかと思っているのです。科学者である僕がなぜここにいるか。科学は本質をとらえていこうとします。例えば、人間の構成要素は細胞で、その中には遺伝子があったと明らかにしてきたじゃないですか。それと同じように、デザインの考え方は本質を見いだすことだと思って提案しているのです。科学的なことを理解するのは必須条件ではないですが、使えば効率よく本質を考える役に立つこともある。先程のレモングラスの話でも、香り成分は脂溶性で、油脂に溶けることを知ってさえいれば、試行錯誤の回数が減るかもしれない。その時間が減ればもっと新しいことを考える時間が増えるかもしれない。そういうことなんです。科学はただの道具であり、それを使って何を作りたいかが大事なんです。

門上 木下先生はデザインということについて、どのようにとらえられていますか。川崎先生とは違う立場で考えられていることがあるかと思いますが。

木下 デザインは誰のためにするのか。料理人が誰のためにあるのか。と考えていけば、お客さんのためにデザインするんですね。もともと料理人の仕事はお客さまの問題よりも先に、食べにくいものを食べやすくできる技をもつことでした。こういう切り方をしたら食べやすくなるという技をもっていたのが料理人と呼ばれるようになったんです。その時、すでにデザインは始まっている。食べやすくする、食べやすいように切る、そう考えると、今とあまり変わらないのではないかと思うのです。根本的に、素材をおいしく食べさせようとするには、煮たり、焼いたりします。しかし、食べるのはすべて脳で感じながらです。料理人が表現しても、食べるお客さんがまったく同じように感じるかどうかはわからない。つまり、どう表現して、どう感じさせるかは感覚の問題のような気がするんです。感覚をどう研ぎすますか、これからは料理人にも学ぶべきことは多くあると思います。科学的なこともそうだし、感覚的なこともそうです。自分も体験しないといけないので、他の料理人の料理を食べにいくことも必要でしょう。お客さんに食べてもらうところでデザインは生まれる。料理人には経験重視。いかに若くてもたくさんのことを体験できて、デザインを自分で描けるのだと思います。

門上 今回は、会場の皆さんに質問を書いてもらいました。先ほど集めた中から、いくつか投げかけてみます。まず、髙山さんに香りの違いについての質問です。「茸で十分香りがあると思いますが、なぜ香りの強いレモングラスとかお使いになるのですか」。

高山 料理するときに、もっとこれもできるのではないかということをやるんですけど、フランス料理は多彩に料理を仕上げていくものと思っています。ソースも、コニャックとかボルドーとかを煮詰めて、そこにもう一度おいしいダシを煮詰めてソースにしたり。ハーモニーですかね。ワインも同じように複雑性のあるほうが評価は高い。今回も、いいマリアージュになるようにレモングラスから入ってみると、意外と点が線につながっていくのです。お客さんにもただ茸を食べるのではなく、こういう発見があると楽しいのかなと思い、重ねていきました。

門上 次は皆さんへの質問です。「器以外で季節感を出すには何がありますか」。

高橋 日本料理は器に頼っているところが多いですが、食材で季節の流れを意識してとらえて使うのが基本になっています。その中でどう使うか。蓮根のデンプンを生かした形とか。鮑が名残になって旬の頃はどう使うか。全体にボトムアップする仕立てにして料理を構成するのは、季節を意識しているのです。しつらえでは、お花とかも重要になってきて、きっちりと演出するのが必要だと思います。

山中 今の季節、イタリア料理店では、いい香りがしてくると思います。季節感を出すにはトリュフとか、春先だと青っぽい野菜の香りとか。店で季節感を表現するとなると、香りですね。ワインの構成とかも大きいかなと思います。

高山 第一は食材です。あとは温度も大きい。それに香りなのかな。そういうもので季節は感じていただけると思います。日本料理の季節の表現方法がフランス料理にはないものなので、もっと勉強することはたくさんあるなと思いました。

門上 前回のpart.1に出演いただいた髙山龍浩さん(「トゥール・モンド」オーナーシェフ)、前のテーマは「記憶」で、高山さんも茸を使っておられました。季節感も感じられる料理だったように記憶しているのですが。

高山 料理は、ロワールをイメージした、茸に見立てた小さなラヴィオリ仕立てでした。パスタの生地にロワール地方のザリガニやポルチーニをはさんで、ボイルするのではなく、枯れた感じを出したかったので香ばしく焼きました。その上に茸のサブレを重ね、一口で食べてもらう料理でした。そうした演出をするのはデザインと共通すると思います。お客さんにインパクトを与え、どういう演出をすることによって自分のテーマに引き込むことができるか、コースの流れをどう表現したいかを伝えていく。「おいしい」の次の部分で、どう楽しかったのか、どういう記憶を呼び起こしていくのかを追及していきたいと思っています。今日は皆さんの考えをうかがえて、よかったです。

会員からは直接こんな質問もありました「デザインは新しいものを創造することにつながると思いますが、どういうものを参考にして新メニューを考えられているのか。それを教えていただいてヒントにしたいなと思います」

高橋 メニューを考える時は食材から入っていきます。どういう食材をどんなふうに食べたいか。自然な味のままを食べたいのか、何かとあわせて深みを出したいのか、などと考えながら作っていきます。自分の経験の中で食べることも、作ることも踏まえ、経験した中で構成を決めていくのです。それが香りなのか食感なのか味わいなのか、どう食べたいかにもよりますので、一概に何からいくということではありません。なにかしら自分が食べたい感覚をもっているものが先にきて、お客さんにもこういうものをお出ししたいという部分で探りながら作っていきます。何を参考にするか思い起こせば、歳時的なものとか自分の経験の中にあるものとかを引き出して考えることが多いです。

山中 僕も自分が経験した中から考えることがメインです。本を読んで、これとあわせたらどうかなと考えるようにはしていますし、お土産でもらったお菓子を食べてデザートを考えるときもあります。失敗しても間違っていても、発想し続けることは常にしています。

高山 ここ数年は、和の表現方法を勉強しています。和食の本をみて、和の会席とか日本の食材をみて、フランスの季節の食材と比べたりしています。あとは自分なりに、どういう食材を並べたいか構成していって、食材が決まった段階からお客さんに出したい料理を考え、それからフランスの本をみながら試作します。日本の食材、季節に、フランス料理がどう入り込むかという感じでやっています。いったりきたり、なんですが。

門上 おそらく皆さんの中にも、もう一歩進めたらお客さんに出せるというのがあると思います。そこに、今日のテーマ、デザインの整理によって、一つの突破口がみえたりすれば、うれしいですね。村田さん、今回は発言の機会が少なくて申し訳ありません。若手に三人三様のプレゼンをしていただきました。どんな感想をもたれましたか?

村田 料理そのもの自体がデザインなんです。料理のジャンルはいろいろありますが、ボーダーはもともとなくて、デザインの違いだけです。デザインが違うから表現方法が変わるだけで、科学的な論理は一つです。どのように火を入れて、どのように作るかは、料理人のデザイン。これからボーダーはもっと狭まって、個人のデザインの時代になっていくだろうと思います。今まで若い時にそれだけ料理について考えていたかどうか。今の若い人はみな偉い。これからいく道は、科学的な分析によって自分の思い描くデザインが簡単になる。何が足らないか、何を基準に考えたらわかるかが、わかるということが重要なのですね。デザインするというのは、闇夜で真剣を振るうような危ないことしてもしょうがない、あくまで、たまたま、頭の中でロジカルで計算できて、作り出せるというのが僕らの仕事なので、それは他人の料理をいくら見ていても出てこない。いろんな本を読んで知識を吸収して科学的に何がどうやったらおいしくなるか考える。でも、おいしいものを、というけど、そんなにおいしいことが必要かという考え方もあるわけで、「ノーマ」の料理なんか、何もうまくない。けれど、それが世界で受けるには理由がある。世界で食事をする人が何を求めているかが、料理人が考えていることと違うかもしれない、ということがありますよね。そういうことを考える能力、考えるきっかけをもつことが、料理をデザインするということではないかと思います。

門上 わかりやすくて、ありがとうございます。それで、今日の3人の料理についてのコメントは?

村田 まあまあやね(笑)。あんな複雑なことを複雑に考えんでも、もっと簡単にできる、というのはいろいろあって。若いころの山根の料理をみているような、要素いっぱいで、たっぷりや。彼も歳を重ねると、それがわかってしまうところがあるのやろね。どうやったら早くわかるのか、それはなかなか難しい。高橋君の料理も、お父さんの料理と違う。お父さんの料理のもっていき方と彼のもっていき方が全く違う。それでこそ、彼の15代目でいる理由ができる。お父さんと同じようにしていたのでは世代は新しくならないのだから。これは新しい世代やなと、僕は思いました。確かにおいしいし、お父さんが作っていたものより軽い、軽妙やなと。それは、時代なんやろうなと思いました。

門上 まあまあやなというのは、肯定的な意見ですね。あかん場合は手厳しい意見がとんでくることが結構ありますから。思ったよりは面白い展開になった、これからどんどん変化していくだろうというご意見だと思います。 料理は味だけではなく、そこに埋め込まれた要素はいっぱいあるので、科学的な勉強もしないといけないし、他の勉強もしないといけないということが、デザインという幅広いテーマから見えてきた。ひょっとすると料理がデザインだという、自分の料理をどう表現するのかがデザインにかかっているという、結論ではないですが、そこから皆さんの料理が変わっていったり、新しい世界が広がっていけばいいなと思いました。

会場の会員の皆さんからいただいた質問はまだまだあります。「実際に今日の料理のメインの食材は何か」「引き出したいのは何か」「ウニと蕪の相性は抜群でしたが、ウニ以外だったら何を使いますか」など、それに、自分のデザインについての考えも書いていただきました。本日も、70年代生まれの若い世代のセッションは、興味深い展開になりました。最後にもう一度、感想を述べていただいておしまいにしたいと思います。

高橋 デザインという一番大事なテーマをいただきまして、改めて今後、どう表現していかないといけないのかを見つめ直しました。本質を早く見つけられるように一生懸命勉強していきながらやっていきたいと思います。ありがとうございました。

山中 またまだ、だめだと思いました。川崎先生がいわれた、料理人が当たり前にやっていること、当たり前を、もっと考えて、違う観点から突き詰めていったらいろんな表現ができ、違うものが作れたかなと。これから勉強させていただきます。ありがとうございました。

高山 自分の中でデザインを考え、季節とか名残とか考えたんですが、逆に今回、そういう括りも必要ないのかもしれない。ものの本質には、そういうことが一例にあるだけで、何と何をあわせたらいけないとかはないと思うので、自分なりにいろんな形で、どう伝えるか、そういうことを考えていきたいと思いました。ありがとうございました。

門上 この会場に同席するすべてのみなさん、ありがとうございました。次回は春を予定しています。大阪に移り、新たなテーマで14回目の関西食文化研究会を予定しています。また、よろしくお願いします。

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